(20)外野の話
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< Side:アンネリ >
長い船旅を経てディア王国へと上陸した私たちは、ギルドでとある依頼を受けて人里離れた場所へと来ていた。
依頼を受けた時点で話を聞いていたのだけれど、それでもその国の守護獣といっても過言ではない存在と当然のように知り合いというのはどういうことかしらね。
ただ普通ならあり得ないと叫んでもおかしくはない状況にも関わらず、これがキラにとっての当たり前という感覚になってしまっている私たちもどうかと思う。
私たちの中では一番新しくメンバーに入ってきたシーリも平然としていることからも、普段のキラがどれほど『普通』ではない行動をしているか察することが出来る。
そのキラは守護獣と同格以上の存在と平然と会話を続けていて、それが当たり前のように私たちも受け入れている。
キラの眷属の一人からギルドの監視が着いて来ていると聞いているけれど、その監視はこの光景をどう見ているのかしらね。
ルミール様のお相手をキラに任せて、私たちは夕食を取りながらのんびりと話をしていた。
「――シルクさんはこちらにいらっしゃっても大丈夫なのですか?」
「あっちにはラックとランカがいるから問題ないわ。それに、わたくしがこちらにいたほうが主様も安心できますわ」
「確かに、それもそうかもしれませんね。本当ならあちらに行きたいでしょうに、お手数をおかけいたします」
「そんなことを言う必要はないわよ。あなたたちはもう既に私たちにとっても身内なのだから」
シルク様はそんなことを言いながら穏やかに笑っていた。
シルク様が仰る『身内』という言葉がどの程度の親密さを示しているのかは分からないけれど、少なくとも大事に考えて下さってることは理解できる。
シルク様には自らの力で生み出した多くの眷属がいらっしゃるということは、彼女自身と話をして既に聞いているわ。
ユグホウラに蜂系統の魔物が多くいるということは以前から知っていたけれど、それらがシルク様の眷属に当たるということを知ったのはその話を聞いてから。
勿論そのすべてを彼女が生み出したわけではないことは理解しているわ。
それでも一部の人々から恐れられているユグホウラの蜂種の頂点にいる方であることには変わりなく、今でも私たちの前でもその顔を時折見せることがある。
彼女と話をすることには既に慣れているけれど、普通なら話をするどころか会うことすらできないお方という線引きはきちんとしておく必要がある。
もっともシルク様だけではなく他の眷属の方々はもっと砕けてくれても構わないと仰っているので、これは私たちが他の人(特に子供たち)に誤解を与えないように敢えて取っている態度ともいえるわね。
「――そういえば、シルクさんはルミール様とお話されたことはあるのですか」
「勿論よ。でもランカほどではないから、わたくしが敢えて行く意味はないですわね。下手に刺激する必要もないでしょうから」
「やはり刺激することになりますか。キラがいる以上は大丈夫だと思うのですが」
「そういう意味ではなくて、ね。あなたたちがいるからこその『刺激』よ」
シルク様からそう言われて、初めて私たちの存在がルミール様の反応を過敏にしているということに気が付いた。
それはシルク様が私たちの護衛役をしていることは当然として、私たちに余計な真似をさせないという意思を示しているということになる。
シルク様をはじめとしてキラの眷属の皆さまは私たちが余計なことをしないということは良く理解されているけれど、ルミール様はそうではない。
だからこそ敢えてシルク様がこちらにいるのだと理解して、思わずアイリと顔を見回せてしまったわ。
「私たちがいることで、やはり余計な手間を掛けさせてしまっていますね」
「違うわ。そういうことではないのよ。いえ、それも少しはあるのけれどどちらかといえば子供たちのことを考えてのことよ」
「子供たち? それこそ何ができるとも思えませんが?」
「そうですわね。ですからルミールが気にしているのは、変に近寄ってきたタイミングで踏みつぶしたりしないかということですわ」
予想もしていなかったことをシルク様から言われて、少し遅れて「あ~」と返す羽目になってしまったわ。
確かにルミール様ほどの巨体であれば、足の下にきただけで簡単に潰されてしまいそうね。
そろそろ成人を迎えるオトだけれど、その背丈は同世代の子と比べて小さいので余計にそう見られているのかもしれない。
オトを見て思わず笑いだしそうになってしまったけれど、さすがに噴き出すのはこらえておいた。
彼が自分の背丈が小さめであることを気にしていることを知っているからなのだけれど、こんなことを私が考えていると知っただけで凹みそうな気がするわ。
もっともクファから言わせればそれがいいと断言するでしょうけれど。
いい加減さっさとくっついてしまえばいいのにと思わなくもない二人だけれど、実はもう既にそういう段階に来ているともいえる。
クファが成人した時点で式を上げてもおかしくはないと考えているのは、私だけではないでしょうね。
「それは……意外というと失礼なのかもしれませんが、繊細なのですね」
「本人もよく理解しているから失礼とは思わないでしょう。ですが、他の人族の前では言葉にしないほうがいいでしょうね。変なことに巻き込まれたくはないでしょう?」
「確かに。ルミール様が怒っていないのに、周辺で変に気をまわして騒ぎになりそうですね」
「それだけではなく。敢えてその言葉を利用して自分の利を利用しようと動く者もいるでしょう」
はっきりと断言したシルク様を見て、過去にそういうことをした人物がいたのだと一瞬で理解できた。
そして過去にそういうことがあっただけではなく、今現在も同じことが起こりえる可能性があることも容易に想像できるわね。
「否定はできませんね。生まれが生まれだけに、実情を知っておりますから」
「人族の性質の一つと言われれば納得するしかありませんが、その行いが私たちにも通用すると思われるのは――おや? どうやら来たようですね」
話の途中でシルク様が視線を変えるのを見て、私たちもつられてそちらの方を確認した。
ただ残念ながら人族の目では特に何も捕らえることが出来ずに、先ほどまでと変わらない光景しか見えなかったわ。
そんな私たちの行動を見て、シルク様はクスリと笑ってから続けてこう言ってきた。
「人の目で確認できるようになるのはもう少ししてからですわね。先ほどルミールが主様に言っていた通りにスイが来たようですわ」
「スイ様が、ですか。本当に守護獣としての立場を捨てて、いらっしゃったのですね」
「あなたたちにとっては意外でしょうが、わたくしたちにとってはとてもスイらしい行動と言えますわ。いつかはこうなると予想できていました」
「そうなのですか? 以前お会いした時にも思いましたが、ここまで積極的な行動をするお方というイメージは無かったのですが……」
「概ね間違ってはいないわ。でも主様が関わっているときだけはタガが外れるのよ、あの子は」
「……今回の行動を見ても、否定できる材料はないようですね」
そんな会話をシルク様としていると、ほんの数秒ほどでスイ様がいらっしゃった。
そのスイ様に抱きつかれてワタワタしているキラを見て、私もそろそろ積極的に動いたほうが良いのかしらという考えが浮かんできた。
そして隣に座っているアイリが何ともいえない顔に気付いて、私も同じような顔になっているのだろうなと何とも気まずい気持ちになり。
さらにそんな私たちの顔を見てシルク様はいつも以上に優し気な微笑みを浮かべていて、私たちの気持ちをきちんと見抜かれているのだろうと少しばかり気恥ずかしくなってしまったわ。
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