(28)有りそうでなかったこと

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ヒロシとの会話でそこまで焦る必要が無いと分かり、憂鬱な気分を落ち着かせるためにもゆっくりと温泉に浸かることにした。

 管理者向けの掲示板がどんなことになっているのか気にはなっていたけれど、焦っても意味がないと分かったのでまずは気持ちを落ち着かせることの方を重要視した。

 ……ということを言い訳にしつつ、面倒そうなことを後回しにして温泉を楽しみたかっただけなんだけれどね。

 とにかくゆっくり温泉にも浸かれた上に、久しぶりにプレイヤーが経営する食堂で食事を楽しむことができた。

 そして数時間ほど楽しい時間を過ごしてからハウスへと戻って、確かに運営からメッセージが届いていることを確認しつつ例の掲示板を開いてみた。

 

「――ああ~、なるほど。これは確かに酷いな。これぞ掲示板と言われればそれまでなのかもしれないけれど」


 上から目線の煽りを筆頭に、掲示板の悪い部分が見ごとに全部出ている。

 掲示板の雰囲気を悪くしているのは数人しかいないように見えるけれど、そもそもの人数が少ないだけに目だって仕方なかった。

 最新に近づくにつれてまともに会話に参加しようとするプレイヤーも減っていた。

 見事なまでに掲示板閉鎖になりそうな典型的な流れになっていて、ヒロシがあんな言い方をしてきたのも納得できた。

 それと同時に広場で最初に会ったプレイヤーとヒロシとの温度差があったことも理解ができた。

 

 これだけ治安が悪い掲示板を見ることが出来るのは、ヒロシのような管理者だけになる。

 最初に話しかけて来たプレイヤーは管理者にはなっていないので、この掲示板の状況は見ることが出来ない。

 管理者同士で直接交流ができるかもしれないという情報だけを持っている者と、掲示板の悪い部分をしっかりと確認できている者の差が出た形なんだろう。

 もっともヒロシを含めた管理者がサーバー用掲示板で警告しているので、ある程度のことはサーバー内でも共有はされているようだった。

 

 改めて流れをさらりと見直して理解できたのは、後から管理者になったはずなのに自分たちが一番だと言わんばかりの態度だった。

 より正確にいえば直接的には言っていないのだけれど、間接的には自分に従えと主張している数人がいる。

 掲示板なんて言葉だけのやり取りなのに、何故他人の上に立ちたいと考えるのか全く理解が出来ない。

 例の運営からのアンケートが先に来ているならその目的も分かるけれど、その前からそんな感じだったので恐らく自分たちがいるサーバーで上手く行ったのでそれを繰り返しているようにも思えた。

 

「運営もこれを見越してアンケートを取ることにしたんだろうなあ……」


 こんなやりたい放題を掲示板だけではなく、きちんとした対面できる状態でやられると鬱陶しいことこの上ない。

 最初から反対派が多数になると考えたうえでアンケートを取っているようにしか思えなかった。

 

 さらにもう一つ気になったことといえば、管理者掲示板で暴れているプレイヤーは二人でどちらも同じサーバーから来ているということ。

 それだけならまだいいのだけれど、どうもその二人はそれぞれの世界の住人たちのことを本当の意味で『NPC』という扱いをしている節があるように見える。

 もしかすると自分たちがいる世界は現実のものではなく、VRのように用意された世界だとサーバー全体で考えている可能性がある。

 暴れている二人だけがそう考えているのなら良いのだけれど、もしサーバー全体で同じ認識なのだとしたら少しばかり危険な気がする。

 

 俺たちが気軽に『運営』と呼んでいる存在も、彼らがゲーム的な意味での運営と考えているのだとすれば、勘違いをしたうえで道を踏み外した行動に出るかもしれない。

 世界の管理者になったということは世界の住人たちから見れば強大な力を持っていることになり、その認識で調子に乗っている可能性がある。

 そしてそのまま運営に直接手を出すようなことになれば、俺たちにも何かしらの影響があるかも知れない。

 さすがにそんなことはしないだろうと思いたいところだけれど、彼らの掲示板内での言動を見ている限りでは絶対にないと言い切れないところが怖い。

 

 上司を含めた運営は、掲示板を含めてプレイヤーのすべての言動を見ているはずなのでサーバー全体でどういう動きになっているかはきちんと把握しているはずだ。

 それなのに二名が管理者になっている時点で問題はない……と思いたいところだけれど、あの上司がいるだけに油断はできない。

 自分たちに対して復習なり反逆なり(少し大げさだけれど)を考えていたとしても、それを見て笑っている可能性もありえるから。

 そもそも運営が用意した世界の枠の中で、運営が用意している力を行使しているだけなのに、取って代わろうなんてことを考えること自体あり得ない……と普通だと考えるはず。

 

 ――そんな考え自体が、自分がいるサーバーが運営をいじりつつも認めているからこそできているのかもしれない。

 予想はしていたことだけれど、もしかすると暴れている二人組が存在しているサーバーよりもひどい状態のサーバーもあるのかも知れない。

 あっても不思議はないとは考えていたものの、実際を目の当たりにすると何とも微妙な気持ちになって来る。

 さすがに運営が彼らと自分たちを同類だと見ているとは思いたくはないけれど、人類全体ホモサピエンスという大きな括りで見られていても不思議ではない。

 

「……ちょっと飛躍しすぎたか」


 久しぶりに人の悪い部分が強調されている掲示板を見てしまったために、気持ちが沈んでしまっておかしなことを考えてしまった。

 アルさんをはじめとした広場に来ている運営を見る限りでは、そんなことは感じさせないのでむやみやたらに疑うのは良くないと思う。

 

 このままの気分でアンケートをやっても意味がないと考えたので、管理者掲示板から離れてサーバー内掲示板を見ることにした。

 プレイヤー全員に解放されている掲示板でもアンケートの話は出ていたけれど、こちらは直接関係しないのであまり話題にはなっていなかった。

 それとは対照的に、地脈の中央の壁を突破した者が対象になっている掲示板ではアンケートが来た場合にどうするべきかが具体的に話されている。

 勿論それぞれの行動を制限するようなことは書かれていないけれど、個人個人の意見が多く書き込まれている。

 

 それらの意見の中で大勢を占めているのは、やはりというべきかわざわざ直接関わるような場を作る必要はないという意見だった。

 人と人の関わりがある以上は俺が所属しているサーバーにも意見の違いから来る対立は、当然のように存在している。

 それでも管理者掲示板で暴れている者たちのように、強引に相手を従わせようなんてことを考えるプレイヤーが表に出て来ることはない。

 サーバー内にいる上位陣がそういう性格だからということもあるのだけれど、敢えてその居心地がいい秩序を壊してまで他サーバーとの交流はする意味がないということだ。

 

 運営が行っているアンケート自体には期限が設けられていない。

 そもそも管理者の数自体が少ないので、もう少し数が増えるまで待っているのだろう。

 だったら何故このタイミングで出してきたのかという意見もあったのだけれど、あの掲示板を見てうんざりしている管理者たちのガス抜き目的ではないかと推測されていた。

 運営の目的が何にせよ、今すぐに答えなくてもいいのならこのまましばらく様子を見てみることに決めて例の暴れているプレイヤーは忘れることにした。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る