(31)成長
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掲示板で荒ぶっているプレイヤーやその背後にいるであろう運営さんが何を考えているのかは分からない。
とはいえ無理に知ったところで何かできることがあるとも思えないので、基本的に放置をするというのが一番だと思う。
いや。一つできることがあるとすれば、アンケートで問われている違うサーバー同士での直接交流の場を作らないということか。
直接交わることがなければ、いくら掲示板で暴れていようが実害なと発生するわけがない。
向こうもそのことは理解できているはずなのだけれど、敢えてこの段階で暴れさせている意味が分からない……のだけれど考え過ぎても仕方ないとも思う。
ちなみにアルさんを含めた俺たちがいるサーバーの運営さんたちは、基本的には自由にしていいという立場は最初の頃から変わっていない。
それが居心地がいいので文句を言うつもりなど全くないのだけれど、それでいいのかとも思う。
まあ、そこはこちら側が考えることではないので、アルさんたちが何かを言って来るまでは考える必要はないだろう。
話は変わって、とりあえずは自分の足元を固めるためにも世界の『格』を上げるように動くことにした。
ただ簡単に世界の格を上げるといっても、そうそう簡単にできることではないことは分かっている。
以前から世界に流れるマナもしくは魔力の量を増やすことが出来ればいいのではないかという議論は掲示板内で話されている。
それを確かめるためにも様々なことがプレイヤー間で試されているのだけれど、残念ながら目に見える効果が出て来たという話は聞いていない。
「歪みとマナ、そして魔力か……」
「突然どうしました? 歪みについてはまだまだよくわかっていないのが実情ですよ?」
そんなつもりはなかったのだけれど、ついつい出てしまった言葉にたまたま近くにいたアイリが反応した。
世界樹の巫女であるアイリは、最近では歪みに関する研究を熱心に進めている。
もしかすると俺自身を含めて世界中を探してもアイリほど詳しい人間はいないのではないかと思えるほどだ。
「いや、ごめん。別にそういうことを聞きたかったわけじゃないんだ。ただ何となく思い浮かんだことが口に出てしまっただけ」
「そうですか。ですが、今回の旅で多くの地を巡っていることで分かったことも幾つかありますわ。資料をまとめるのも重要ですが、やはり現地から得られるものに勝ることはないのでしょう」
「そう言ってもらえると有難いね。ただ単に長旅をしているだけだと意味がない……とまでは言わないけれど、その生活に慣れてしまうこともあるからね」
「フフフ。皆がそれを分かってしっかりと勤めを果たしているというのは、やはり上に立つ者がしっかりしているからでしょう」
「そんなつもりはないんだけれどね。というか、上に立つって言える程偉そうにしているかな、俺は」
冗談だと分かっていても思わず顔をしかめてしまったことに対して、アイリはクスクスと笑い返してきた。
アイリやアンネリからは時折威厳が足りないと冗談交じりに言われているのだけれど、どうも性分的に偉そうな態度にはなれないことは自覚している。
今のはそのことを逆手に取ったアイリらしい冗談の一つだったようだ。
「まあ、いいか。それよりも地脈に触れられるようになったことで何か変わったことは起きていない?」
「特には……いえ。これは気のせいかも知れませんが、もしかしてということならあります」
「へえ、あるのか。それはどんな変化?」
「あくまでも感覚的なものですが、歪みが発生する前の状態が分かるようになっている……かもしれません」
「感覚的ということは、経験則から来るものじゃなく予知とかの類かな?」
「予知というと少し大げさでしょう。どちらかといえば占いに近い感覚かも知れません」
「占いか。なるほどね」
歪みに対する確認方法は、本当に人それぞれで違っている。
アイリが『占いのようだ』と思うのであればそれを否定することは出来ない。
ちなみに俺自身は、元が世界樹ということもあって視覚的に見える場合と魔力の流れの変化を感じ取ってから歪みを確認している。
眷属たちの場合も魔力の流れで違いを感じ取ってはいるが、具体的に歪みとして見ることは出来ていない。
それらの差がどこから来るのかは、やはり世界樹の巫女としての素養があるのかどうかということまでは分かっている。
「それから歪みに関しては、私よりもクファのほうが感知能力が高いかも知れません」
「クファが? それはまた。アイリが言うなら間違いはないんだろうけれど、意外……でもないのか」
「キラさんが見出した才能ですから、私としては何も不思議は感じないのですが?」
「それは買いかぶりだよ。オトやクファを育てようと思ったのは緑の魔力を知覚できていたからで、そこまで予想できていたわけじゃないかな」
「そうなのですか。いずれにしてもキラさんが見出せたのは、二人にとって幸運だったのでしょう」
「どうかな? 余計なトラブルに巻き込まれやすくなったともいえるだろうけれど、それを決めるのは俺じゃなくてあの二人がそれぞれ自分自身で考えることだろうと思うよ。こっちから押し付けるつもりはないかな」
以前の世界と比べてはっきりとした師弟制度があるこの世界では、この考え方はどちらかといえば無責任といわれてもおかしくはない。
師匠となった者は、最後まできっちりと責任を負うというのが当たり前という常識の中で、仕事の世話をしないというのは責任を放棄していると見られがちだからだ。
職業選択の自由ということが当たり前だった世界からきた俺としては不思議な感じはするのだが、親が子供の師匠が弟子の仕事を用意するのは当然と考える世界だからこその感覚だろう。
もっとも俺もそこまで二人を突き放すつ折りはない。
というよりも、オトもクファも既に冒険者としてやって行けるだけの実力はあるので、既に責任を果たしているともいえるのだけれど。
とにかくあの二人が何か自分の道を見つけることが出来た場合は、それを全力で応援をしていきたいと考えている。
そんなことを考えていたら何故かアイリが意味ありげな視線を向けて来た。
「そんなに心配しなくとも、二人とも既に道は決めているようですわ。いえ、違いますね。できる限り現実になるように話をしているというべきでしょうか」
「え、なにそれ? そんな話、聞いたことが無いんだけれど?」
「それはそうでしょう。いつか生まれた子供も一緒にキラさんに仕える、なんて本人を前にして言えるわけがありません」
「いや、仕えるって。そんなのトムとかハロルドだけでも十分何だけれど? 二人は俺の奴隷じゃないんだけれどな。それに、子供って、もうそんなことを考えているのか?」
「フフフ。そう言うだろうと分かっているからこそ、二人とも口にしないのですよ。子供については、既にクファが成人したら結婚をすると決めているのですから、今から話に出てもおかしくはないですよ」
「……そういえば、オトはあと数か月もすれば成人か。クファもその後に続くんだったよな」
子供の成長は早い。――ついそんなことを考えてしまったのは、自分が年を取ったからだとは思いたくはない。
あの二人がくっつくことは当人たちの様子からも分かり切っていたことだけれど、それにしてもそんな話さえしているのかと驚くしかない。
結婚年齢が早い環境だとそんなものだと言われるかもしれないけれど、自分が『大人』になり切れていないのではないかと変に考えてしまった。
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