(30)訓練と考え方の違い

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 地脈の中央に来たのはいいけれど、肝心のアルさんはいなかった。

 アルさんも忙しい人なので、それは予想の範疇だった。

 ここまで来たのは別にアルさんに話を聞きたかっただけではなく、日課の訓練をするためでもある。

 ただその前に、ガイアに現在の地脈の状態を確認することもほぼ毎日行っている作業なので、それを済ませておいた。

 現在のガイアの立ち位置は、地脈の状態管理や突発的な事故が起きたりしないように現状を維持するための細かい作業を行っている。

 以前、世界樹の中でマナ(もしくは魔力)の流れを整えるためにやっていた作業の星版の作業になる。

 俺自身もやろうと思えば出来なくはないのだけれど、まだまだ技術的にはガイアの方が上なので大部分はお任せ状態になっている。

 そもそもアルさんに言わせれば、ガイアはそのために用意されている存在なので、逆に俺が全てを行ってしまうと存在意義を失ってしまうとまで言われている。

 

 というわけで、世界の管理者としての日常的に必要な業務はほとんどガイアがやってくれているし、ほぼ素人の自分が手を出すことはない。

 では普段は管理者として何をやっているのかといえば、マナを自在に扱えるようになるための訓練になる。

 アルさんのような存在からすれば、管理者になれたとしてもまだまだひよっこもひよっこで魔力の扱いと同じように訓練は必須になる。

 そんな理由により毎日のように地脈の中央に来てはマナの扱いの訓練に勤しんでいるというわけだ。

 

 アルさんから最初に出来るようになった方がいいと言われたことは、結界のようなものを作れるようになった方がいいということだった。

 何しろマナは世界を形作っている根幹の力なので、下手に周りに影響を与えるようなことをしてしまうと何が起こるか分からない。

 そのため訓練中の未熟な力を外に出さないように、結界で覆って外に力を漏れ出さないようにするというわけだ。

 とはいえマナを使って結界を作るなどどうすればいいのかわからなかったので、さすがにそこはアルさんからアドバイスを貰って、今では何とか形作れるようにはなっている。

 

 アルさんの説明によれば、この結界を作った時点でその中は作成者の独自の世界ということになる……らしい。

 作っている当人にはそんな実感がないので、そんなものかと思っているだけで終わっているのだけれど。

 とにかく外部から切り離された世界を作ることが、訓練を行うための第一歩となる。

 そもそも結界を壊せるだけの攻撃力を持ったらどうなるのかという点が気になるところだけれど、アルさんに言われると自分で作った結界を超える事象は起こせないとのことだ。

 

 どういう理屈でそんなことなっているのかは分からないけれど、とにかく今はそういうものなのかと納得だけしておく。

 そもそもようやくマナを自由に動かせるようになった段階でしかないので、詳しい理屈を知ろうと思っても中々難しい。

 マナに対する五感はあっても、それですべてが感じ取れるわけではないと改めて実感しているところだった。

 アルさんに限らず運営の人たちがいるようなところまで行くにはどれほどの修練がいるのかと気が遠くなるところだけれど、一歩一歩進めていくしかない。

 

 マナで作った独自の世界がどういうものかといえば、一言で言ってしまうとプレイヤーが集まっている広場の世界と同じとのこと。

 あの世界はダンジョンマスターであるラッシュがスキルの力を使って作ったので厳密にいえば違うのだけれど、マナで作られた他から隔絶された世界には変わりない。

 ただしラッシュの力で作った世界なので彼の世界なのかというとこれまた違っていて、あくまでもラッシュはあの世界を構築したきっかけでしかないらしい。

 だからこそラッシュがダンジョンマスターとしての生を終えて新たな人生を歩みだしても、あの広場はそのまま残り続けることになるわけだ。

 

 とにかくマナで作った結界は一つの世界であり、場合によっては新たな命を生み出すことさえ可能だそう。……今はまだまだそんなことまでは出来ないのだけれど。

 俺自身がプレイヤーとして生活している世界もまたマナで作られている世界であり、運営が生み出した世界ということになる。

 あくまでも俺自身は管理者という立場であり、世界そのものを作った存在とは別の存在という扱いになる。

 もっともアルさんに言わせると、いずれは世界そのものを譲渡して管理してもらうことも可能――だそうだ。

 

 そんなところまで目指すかどうかは今のところ決めていない。

 それよりも今は、マナで作った結界内で何ができるのかを試す方が楽しみだったりする。

 やり方によっては大地を作ったり星そのものを作ったりできるというのは、アルさんから話を聞いて分かっている。

 一言で言ってしまえば、ゲームにあるような箱庭世界が作れたりするようなものだ。

 ……そんなことが出来るようになるにはまだまだ修練が必要になるのだけれど。

 

 そんなことを考えながら今日の訓練を終えて地脈の中央に戻ると、珍しくガイアから話掛けられた。

『アルハサエル様より連絡。もう少ししたらこちらに伺うとのこと』

「あら。ちょっとタイミングがずれたか。いや、ちょうど良かったのかな」


 微妙に訓練を終えるのが早かったみたいだと少しだけ後悔したけれど、アルさんが来るなんて知らなかったので仕方ない。

 ガイアに関しては、以前はもっと人らしい話し方をしていたのに、今では元の機械っぽい話し方に戻ってきている。

 以前何とはなしに理由を聞いてみたところ、返ってきた答えは『世界の管理にリソースを割くようにした』とのことだった。

 きちんと意思疎通ができるので、全く問題はないのだけれど。

 

 もうすぐアルさんが来るらしいので、もう一度訓練を始めるには微妙に時間が足りない。

 仕方ないのでマナを扱う訓練はやめて、地脈の中でできることを探すことにした。

 マナを扱えるようになったからといっても、地脈の力を十分に使えるようになったわけではないのでやることはいくらでもある。

 そうこうしている内にガイアからアルさんが来たと連絡があったので、すぐに中央に戻った。

 

「お帰りなさい。何か新しい発見でもありましたか?」

「残念ながら、特には。ただ近場を探索をするだけでも十分実りがありますから。それよりも何か呼びつけたような形になってすみませんでした」

「いえ。良いのですよ。私もちょうど来ようと思っておりましたから。――私たちの有りようについて聞きたいのですよね?」

「出来ることなら、という程度です。無理に聞くつもりもありませんから、差しさわりがないところで教えてもらえるとありがたいです」

「フフフ。そんなに恐縮しなくともいいのですよ。それよりも私たちのことについてですか。一つ言えることは、そもそもの根本の考え方がプレイヤーの皆さまとは違っているということでしょうか」

「と、言いますと?」

「私たちは、プレイヤーが元いた世界と違ってホモサピエンスという一つの種だけで成り立っているわけではありません。様々な種がいて組織を構成しているわけですから、そもそもの考え方が違うのですよ」

「あ~、確かに言われるまで失念していました」


 ホモサピエンスという一つの種族だけであっても一つの意思に纏まることなどできずに、大小様々な争いが無くなることは無かった。

 それがヒューマンやエルフといった人に属する種族意外にも多くの知生体がいるとなると、当然のようにそれだけの考え方や行動原理が存在している。

 自分たちと比べて強大な力があるからこそより高度に纏まっているといるのだろうというのは、思い込みでしかなかったというわけだ。

 そこを基準に考えると例の騒いでいるプレイヤーの存在も納得できる。

 ――アルさんから話を聞いてそのことに気付けた俺は、むやみやたらに構ったりすることは止めようと改めて決心した。




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