(24)ディア王国の奴隷商

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 < Side:キラ >

 

 ギルドの受付嬢に軽く話を聞いて紹介された奴隷商へと向かったのは良いのだけれど、あまりにもイメージと違った建物で思わず立ち止まってしまった。

「……奴隷商というよりは、どこかの役所みたいに見えるね」

「ああ! 何かの雰囲気に似ていると思ったけれど、そういうことね。言われてみて納得したわ」

 建物の中に入ってすぐに思わず出て来た感想だったけれど、すぐにアンネリが同意してくれた。

 彼女の隣に立っていたアイリも頷いていたので、皆が似たような感想を持ったらしい。

 自分たちが知っている奴隷商のイメージは、あくまでもシーオ地域だけに限った話なのかも知れないと考えされられる光景だった。

 

 その奴隷商はギルドの受付のように複数のカウンターがあって、それぞれに人が座っている。

 しかも列ができるほどではないが、そのカウンターで話をしている人もいて需要もあることが見てすぐに分かった。

 そんな室内も奴隷を扱っているための悲壮感のような雰囲気があるわけではなく、何とも言えない独特の雰囲気になっている。

 人の出入りもそこそこあるせいなのか、『奴隷を扱っている店』という感じは受けなかった。

 

 今まで持っていた奴隷商のイメージと違い過ぎて戸惑っている自分たちに気が付いたのか、カウンター側から一人の店員さんが近づいて来て話しかけて来た。

「――いらっしゃいませ。見たところ我が国での奴隷購入は初めてのようですが、詳しくご案内いたしますか?」

「お願いします。正直なところ、あなたに奴隷といわれるまで本当に奴隷商なのか疑っていました」

「ハハハ。他国からいらっしゃった方は、皆そのように仰います。それもきちんとした理由があるのですが――立ち話もなんですのでお部屋にご案内いたします」

 どうせお上りさん扱いされていることは分かっているので早々にぶっちゃけると、相手も対応に慣れているのか即座に詳しく話をしようと誘ってきた。

 有難くその誘いに乗って案内された部屋に入ると、その店員(?)さんは笑顔になりながらディア王国とその周辺数国での奴隷の扱いについて説明をしてくれた。

 

 まずシーオ地域の奴隷商と大きく違っているのは、全てが国によって管理されているということ。

 より正確にいえば運営を民間に委託されて事業をしているようだけれど、申請さえすれば通る通るというわけではなく店の数自体も国全体で決められているそうだ。

 早い話が半国営扱いになっていて、法を犯すような真似をすれば再出発をすることすら許されることはないそうだ。

 そんな状態での運営なので、経営者側も奴隷たちに気を使う結果となり程よい雰囲気が保たれているそうだ。

 ただし半民間運営されている店に任されているのは軽めの借金奴隷だけで、犯罪奴隷や借金奴隷を繰り返しているような者たちはまた別の扱いになっているとのこと。

 そういった者たちは国や貴族が運営している炭鉱送りになったり、国内の信用されている者たちにしか売られることはないそうだ。

 つまりは自分たちのような国外から来た者がこの国で買うことが出来るのは、比較的軽めの奴隷ということになっているという説明だった。

 

「――なるほど。だからこそ店の雰囲気もそこまで暗いものではないということですか。ただそうなると我々のようなあちこちを移動するような冒険者がこの国で奴隷を買うのは難しいのではありませんか?」

「そんなことはございませんよ。ご購入時に国外への移動も含めてお互いに確認いたしますから。ただしそういった条件が積み重なっていくと、値が張りやすくなるのは確かです」

「買う側だけではなく、売り手や奴隷も条件を付けることが出来るというわけですか。どちらかといえば奴隷のために作られているような決めごとですね」

「お客様にはご理解できますか。その通りです。借金奴隷は、額にもよりますが基本的には負った借金さえ返すことができれば、奴隷から解放されることになります。その時のことを考えられて作られている決まり事になります」

「ですがそれだとこの国以外で解放された場合には困ったことになるのでは? ここでの取り決めが守られるとは限らないでしょう」

「その通りです。ですので国外からのお客様には、ある程度のが求められるのですよ」


 言外にきちんと奴隷を売っても大丈夫なのか確認していると言われたけれど、その程度のことはしていて当然だと思うので特に言葉にするつもりはなかった。

 さらに言えば冒険者ギルドとの連携もしている可能性もあるが、そこまで情報のやり取りがされていると逆に安心さえできるとさえ思う。

 シーオ地域での借金奴隷の扱いも比較的緩やかだと思っていたけれど、この辺りではそれ以上に犯罪奴隷との区別がされているようだった。

 商売としての観点から見れば、どうやって成り立たせているのかと疑問になるところもある。

 それでもこうやって運営できている以上は、様々な工夫の下で商売をしているのだろう。

 

 色々な話を相手の商人から聞くことが出来たので、ここから先は実際に奴隷を買う予定のアンネリが主体となって話をすることになった。

「――そうですか。ではあなた様のお世話ができるような奴隷をお求めですか」

「ええ。先ほどの話にも関わって来るでしょうが、私はあくまでもシーオの人間ですからその辺りを考慮に入れると中々難しいとは思いますね」

「確かに仰る通りです。問題はどの程度の技能をお客様がお求めになるかによって、こちらもご紹介できる者は変わって来るでしょう」

 絶対に『いない』と断言しないところはさすがに商売人と言いたいところだけれど、そこまで都合の良い奴隷がいるとも考えていない。

 向こうもそれを分かっているのか、ここからどう話を進めていくかと考えている様子だった。

 

 この後もアンネリから条件なども含めて細かい話をしていった。

 今回の奴隷購入はあくまでもアンネリの生活面での補佐ができる女性、冒険者である俺たちの旅について来ることが出来る者となる。

 特に後半については大丈夫か不安があるのか、アンネリは特にそのことについて念を押していた。

 もっとも冒険者がそうした条件を出すのは当たり前にあることなのか、店員は特に大きな反応は見せていなかった。

 

「――畏まりました。お客様の条件は確かに特殊といえば特殊でしょうが、当てはまる人材がいないわけではありません。それらの人材を見せることは出来ますが、いかがいたしますか?」

「あら、本当にいるとは思わなかったわ。この店からすれば、かなり厳しいことを言っているという自覚はあったもの」

「ハハハ。この店は周辺地域を統括している店になりますから、様々な人材が集まっております。確かに厳しい条件ではありますが、一人もいないということはありませんよ」

「そういうことね。それなら早速見せてもらうことは出来ますか? そもそも対面して合わなければ意味がありませんから」

「勿論です。準備に少々お時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「当然、構いませんよ。こちらも突然でしたからね。むしろすぐに用意してもらえるのは有難いですね」


 アンネリの言葉を聞いた店員は、頷き返してからすぐに「失礼します」と言って部屋から出て行った。

 アンネリとの会話でもそうだけれど、先ほどまでのやり取りを考えるとどうしてもただの一店員には見えない人物だった。

 だからといって、すぐにこの店のトップだと断言できるわけではないのだけれど。

 どちらにしてもこの店で奴隷を買うのかどうかを決めるのはアンネリなので、俺としては多少の助言をする程度で見守るつもりだった。




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