(27)久しぶりなのに。。。

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 アリェリを仲間に迎え入れてから数日後には、俺たちは再び船の上の人となっていた。

 目的だったアンネリの身の周りの世話をする人も入ってきたので、今後は特に目的もなく思うがままに移動していくことになった。

 もっともこの世界では人が住んでいる地域は限られているので、向かうべき場所もそこまで多くあるわけではない。

 その分、船旅で補給をしたりするのが難しいともいえるのだが、ユグホウラの船は転移装置が標準装備されているので大した問題にはならない。

 転移装置どころか転移すらままならない人の国家からすれば、チートともいえるような技術だろうなとも思う。

 とにかく補給に関してはほとんど気にする必要がないので、かなり楽に移動することが出来ている。

 ただし自然現象に関しては気をつけないといけないので、気楽な移動というわけにはいかない。

 もっとも船を操作しているのはユグホウラの者たちなので、俺たちが気にすることはほとんど無いのだけれど。

 

 洋上にあるうちは暇な時間が多いので、空いた時間を使って久しぶりに広場を訪ねることにした。

 そして広場にある自宅からいつものように風呂場に向かう――途中で、他のプレイヤーから話しかけられた。


「キラ。随分と久しぶりだな。もしかしてメッセージとか見てなかったのか?」

「ちょっとばかり忙しかったんでここ数日は見ていなかったけれど……何かあった?」

「あったな。詳しくは……今だったらいつもの場所に行ったほうが早いか。使えていない俺が説明するよりも、実際に使えている奴が説明したほうが早いはずだからな」

「うん? 意味が分からないんだが、とにかく風呂場に行けばいいんだな?」

「ちょっとした騒ぎになっているからな。キラが行けばすぐに対応されるだろう。といいつつ俺もこれから行くつもりだったんだが」


 なんとも中途半端な説明しかされなかったので首を傾げたけれども、それ以上は説明するつもりはないようなので素直に温泉施設に向かうことにした。

 そこに行けばいつもの面々がいるらしいので、彼らから話を聞けばいいらしい。

 なんでそんな面倒なことをと思いつつも、そもそも話をしている相手がそういう性格だったかと納得することにした。

 人のことはどうこう言えないけれど、プレイヤーはそれぞれが一癖も二癖もある人が多いので一々気にしていたら長く付き合っていくことなどできない。

『その中でもキラが筆頭だけれどな』という言葉が聞こえてきそうだけれど、そこには気付かなかったフリをして温泉に向かった。

 

「おー、キラ。久しぶりだな」

「ヒロシ、久しぶり。ところで何かあったみたいだけれど、何があったの?」

「何だ。何も聞いていないのか?」

「ヒロシから聞いた方が話が早いって言われて何も聞いていないけれど?」

「それはそうだろうが……いや、その前に。メッセージを見ずにこっちに来たんだな。見てたらすぐに分かっただろうに」

「あ~、ごめん。メッセージどころか、最近はメニューすら開いていないわ」

「それはまあ、気持ちは分かるからいいんだが。まあ、いいか。それよりも、運営から解放者に向けてアンケートが来ているぞ」

「アンケート? なんだそれ。アルさんからはそんなこと聞いていないけれど……最近のことだったら仕方ないか。会ってなかったし」


 運営からのアンケートなんて初めてのことなので、意味が分からずに首を傾げてしまった。

 解放者向けとなると自分たちがいる世界だと中央の壁を突破した人向けということになる。

 となるとそれなりに『ゲーム』を進めているプレイヤーに回答権があるということになるわけで、質問の内容もそれに向けたものだと想像ができる。

 

 最近はメニューを開くことすら少なくなっていたので、メッセージが来ていたことに気付いていなかった。

 内心で首を傾げつつメニューを開いてみると、確かに運営からのメッセージが届いていた。

 ただそのメッセージは『アンケートを実施しています』というお知らせが書いてあるだけで、実際のアンケートはハウスの端末からしか操作することができなかった。

 

「タイトルは『各プレイヤーの意思確認』となっているけれど……何、これ?」

「そう思うよな。俺も最初はそう思った。アンケートの中身はここで言ってもいいが、どうする? 自分で確認するか? 別にここで聞いても何の影響もないとは思う」

「それだったら聞いておくよ。別に今すぐに回答しなきゃいけないものじゃないみたいだし」

「そうか。だったら言ってしまうが、一言でいえば別サーバーにいるプレイヤーとの直接交流を望むのかどうかの確認アンケートだな」

「それは確かに、割と重要な話だなあ。掲示板も盛り上がっているんじゃないか?」

「盛り上がってはいるな。どちらかといえば『本当に必要なのか』という方向に行っているけれどな」

「まあ、現状でも掲示板で会話は出来ているからなあ。確かに絶対に必要かといわれると疑問が出るのは当然だよな」


 極論を言ってしまうと宇宙系サーバーのプレイヤーと話をしていても自分たちには関係の無い話ばかりで、『ふーん、そうなんだ』で終わってしまうことがほとんどになる。

 興味深い話ばかりなのだけれど、自分たちが生きている世界では活かせることがほとんどないので遠くの国で起こった事件をテレビ画面越しに聞いているような感覚にしかならないわけだ。

 現状でもそんな感じなのに、直接会えるようにすると言われてもピンとこないのは理解できる。

 これでもし物のやり取りができるようになるとかであれば話は変わって来るのだろうけれど、ヒロシをはじめとした他のプレイヤーを見るとそんな感じはしなかった。

 

「直接交流ができるのに物のやり取りが出来ないっていうがなあ……。専用空間に転移する時にはじかれるとかそういうシステムになっているのかな?」

「恐らくな。運営から詳細や発表されていないが、そのくらいのことはできるだろう。ちなみにこの件でサーバー掲示板は若干荒れているな」

「あ~。また主導権争いとかが出てきた感じ?」

「そういうことだな。運営が作った世界でイキったところで意味がないだろうにな。既にまともな奴らは黙り込んでいるみたいだぞ」

「それはまた。もしかしたら、サーバー掲示板はいずれ閉鎖されるかもしれないね。上司じゃないけれどサーバー限定でのやり取りだけに区切ったのは正しかったのかもね」


 日が経つにつれて管理者になるプレイヤーも増えてきて、専用掲示板も当初と比べて活気が出るようにはなっていた。

 ただ逆にいえばそれは不特定多数を呼び込むということでもあり、性格に難があるプレイヤーが出て来ることにもなっている。

 よくそんなやり方で管理者になれたなといえるほどに、ある程度は参考にはできても自分では性格的に選択しない手段をとっているプレイヤーもいる。

 それぞれのサーバーでやり方があるだろうからそれはそれで構わないのだけれど、さすがにこちらにまで直接的に指示してくるのは面倒くさいと思わざるを得ない。

 

「だな。このタイミングでアンケートなんて取ろうとしているのも、奴らを黙らせるためにやっているとしか思えないな」

「なるほどね。ハウスに戻ってからゆっくり確認することにするわ。できれば掲示板も見たくはないけれど、そうはいかないだろうなあ」

「どうしたらそこまで自信満々に言えるのか不思議なくらいだからな。覚悟しておいたほうがいいぞ」


 ヒロシからあまり有難くない忠告を貰ったせいで、益々サーバー掲示板は覗きたくなくなった。

 とはいえアンケートに参加しないという選択肢はないので、一度は確認しておかないといけないだろう。

 寛ぐためにここまで来たのに、先に憂鬱な時間が待っていると分かって少しだけげんなりとしてしまった。




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