(26)アリェリの才能

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 アンネリと話をしている間に、ハロルドからアリェリへの説明は大体終わっていた。

 細かいことはまだまだたくさんあるそうだけれど、さすがに一度に詰め込んでも意味がないのでこれから徐々に教えていくことになるらしい。

 俺たちにことに関しては、色々と例外事項が多すぎて一般的とはいえないことも多々あるのでそれを知ってもらうには経験を積むんで行くことが一番とか。

 ハロルドの説明を聞きながら横にいたトムも細かく何度も頷いていた。

 そうしたことをハロルドがアンネリに話し終えるのを見計らって、こちらから話しかけた。

 

「アンネリ、ちょっといいかな? アリェリのことについてもう少しだけ補足があるから本人がいるところで話て起きたいんだけれど?」

「勿論、私は構わないわよ? アリェリもいいでしょう?」

「はい、にゃ!」


 アンネリから確認されたアリェリは、その特徴的な語尾と共にしっかりと頷き返してきた。

 アリェリは、猫族とか猫種とか呼ばれている獣人族になる。

 語尾に関しては別に何かに縛れているとかそういうわけではなく、どちらかといえば方言に当たるようなものだそうだ。

 標準的な語尾にすることは出来るそうだが、アンネリも無理に直さなくても良いと言っているのでそのままになっている。

 ちなみに一人称が「僕」だったのは、ハロルドから駄目だと言われて矯正している。

 猫族の語尾は一般的に受け入れられているので問題はないのだが、さすがに一人称は使用人としてはふさわしくないという理由からだ。

 

「奴隷商での話を聞いたところだと、アリェリは魔法が使えないってことだけれど間違っていない?」

「はい、にゃ」

 

 先ほどの返事と違って少しだけ落ち込んでいるように聞こえたのは気のせいではないだろう。

 特徴的な長めの尻尾も落ち込んでいるし。

 

「ああ、いや。別に責めているわけじゃないんだ。どちらかというと不思議だなと思っていてね」

「キラ。そんな言い方をするということは、もしかするのかしら?」

「うん。アリェリも魔法を使えるよ。というか、より正確に言うと既に使っている状態だね」

「既に……ということは身体強化とかかしら?」

「さすがだね。その通りだよ」


 俺の言葉にアリェリが驚いて言葉を失っている間に、アンネリがすぐに答えを出してしまった。

 基本的に獣人族は魔法が使えないかもしくは使えてもほとんど役に立たない種族と言われているので、アンネリ自身はアリェリが魔法が使えないと聞いても全く気にしていなかった。

 ただし魔法が使えるとなると戦略の幅が広がるのは確かなので、使えるにこしたことは無いだろう。

 もっとも現時点で外から見ている感じでは、アリェリの魔法の力は身体強化とか身体操作に極振りされているように見える。

 

「――というわけでアリェリは魔法が使えないんじゃなくて、使い方を間違っているんだと思うよ。これが獣人族全体に言えるのかは分からないけれどね」

「そういうことだったのね。でもそうするとどうやって教えれば……そうか。魔力操作ね」

「そうだね。多分、自分たちには魔力がないと思い込んでいるんで見つけられていないだけだろうから、まずは自分の中にある魔力を感じ取るところからかな。それと並行して座禅も必要になるけれど」

 

 魔力を扱うために座禅をするというのは二周目が始まってから考えたことだけれど、意外に初心者へ魔力の扱いを教えるのには向いている。

 少なくとも平時における場面で魔力を感じ取ったり好きに操作するようにするには、静かに座りながら行うのが一番やりやすい。

 慣れて来ると立ちながらだったり動きながらでも同じようなことが出来るようになるので、初期の練習方法としては丁度良い。

 もっとも座禅から教えるのは魔力操作自体が出来ないような初心者のためにあるようなものなので、既にある程度できるようになっている者にはそこまで効果的な訓練にはならない。

 中級者以上になって来ると魔力操作の訓練も個人個人で違いが出て来るので、全員が全員座禅が向いているわけではない。

 

「何をするにしても魔力操作が重要になって来るからねえ。とにかく自分の中にある魔力を感じ取れるようになることが一番の近道……なんだけれど」

「今の今まで感じ取れなかった人が、魔力を感じ取れるようになるのかが問題ってことよね」

 

 現時点でのアリェリがごくごく自然な状態で魔力操作を行っているということは、裏を返せば意識して出来るわけではないということになる。

 それをまず自分の持つ魔力をどうやって教えるのかが、一番の問題点だと言えるかも知れない。

 そんな問題を抱えているアリェリは、皆から注目されて身の置き所がなさそうに身を縮こませていた。

 

「まあ、今は本人がこんな感じから魔法云々は後回しがいいかな?」

「そうね。急に詰め込め過ぎるとパンクしちゃうかもしれないしね。そもそも魔法を使えるようになるというのは契約にもないから。あとはアリェリのやる気次第かしらね」

「そうなるだろうね。だから話をするのも後回しにしていたんだけれど……正解だったみたいだ」

 

 獣人族はヒューマンと比べても力やスピードに優れている分、粗野な人が多いと言われている。

 ……のだけれど、俺たちの会話を聞いて身を縮めているアリェリを見ているとやっぱり個人差はあるんだなと実感できた。

 種族全体で見れば合っているのだろうが、個人個人で見ればヒューマンと変わらないということがわかる。

 

 アリェリが魔法をどこまで使えるようになるのかは、きちんと訓練しないと分からないところが多い。

 それにここで余計なことを言って期待を抱かせたあとに、実はできなかったとなって落ち込ませる可能性もある。

 そんなことになるよりは、何の魔法を使えるようになるかは分からないけれど訓練さえすれば使えるようになると思ってもらったほうがいい。

 当人は一度に多くのことを詰め込まれるとテンパるタイプのようなので、様子を見ながら教えたほうがいいだろうと思う。

 

 魔法が使えるようになるかもしれないと聞いてアワアワしているアリェリを見てからアンネリを見ると、ちょうど視線が合ってお互いに苦笑をしてしまった。

 幸いにして当人はそのことに気付かなかったようなので、話を続けることにした。

 

「アリェリのことはゆっくりでいいとして、ここからどうする? もう目的は果たしてしまったみたいだし、旅は続ける?」

「私は続けても良いと思うわよ。いえ、違うわね。むしろ楽しいと思えているから、続けて欲しいわね」

「私も同じですわ。船で世界を回れるなんて機会はほとんど無いのですから。予定通りシーオまでの船旅を続けましょう」

 

 アンネリやアイリの言葉を聞いてから周囲を見回してみたけれど、特に反対意見は出てこなかった。

 これは別に俺たちの『圧』に負けたというわけではなくて、船旅を続けたいという前向きな考えから肯定しているように見える。

 そう思える前提として、ユグホウラが作った帆船は安全に航行できるという信頼があるのは間違いないだろう。

 

 もっとも元の世界でもそうだったように、絶対安全な船旅ということはあり得ない。

 人が作ったものである以上は事故は起こりえるし、操作ミスすることだって十分に考えられる。

 とはいえそんなことを言うと馬車でも事故は起こるので、どこにも移動できなくなってしまう。

 

 とにかくこのまま旅を続けたいと皆が考えていることは分かったので、しばらく自由な旅は続くことになりそうだ。




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m(__)m

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