(22)帰還

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 ルミールとの話は適当なところで切り上げてキャンプのある場所に戻ると、既にまったりとした空間になっていた。

 スイとの会話で何かあったのか、アンネリとアイリが若干疲れたような顔になっていたけれど、特に問題はなさそうだったので心の中で『頑張れ』とだけエールを送っておいた。

 当人たちが何も言ってこなかったので、そのまま触れずに置いたほうがいいだろうと考えてのことだ。

 とにかくその日は今いる場所で一泊をして、翌日に依頼を受けた町へと戻った。

 当然ながらルミールは着いて来ていない。というよりも、朝起きた時には既に別の移動したようだった。

 ギルドの監視役が着いて来ているのも相変わらずで、放置したままなのも変わっていない。

 ただしこちらは馬車を引いているのが魔物のレオのため、いくら単独行動とはいえついて来るのは大変だろうと思う。

 あるいは複数人で交代しながら監視をしているのかもしれないが、敢えてそこは確認せずに好きなようにさせたままにしている。

 

 旅の道中でスイが戻ってきてその分賑やかにはなったけれど、それ以外の変化は特になく戻りの道中で盗賊などに襲われるなんてこともなく無事に町に戻ることが出来た。

「――お疲れ様でした。依頼は無事に終わったということでよろしいでしょうか」

「はい。特に問題もなく。相手がドラゴンだったので特に終了印などは貰っていないのですが、それで良いのですよね?」

「勿論です。事前にお話した通りで問題ございません」


 受付嬢と話をしながらギルドの職員がその場で確認していたんだから確かに問題はないだろうなと思いつつも、わざわざそれを口に出すことはしない。

 監視者に気付いていたことは別にばれてしまってもいいのだけれど、敢えてこちらから言う必要もない。

 お互いに『知らなかった』ことにしておけば話がスムーズに進んで、余計な時間を使わなくても済むのだから。

 そもそもこちらへの接触をよそ者に任せるということ自体も、ギルドの何かしらの思惑があることも分かっている。

 ただギルドが変にこちらに関わってこない限りは、放置したままでいるということは既にアンネリたちとも確認済みだ。

 

 そんなこんなで依頼終了の手続きも無事に終えて、一旦宿に戻ろうとしたところでふと思い出したことがあって一つ受付嬢に確認してみることにした。

「そういえばこの国にも奴隷制度はあるようですが、私のような旅人でも普通に買えたりできるのでしょうか?」

「奴隷ですか。勿論できますが、ダンジョンの攻略でもされるのでしょうか?」

「確かにダンジョンに連れて行くこともあるかも知れませんが、別に肉盾が欲しいと考えているわけじゃありませんよ。彼女アンネリが身の回りの世話をする人を欲しがっていまして」

「……ああ、そちらでしたか。失礼いたしました。旅人であっても替えない奴隷はいないとは思いますが、詳しくは奴隷商に聞いていただいた方がいいでしょう。私どもでは詳しい説明は出来ませんから」

「確かに、それもそうですね。とりあえず門前払いではないと聞けただけでも良かったです」

 そう言いながら最後に「ありがとう」と言って一礼をすると、受付嬢も頭を下げて来た。

 さすがに冒険者ギルドで良い奴隷商と悪い奴隷商を聞くのは違うだろうと考えて、確認するのはやめておいた。

 

 そして冒険者ギルドを出てしばらくすると、一緒に行動していたアンネリが話しかけて来た。

「てっきりシーオに向かうと思っていたのだけれど、ここで買うつもりなのかしら?」

「いや、そんなことはないよ。ただ、もしかしたらいい人材がいるかもって思っただけ。アンネリが欲しがっている人なんだから、自分で決めたら良いともうよ。もしかしたらずっと一緒にいることになるかもしれないんだし」

「そういうこと。私はてっきりあなたが決めるのかと思っていたわ」

「そんなわけないじゃないか。口出しなんかしないよ。それにここはシーオから離れすぎていて、考え方も全く違うからね。生活習慣自体違っているんだから、合う合わないは絶対に出て来るはずだよ」

「そうね。そのことも考えた上で選ばせてもらうわ。……思っていたよりも何もできなくて落ち込んでいたところだったしね」

「アンネリはアイリ以上にお嬢様育ちだからなあ。無理もないよ。というか、アイリの方が特殊過ぎるんだけれどね」

 

 幼いころから世界樹の巫女を目指して修行していたアイリは、一般的な貴族の子女とはかけ離れた生活をしてきた。

 そういう意味では、アンネリが一番のお嬢様と言われることになるのは仕方がない。

 もっともアンネリも冒険者生活が長くなってきているので、そういう意味では貴族とは違った生活を送っている。

 当人が望んでいることなので好きなようにさせているけれど、落ち着いた生活を望むのであればどこかの拠点でしてもらってもいいとは思う。

 今のアンネリを見ている限り、そんな生活を望むとは思えないのだけれど。

 

「その話はもういいわ。私が思った以上に生活能力が無かったんだと落ち込むことになるだけだし。下手したら弟子たちよりも何もできないかもしれないわ」

「彼らも中々に逞しくなってきているからなあ。最初は大丈夫かと思ったけれどね」

「……やっぱり環境が人を成長させるのね。私も奴隷を買うのはやめて、なんでも一人で出来るようになってみようかしら」

「それは好きに考えれば良いと思うけれど、別に何でもかんでも一人で出来るようになる必要はないと思うよ。俺だってハロルドを雇っているんだし」

「そういえばそうだったわね。余りにも扱いが普通過ぎて、奴隷だってことは忘れてしまっていたわ」


 ハロルド自身は常に一線を引いた状態で接してくるが、それでも通常の奴隷の扱いとは全く違っている。

 一応主である自分がそれで良いと思っているので、周りから何を言われようとそれを変えるつもりはない。

 ――ということを何度もアンネリには話してきたけれど、やはり小さい時から身に着けている『当たり前』の常識は中々変えることが出来ないようだった。

 それに対してアイリは元々奴隷制度がない国家に生まれているので、特に違和感もなく現状を受けいれることが出来ている。

 

「そういえば弟子たちで思い出したけれど、彼らはどうなっているんだい?」

「どうって、魔力操作のこと? それなら中々良い感じに育っていると思うわよ。少なくとも学校で一緒だった同年代の人たちには負けないと思うわ」

「それは良かった。彼らがどういう道に進むかは分からないけれど、身に着けた魔力操作は無駄にはならないからね」

「ええ、そうね。彼らもそのことを実感したうえで、実践もでき始めているみたいね。もしかしたら今が一番の成長期かも知れないわ」

「なるほどね。それは良かった。いっそのことどこかの学校の教師とかになったら面白いかもね」

「確かにね。でもそれを私が押し付けるつもりはないわ。本人が選ぶのであれば、必要な後押しはするつもりだけれど」


 もとは今後の人生を掴むためにもと追い込まれてアンネリに弟子入りした彼らだけれど、先は明るそうだと分かって安心した。

 彼らがこの先どういう道を進むかは分からないけれど、出来ることなら魔力操作の有用性をどんどん周りに進めていって欲しいと思う。

 そのためにもどこかの学校の教師にでもなれれば良いとは思うのだけれど、そんなことはこちらが口を出すようなことではない。

 当人たちが相談してきた場合には助言も含めて出来ることはあるけれど、そうでないのなら余計なことはすべきではない。

 ましてや俺自身は彼らに直接関わっているわけではないので、アンネリから何かを言われるまでは黙っておくつもりだ。




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