(32)申し込み、受領
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アイリからオトとクファの現状を聞いて少し思うところがあったので、その日の夕方は広場にあるデパートを訪ねた。
デパートではプレイヤーメイドの品物が手に入るので、秘密の買い物をするにはもってこいだったりする。
それ以外にも元の世界の考え方から作られている品物が多いので、特別感を出すにはちょうどいいという理由もある。
そこにあるアクセサリーショップでニマニマしたプレイヤーに見送られながらある物を手にした俺は、そのまま移動中の船にとんぼ返りをした。
そして夕食を済ませてまったりとしているときを狙って、アンネリとアイリに話しかけた。
ちなみにこの時間は皆が気を使っているのか、いつも三人だけの状態にしてくれている。
「あ~。二人ともちょっといいかな?」
「何、改まってどうしたの?」
「何か問題でも起こりましたか?」
二人の答えが普段の様子を物語っているなと反省しつつも、雰囲気に押されないように勢いのままデパートで購入した商品を二人にそれぞれ渡す。
不思議そうにしながらもそれを受け取ってくれた二人に、丁寧にラッピングされているプレゼントを開けるように促した。
言われるがままに開けていたアンネリとアイリだったが、箱の中に入っているものを見てすぐに状況を把握したようだった。
それとほぼ同時に、これまでに見たことのないような表情を浮かべた。勿論、悪い意味ではなくいい意味で。
二人に黙って用意したそれは、シルバーで作られているネックレスだった。
ちなみにこちらの世界では婚約指輪を送るという風習はなく、何かしらのアクセサリーを送ることがそれと同じ意味になる。
余談だが、一緒に買い物をしている時に買ったものではなく、黙って用意するというのが慣例となっているらしい。
「キラ、これって……?」
「うん。まあ、そういうこと。大丈夫ちゃんと意味を分かっていて送っているから」
俺がこちらの世界の常識に疎いと分かった上で確認してきたアンネリに、きちんとそういう意味だと分かっていて返した。
その答えを聞いたアンネリとアイリは、何度もネックレスと俺の顔を見比べていた。
「あのね。誤解してほしくはないのだけれど、きっとアイリも同じだと思うの。その上で確認したいのだけれど、何故突然? てっきりもっと後になると思っていたのだと私は考えていたのよ?」
「言いたいことは分かるけれど、猶更自分が情けなくなるなあ……。自分の常識で考えていたけれど、きちんとこちらにも合わせないと駄目かなと考えただけだよ」
アンネリとアイリは二十代の前半で、俺の中では婚約や結婚をするにはまだまだ余裕があるという考えがある。
ただそれはあくまでも自分の中の常識であって、こちらの世界では二人ともそろそろ行き遅れと言われてもおかしくはない状況になって来ていた。
二人とも全く気にしていなかったので特にこちらも意識していなかったのだが、アイリからオトとクファの話を聞いてそれだと駄目だと思い直した結果だ。
きっかけが引き取った子供二人になっているのは自分でも情けないとは思うけれど、それもまた自分らしいかと諦めている。
「昼にオトとクファの話をしてから少し様子がおかしいと思っていましたが、これを用意していたのですね」
「うん、アイリ。それは正しいけれど、少しばかり情けなくなりそうだから言わないで欲しかった」
「大丈夫よ、キラ。私もアイリもそんなことで嫌いになったりしないから。とてもキラらしい話じゃない」
「わざわざ、追い打ちをありがとうアンネリ」
わざとらしく顔をしかめてそう返すと、アンネリとアイリは同時に顔を見合わせて笑っていた。
こっち方面のことに関しては、完全に手のひらの上で転がされている。
今更恋愛上手を気取るつもりはないので、それはそれで構わないのだけれど。
「――それはいいとして、まだ返事を聞いていないんだけれど?」
「それは勿論OKよ。でもね、キラ。私たちの常識だと受け取った時点で受け入れるという答えになるから気をつけてね。無知のあなたに付け込んでくる人もいないとも限らないから」
「え……それは知らなかったなあ。ただ俺は付け込まれるほど目立たないから大丈夫じゃないか?」
心底不思議に思って言ったことだったけれど、これまた二人は顔を見合わせてため息を吐いていた。
普通に町中を歩いているだけだとユグホウラの関係者だなんて分かるはずもないし、顔立ちだって何とか頑張ってフツメン上位になれるかどうかなのでハニトラなんてされるはずがないと思っていたのだが違っていたらしい。
勿論これは、俺の事情を知った上で近づいて来るこれまで関わった人たちは除いての話だ。
――と、思っていたんだけれど、二人からは見事にもう一度ため息を吐かれてしまった。
「これだからね。アイリ、分かっていると思うけれどこれからもしっかりと手綱を握っておくのよ」
「わかっていますわ。ハロルドにもよく言っておきましょう。あとはトムですが、シーリがいるので問題はないでしょう」
「そうね。トムの場合は経験不足だけだから後何年かすれば問題は起きないでしょう」
「いや、あの。本人の前で話すようなことじゃないと思うんだけれど?」
「あなたは、こうでもしないと自覚できないので仕方ないでしょう」
「あ、はい。すみません」
反射的に誤った俺に、アンネリが満足そうに頷き返してきた。
恋愛方面に関しては完全に信用されていないので、下手に反発しても意味がない。
元の世界にいたときには……いや。もっと言うと二周目を始めるまではもう少しましだと思っていたのだけれど、年々そちら方面の能力が低下して行っている気がする。
そんなことを口にすれば突っ込みを受けることは分かり切っているので黙ったままにしておいたけれど。
これ以上のことを考えても自己嫌悪の沼に沈んでいきそうだったので、話題を変える意味でもネックレスを用意した時から考えていた今後の予定を話すことにした。
「自分の恋愛関係は完全に信用がならないと自覚出来たところで、ちょっと考えていたことがあるから聞いてもらえるかな?」
「あっさり認められるとそれはそれで拍子抜けするわね。それで、何の話かしら?」
「そこまで畏まるようなことじゃないんだけれどね。今乗っている船の行き先はシーオのどこかと決めていたけれど、どうせだったらアルムクヴィスト辺境伯領を目指そうかなと」
「……私のことを気にしているんだったら、気にしなくてもいいわよ?」
「気にしていないと言ったら嘘になるけれど、それだけじゃないかな。ただ単に結婚することをご両親に報告に行くだけだ。反対されたらされたでその時にまた考えればいい」
「いえ。反対されることはないどころか、むしろさっさとくっつけと言うと思うわ。さらに利益を上乗せするつもりで」
「だろうね。そうじゃなきゃ、貴族なんてやってられないとすら思うよ。でもまあ、今のアンネリだったら俺なんか頼らずにはねのけるくらいのことは出来るだろう?」
「……そういうことね。確かに、そういう意味でも一度は決着をつけておかないといけないわね」
こちらの言いたいことが完全に伝わったのか、アンネリは納得した表情になっていた。
今のアンネリと実家との繋がりは、ヘリがいなくなってからは完全に宙ぶらりんの状態になっている。
それはユグホウラと繋がりがある俺との関係を考えて、敢えて少なくとも公には接触していないことになっているわけだ。
以前に色々あってギクシャクしていた関係だったのを、折角の機会なのできちんと整理をしたらどうかという提案だった。
結果がどうなるかは実際に話をして見ないと分からないのだけれど、あとは完全にアンネリにお任せになる。
今更アンネリに事を疑うつもりはないので、好きなようにしてみたら良いというのが今の俺の考えだった。
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