(25)色々な違い

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 奴隷商人が用意された部屋から出て行ってから十分ほど経つと、彼が再び現れて何枚かに纏まった紙の束を持ってきた。

 それを渡されたアンネリが「これは?」と聞くと返ってきた答えが、

「ご要望に合いそうな人材の要点をまとめたものになります。その中から希望する者を仰っていただければ、対面できるように用意いたします」

 というものだった。

 どう見ても就職活動の第一次審査的なやり方に、思わず笑いそうになってしまった。

 もっとも自身が持っている奴隷商のイメージが違い過ぎて、書類を渡されたアンネリ本人はしばらく戸惑っていたのだけれど。

 とにかくその中から良さそうな人がいないか見てみたらどうかと、こちらが促してようやく動き出すほどだった。

 こんな様子になるアンネリも中々に珍しいので、密かにアイリと顔を見合わせて笑ってしまっていた。

 

 アンネリはこちらのそんな様子には気付くことはなく、書類の中から五人ほどに絞ると次は面談での選考に移った。

 奴隷商人が部屋から出て行くと、再び数分後には指定した五人を連れて部屋に入ってきた。

 順番による第一印象に与える影響をなるべく減らすために、まずは全員まとめて会わせるのが通例らしい。

 勿論十人単位で購入する場合には出来ないが、そうした大口の契約はまた別の手法が取られているとか。

 

 ますます就職活動の色が濃くなってきているようにも感じたけれど、これがこの辺りでのやり方だと言われると納得するしかない。

 それにそもそもが悪いやり方ではなく、むしろ奴隷側にとっては有難い手法なので反対する理由もない。

 中には面倒だと怒りだす買い手もいるそうだけれど、そこはこれがこの地域でのやり方だと押し切っているらしい。

 奴隷相手にそんな気を配る必要はないということらしいが、そうした相手に奴隷を売らないようにするためにやっていることだとも思える。

 

 実はこの時既に俺としては気になる人材がいたのだけれど、それを口に出すことはしなかった。

 それを口にすることでアンネリの考えに影響を与えたくなかったし、彼女自身がどういう人を選ぶのかを知りたかった。

 それにアンネリが選ばなかったとしても、後から自分で買えば良いと考えていたこともある。

 結論から言ってしまうと、結局そうする必要はなかったのだけれど。

 

 とにかく集団面接が終わったあとは個別での面接が始まって、ようやく最後に奴隷商人との話で気に入った相手がいたかどうかを聞かれる流れになった。

 そこで出したアンネリの答えが、見事に集団面接のときに気になった人と一致したわけだ。

 アンネリが購入を決めた奴隷の名はアリェリというネコ科の獣人だった。

 いわゆる村全体の口減らしのために売られたので、彼女自身には何の落ち度もないという点が一番大きかったらしい。

 

「――では、彼女と契約するということでよろしいでしょうか。一応確認いたしますが、彼女はシーオのことについてはさほど詳しくはありませんが?」

「ええ。それで構わないわ。私もあちこち移動しているから、そのうち覚えてくれればそれで良いわ。幸い詳しい物がこちらにはいますから」

「そうですか。そういうことでしたら、こちらに否やはございません。あちこち旅をすることになるのも彼女は了承しておりますから」

「そう。それが一番の心配ごとでしたから、問題がないのであれば構わないわ。」


 シーオでは気にしなくても良さそうなところも、ここでは違っているのでアンネリも気を使っているのがわかる。

 中には奴隷を雇ってから問題行動を起こすような人もいるようだが、そうなった場合にはしっかりと国内の奴隷商たちに出回るブラックリストに載ることになるらしい。

 ブラックリストに載っている相手と商売をすると奴隷商本人どころか店自体が経営できなくなる可能性もあるので、どちらも下手なことは出来ない。

 ただし事前にそこまでしっかり説明されているにも関わらず、他の地域の価値観を引きずったまま奴隷を扱う購入者もいるらしいので、店側が神経をとがらせるのもよくわかる。

 

 アンネリは慣例(?)の違いから色々と気を使っているのだけれど、俺としてはそこまで気にしなくていいと考えている。

 そもそもアンネリ自身が奴隷を粗雑に扱うような人ではないし、普段からハロルドやトムを相手にしていても全く問題は起こしていない。

 二人は今も一緒に行動していて奴隷商もそのことには気付いているはずで、だからこそそこまで厳しい審査なども無しに対応してくれていると思う。

 アンネリは気付いていなさそうだけれど、店を出てから話をしようかなと考えていた。

 

 そうこうしているうちに無事に契約も終わり、猫獣人の彼女――アリェリはアンネリの奴隷となった。

 アリェリはハロルドやトムとは違ってそこまで値段が高い奴隷ではないので、数年で解放されることになるだろう。

 ただその後もアンネリに着いて行きたいと望むのであれば、それはそれで構わないと話してある。

 先のことはどうなるのか分からないけれど、とにかくいい関係を築いていければいいと端から見ていてそんなことを考えてしまった。

 

「――ここで買う予定はなかったのだけれど、結局買ってしまったわね。思っていた以上に印象が良かったので、流されてしまったかしら?」

「シーオと比べてお店の雰囲気が良かったですから、それもあるかも知れません。ですがアリェリという存在が良かったということも大きいと思いますわ」

 奴隷商から拠点に戻って奴隷商人のトークスキルに流されてしまったかと反省するアンネリに、アイリがそんなフォローを入れていた。

 勿論既に契約を済ませているアリェリも着いて来ていて、先にハロルドから色々とレクチャーされている。

 

「アンネリが良いと思ったんだったらそれで良いと思うよ。侍女メイドとしての仕事は、ヘリから教えてもらえることになっているんだろう?」

「そうね。今でも週一で来てもらっていたから大丈夫とは思うけれど……逆にヘリが張り切り過ぎないか心配になるわ」

「ハハハ。アンネリのこととなると熱が入ることが多いからなあ。でもまあ、彼女のことならそんなに心配する必要はないんじゃないと思うよ。先輩だからって変に威張り散らかしたりもしないだろうし」

「そこは私も心配していないわよ。問題があるとすれば、国に戻った時とかかしらね」

「それはこっちでフォローするしかないだろうなあ。ハロルドとかもいるからよく見ていてもらうしかないだろうしね」

「そうね。あの様子を見る限りでは、そこまで心配することもなさそうだけれど」

 

 そう言ってアンネリが向けた視線の先には、ハロルドから拠点内の説明を受けているアリェリがいた。

 この拠点に来た当初は目を回しながら驚いていたアリェリだが、今は大人しくハロルドの説明を聞いている。

 

 ちなみに既に済ませているお互いの挨拶の時に、彼女が恐る恐る眷属たちのことを聞いてきたが、何となく魔物が変化した姿だと気付いていたらしい。

 完全にどんな種族かまではわからないそうだけれど、何となく人とは違うということは分かるそうだ。

 それはアリェリだけが持っている能力というわけではなく、獣人の中には似通った力を持っている者がそれなりの数いるとのことだ。

 こちらがユグホウラの関係者であることは店にいるときに既に説明していたので、驚きはしても納得できることではあったらしい。

 

 とにかくここから先は、ハロルドと週一ペースで来るヘリから色々なことを教わって慣れて行ってもらうということで話は落ち着いた。

 その時には既にアンネリも先のことを見据えて考え始めていたので、ついでにアリェリと初めて会った時に気付いたことを話すことにした。




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