(21)慌しい行動

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 < Side:キラ >

 

 ルミールが戻って来てから数時間が経っていた。

 その頃には完全に夜食も終わらせて、まったりとした時間が過ぎている。

 ルミールも律儀なところがあるため、スイが来るまでいると決めているのか、住処に戻ることなく話を続けている。

 オトやクファが近づいてい来るたびにその大きな体で踏みつけたりしないかと緊張する様子を見せるたびに心の中で笑っていたが、彼(?)の名誉のためにも敢えて言葉にするつもりはない。

 とにかくそんなまったりとした時間を過ごしていると、やがて待ち人であるスイがやってきた。

 俺たちは彼女が守護獣として守っていた国からはかなり離れた場所にいたので、転移魔法でやってきたと思われる。

 

「ご主人様! お待たせいたしました」

「お疲れ様。前にも言ったと思うけれど、無茶をする必要はなかったのに」

「何を仰いますか。ルミールが竜玉を預けることを決めたのです。私が守護獣の座を他に渡しても何の問題もありません」

「いや。問題ありまくりだと思うけれど……その後継者は納得してなったんだよね?」

「勿論です。以前からいざという時には譲り渡すと言い聞かせて来ましたから。多少ごねたりはしていましたが、最後は納得していました」

「いや。ごねていたんじゃないか。……まあ、いいか。そこは俺が口を挟むところではないしね」

 

 守護獣の座を譲り渡すかどうかという問題は、結局のところ当人同士で決着をつけることであってユグホウラの代表である俺が口を挟むようなことではない。

 俺が口を出せばユグホウラか関与していると認めることになってしまうので、他国には介入はしないという名目を守るためにも『お好きにどうぞ』という立場を崩すわけにはいかない。

 もっともスイが守護獣の座を譲り渡した原因が俺自身のことなので、何を今更といわれる可能性はあるが、そこはそれとするしかない。

 この件に関して関係者が何かしらを言ってきたとしても、当の本人であるスイが動いてくれるはずなので余計なことをするつもりもないのだけれど。

 

「――守護獣関連の話はこっちから何かを言うことはしないからね。何かあったらよろしく」

「それは当然です。ご主人様にご迷惑をお掛けするつもりはございません。ラックお兄様も何かあれば私に伝えてください」

「わかりました。そのようにこちらも動きましょう。ですが、主には必ず報告は致します」

「う。それは駄目……と言いたいですが、そういうわけにもいきませんね。それで構いません。よろしくお願いいたします」

「承りました。スイも主の元に馳せ参じると決めたからには、守護獣としての立場は忘れなくてはいけませんよ」

「そんなこと、わかっていますよ。ご主人様との旅の楽しさを知っているので、正直にいえば守護獣は窮屈で仕方なかったのです」

「それは私も理解できます。主がいらっしゃることで、私も今は楽しくさせていただいていますから」


 問題になりそうなことを軽く押し付けたつもりが、何故かラックとスイが和やかに笑いながらこちらを見る展開になってしまった。

 言われて悪い気はしていないのだけれど、くすぐったいという気持ちになってしまう。

 かつては小さな子供だったスイが大人な対応をしていることで、妙な気分になっていることもある。

 色気があり過ぎる大人なスイに長し目で見られると、かつては抱くことのなかった感情が沸いて来て現金なものだと思わず苦笑をしてしまった。


「ご主人様? どうかなさいましたか?」

「いや。なんでもない。それよりも、ちゃんとシルクとかにも挨拶しておいた方がいいんじゃない?」

「わかっています。これから一緒に行動することになりますから。お姉さま方にも先に挨拶してきます。転移門は使ってもいいのでしょうか?」

「それはいいけれど、ここまで転移してきたんじゃない?」

「それはそうですが、やはり自分の魔力を使わずに移動できるのは便利です。距離もほとんど関係ありませんから」

「それもそうか。どちらにしても一度はホームに行くってことになるのかな?」

「はい。きちんと私自身で報告はしておかないといけないでしょうから。お姉さま方を無視するつもりはありません。特にお目覚めになっているアイお姉さまへの挨拶は絶対に必要です」

「いや。そこまで怖がる必要はないと思うけれどね」

「それはご主人様だから言えるのです。とにかく私はこれからホームに向かいます」


 随分と慌しい気もするけれど、スイからするとアイをはじめとした眷属たちへの挨拶は譲れないらしい。

 一緒に話を聞いているラックやルミールもそうしたほうがいいという顔をしているので、ここは変に口を出すべきではない。

 眷属たちには眷属なりのルールがある事は理解している。

 もっともスイは世界樹の魔力で生まれた純粋な眷属というわけではないのだが、そこに問題にするような眷属はいないので好きにさせれば良いと思う。

 

 ルミールから話を聞くなり即行動をしたスイらしく、彼女はすぐに「これで一旦失礼します」と頭を下げてからシルクがいるところに向かった。

 そこにはアンネリやアイリたちがいるのだが、一瞬その二人がスイからの挨拶を受けて気圧されたように見えたのは気のせいだと思いたい。

 同じ場所にはシルクがいるので変なことにはなっていないとは思うのだけれど、スイが何を言ったのか気になるところだ。

 とはいえ今からそこに行っても余計におかしなことになりそうなので、今は見守ることしかできない。

 

 幸いにしてアンネリとアイリが気圧された様子になったのは一瞬のことで、その後は特に変わった様子もなく話をしていた。

 といってもスイがその場にいたのは数分にも満たない時間で、すぐにこの場から離れて行った。

 先ほど言っていたように、ホームに向かうための転移陣がある場所へと移動したのだろう。

 

『――やれやれ。随分と慌しい娘だな』

「彼女らしいともいえるけれど、爵位持ちから解放されて自由に動けるのを満喫しているようにも見えるけれどね」

『なるほど。そういう見方もできるのか。そうなってくると、やはり自由に動けるというのは魅力を感じるな』

「言っておくけれど、ルミールまで譲り渡すなんてことは無しだからね。スイが守護獣の座を降りたことで色々とありそうなのに、これ以上騒ぎになりそうな原因を与えたくない」

『やはり駄目か。安心しろ。確かに自由な身も良いとは思うが、今の立場も嫌というわけではないからな。すぐに動くつもりはない』


 そのルミールの言葉を聞いて、思わず内心で安堵していた。

 ルミールにしてもスイにしても、ヒューマンの感覚でいえば長い間君臨していた支配者であったことは間違いない。

 スイが立場を譲っただけでも人の世界では色々な憶測が駆け巡ることは分かっているのに、それに加えてルミールとなると騒ぎはより一層大きくなるはずだ。

 さらに国家の思惑だけではなく、それを守護しているという名目になっている守護獣たちも動きを見せることになるかもしれない。

 

 自分自身は世界の管理者になったとはいえ、今すぐに世界を激変させようなんてことは全く考えていない。

 今のところは折角安定した世界になっているのに、自分の関与によって激動の時代を迎えさせるなんてことは勘弁してほしいと思う。

 とはいえ大戦争も起こる時には起こってしまうものなので、それを無理に止めようとは思わない。

 自分自身はいい意味でも悪い意味でも戦いが人の文明を成長させるという側面があることは認めているので、理由がない限りは下手に関係の無い戦争に首を突っ込むつもりは無い。




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m(__)m

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