(23)受付嬢の独白

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:ギルド受付嬢? >

 

 世にも珍しいユグホウラの船に乗って現れたという冒険者パーティ。

 彼らがこの町にやってきてすぐに冒険者ギルドを訪ねて来たのは、ある意味では必然だったと言えるかもしません。何しろ彼らば冒険者なのですから。

 勿論冒険者だからとして訪ねて来た町のギルドに必ず立ち寄らなければならないという取り決めはないわ。

 それでもディア王国一の港町であるこの町では、多くの冒険者が所属変更の手続きを行っていく。

 その手続きを行わなければこの国では依頼を受けられないのだから、冒険者としては当然のこと。

 他国から入って来てそのまま同じ依頼主について元の国に戻るパーティもいるにはいるけれど、多くは到着先であるこの町に着いた時点で依頼は終わりとなりまたこの町で新たな依頼を見つけなければならないのだから。

 

 港町という立ち位置からこの町の冒険者ギルドには多くの国から冒険者がやって来る。

 そうした冒険者たちを見極める意味で様々な方法が取られているけれど、彼らが取った依頼もその内の一つ。

 ディア王国ではシーオの地域とは違ってそれぞれの土地を支配している魔物ことを『守護獣』と呼ぶ習慣はない。

 それでも彼のドラゴンはこの国とっては最重要な位置にいる魔物であり、決して怒らせてはならない存在ともいえる。

 

 そんな存在であるドラゴンに対する依頼を他国の冒険者に任せるのはどうかという言論は常にこの国では巻き起こっている。

 それでも幾年経っても変わらず他国の冒険者に任せているのには、一つ大きな理由がある。

 一言で言ってしまえば、依頼対象であるドラゴン当人がそれを望んでいるから。

 いつの頃からかは今となっては分からなくなってしまったけれど、この国にある冒険者ギルドにはその言葉が確実に伝わっていた。

 とはいえドラゴンの言葉など早々簡単に一般に広めてもいいわけはなく、その意思は一部の上層部しか知らない事実となっている。

 だからこそ先のような議論も巻き起こるのだけれど、彼のドラゴンがこの国に存在している限りは変わらないのでしょう。

 

 そんな重要なことを一介のギルド受付である私が何故知っているのか。

 それは簡単なことで、私がこのディア王国にある冒険者ギルドの全てを取りまとめている総長の直属の部下に当たるから。

 そんな人間が何故王都のギルドから離れてこの町のギルドで受付をしているのかといえば、それこそ例の依頼を受ける冒険者を見極めるため。

 ドラゴンの言葉によって他国の冒険者に任せている依頼だけれど、だからといって変な冒険者に受けさせるわけにはいかない。

 だからこそ監視も込みで、私のような人員が主だったギルドに配置されているの。

 

 私たちの主な役目は、例の依頼を国外の冒険者が受けた時に対処をすること。

 万が一にもドラゴン――ルミール様の機嫌を損ねるような真似をすることがあってはならないので、不適切な冒険者が依頼を持ってきた場合には受付の段階ではじく必要がある。

 私一人ですべての依頼受付業務をすることは出来ないけれど、受付にいれば出した依頼がどうなったかは業務に入る時に確認することができる。

 どのタイミングで誰が依頼を受けたかを把握することが早ければ早いほど、こちらも対処できることが増えるというわけね。

 

 そして今回出された依頼は、例の国外冒険者が受けることになった。

 ユグホウラの船に乗ってきたというところが引っかかるけれど、それ以外は何ら問題なさそうだったので特にこちらで止める理由もない。

 たまたま私が受付業務について、例の依頼を張り出した時に彼らがやってきたのは何かの不可思議な力でも働いたのではと一瞬疑いたくなった。

 勿論そんな作為などあるはずもなく、彼らの意思もあって依頼を受け付けることにした。

 

 その後は普段の業務をしながら結果を待つだけ。

 彼らの行動は常に見張られているはずだけれど、そこに私が関与することはない。

 私の仕事はあくまでも依頼を出すことと受付の段階でその冒険者たちを見極めること。

 私が見た限りでは人物的にも特に問題なさそうだったので、今回に関しては特に心配することもなく送り出すことが出来た。

 ……はずだった、のよ。

 

 今回の依頼を受けた冒険者たちが帰ってきたのは、あり得ないほどに早かった。

 それだけじゃなく、何故か今回に限っては彼らの様子まで私に伝えられることになった。

 なんでも監視役の人たちの判断で、それが必要だと考えたからだそう。

 その報告を受ける直前にはそんなこともあるのかと考えていたけれど、報告を受けた後は思わず頭を抱えてしまいたくなってしまった。

 

 ルミール様と穏やかに談笑しているってどういうことよ! ――と。

 依頼のモノを受け取ったルミール様がその場からすぐに立ち去らなかった自体が、今までに無かったこと。

 しかもただの気まぐれで二言三言言葉を交わしたというわけではなく、長時間談笑していたらしい。

 これなら私のところまで報告が上がってきた理由も分かるし、今後私がすべきことも理解はできる。

 いつものように処理をしたはずの依頼が、まさかこんな事態を引き起こすことになるとは思いもしなかった。

 

 私のところにまで情報が来たということは、既に上層部は把握をしているということ。

 その上で私に何かをさせたいのかと思えば、特に指示はないという。

 一つ上げるとすれば『何もするな』というのが指示らしい。

 それは特別な対応とかが必要ないという意味で、普段通り受付としての仕事を全うしろということ。

 

 早い話が、ギルドの上層部は彼のパーティについては深入りしないということを選んだということ。

 下手に突いてルミール様が出てきようものなら何が起こるのか分からないのだから、そう判断するのは当然だと私も思う。

 恐らくだけれどディア王国の上層部もその判断には関わっているはず。

 一応中立を謳っているとはいえ、国家を揺るがすような大事がありそうなときには情報を共有することが当たり前だから。

 

 正直にいえば、ルミール様を相手にして長時間会話が出来る相手に何ができるとも思えないので上からの指示には助けられた。

 ディア王国への所属変更を促すようにと言われる可能性はあったのだけれど、もしそれをやって機嫌を損ねたりされるとこの国にとっては大損失どころの騒ぎでは済まなくなる。

 総長直属の部下とはいえ一介の(?)受付としては、大きすぎる仕事になるので上が避けたのも理解できる。

 私自身としても、悔しいというよりも安心している部分が大きいのでどちらにとっても良かったと言えるかもしれない。

 

 ――というわけで、こちら側では色々あったのだけれど件の冒険者パーティは何事も無かったかのようにギルドへと戻ってきた。

 いえ。何事もなくとは言えないでしょうね。

 彼らが通常ではありえないほどの速さで移動をしてきたということは、実働部隊からの報告を聞かなくても分かった。

 何しろ彼らがギルドに戻ってきたのは、通常の冒険者パーティの半分ほどの日数しかかかっていなかったのだから。

 

 これが自分たちの当たり前という顔をしてギルドに入ってきた彼らを見て、既に私は彼らを『普通』と見るのはやめていた。

 ……それにしてもいつものように依頼を処理した後に、パーティリーダーが奴隷商について聞いてきたことは上に報告したほうがいいのかな。

 冒険者が奴隷を求めることはそこまで珍しいことは無いので判断に困るところ――だったのだけれど、少しだけ迷ってから報告として送ることにした。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る