(19)龍の検証

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ルミールと話をしている間に時間は過ぎ去り、今夜はこの場所で野営をしていこうということになった。

 ただ野営といっても馬車そのものが拠点になっているので、現地での食料調達以外には特にやることはない。

 一台の馬車で全員が泊まることができる空間拡張されていること自体が普通の冒険者からすれば反則技なのだが、あるものは使う主義なので変に隠すつもりもない。

 眷属の報告からコソコソとつけてきている者がいるということも聞いているけれど、敢えて気付かないふりをし続けている。

 それが彼(彼女?)の仕事だと分かっているので、邪魔するつもりもなければわざわざ忠告するつもりもない。

 そもそもルミールが近くにいる時点で仕事はきちんとやっていると分かってくれるはずなので、下手に追い返さないほうがいいという判断もある。

 追跡者についてはアンネリたちにも話をしていて、ギルドの関係者だろうということで結論が出ていた。

 よそ者である自分たちが、国にとってもギルドにとっても大事な存在であるルミールに対して余計ないことをしないように監視をすることは当然だろうと思う。

 

 俺がルミールの相手をしている間にアンネリたちが夜食用の肉を取ってきたところで、今夜も新鮮な食事を頂くことができた。

 そして片づけを済ませてから再びルミールのところへ向かうと、わざとらしく何かを思い出した様子になってこう言ってきた。


『そういえば、ここに戻って来る途中にスイと話をしたが彼女もここに来ると言っていたぞ?』

「いや、待って。色々突っ込みどころがあるんだけれど!? そもそもスイは守護獣をやっているから土地から離れられないよね?」

『我もそう思うたのだがな。どうも前にお主と会ってから権限を委譲する準備を進めていたらしいな。我のところにいると判明して、すぐに来ることに決めたようだな』

「いや、決めたようだって、そんな簡単に……出来るものなのか?」

『我は知らんな。だがスイが実際にやったのだから出来るのだろう。権限を渡したのは眷属の者らしいな』

「それはまた……随分と思い切ったというか、いや。彼女らしいといえば彼女らしいのか」


 自分が関わっているだけに、スイの様子が容易に想像が出来て思わず苦笑してしまった。

 俺のことが関わるとスイが暴走しがちになるのは一周目の時からなので、今更彼女の行動自体に驚くことは無い。

 それよりも領域の所有者が権限を眷属とはいえ、委譲できることのほうが驚いた。

 思わずシステムからそんなことが出来るのかと確認したけれど、ルミールと会話中なのでそこまで深く調べることは出来ずに終わった。

 これは掲示板案件だろうと頭の中に留め置いて、今はまずスイのことだとルミールとの会話を続けることにした。

 

『――そういう言葉が出て来ること自体、お主らしいと言えるがな。領域の主があっさりと土地を放棄したことではなく、移譲が出来たことを驚くのか』

「いや。ルミールだって領域の主になる前のスイとあったことがあるんだから、そこまで驚くことはないんじゃない?」

『……むう。そう言われると反論しづらいがな』


 俺の反論に、ルミールはあっさりと前言を撤回してきた。

 一周目の終盤ではほとんど一緒にくっついて歩いていたので、ルミールもスイと直接会ったことがある。

 当時のスイを知っている者であればほとんどが驚かないことが推測できるだけに、ルミールの反応も予測は出来ていた。

 今更ながらに思うけれど、一周目を終わらせるきっかけになった『あの行動』を取ったヒューマンは奇跡的なタイミングで事を成したということが分かった。

 

「だからスイの行動は今更として、ルミールに質問だけれど君もやっぱり権限の移譲はできるのかな?」

『さて。やってみようと考えたことすらないからわからんが……なんだ。やってほしいのか? お主が望むんだったら構わないが』

「いやいや。折角ルミールがいることでこの地域が安定しているんだから必要ないよ。君が望むんだったらやっても構わないけれどね。ただ知識として知っておきたいだけ」

『何だ、つまらん。――そんなことよりも権限の移譲が出来るかどうかか。スイの奴にどうやったら出来たのか聞いたほうが早いと思うがな』


 そんな前置きをしつつもルミールはきちんと言われたとおりに調べ始めていた。

 この世界で生まれている領域の主は、プレイヤーのようにシステム画面を見て領域の運営をしているわけではない。

 領域の主として出来ることと出来ないことの区別は、体感的に知る事ができる――らしい。

 俺自身にはそんな第六感的な能力は備わっていないので、あくまでも領域の主たちから聞いた話が元になっている。

 

「まあね。でもルミールが出来るのか出来ないかでも色々と考えることはあるからね。一応知っておきたいんだ」

『やれやれ、相変わらず妙なことを考えるのだな。それはお主が変わっていないことを示すから良いとして、権限の移譲か。さて、我が出来るかどうかだが――』


 ルミールは、そう言いながら巨体に見合った両目を瞑る。

 それが彼の試行をするときの仕草だと分かっているので、黙って彼からの答えを待つことにした。

 もっともルミールが目を瞑っていたのは時間にして一分ほどのことで、長時間待たされることはなかった。

 以外に早い反応があったのは、ルミールが答えを見つけることが出来たからだ。

 

「何か分かった?」

『そう答えを急くな。まだ確信を得られていないからもう少しだけ待て。恐らくこれがだと思うのだがな』

 ルミールがそう言いながらもう一度目を瞑ったので、待つ方としては黙っていることしかできなかった。

 ここで焦って声をかけてもろくな結果にならないことは、過去の経験から良く分かっている。

『――うむ。これがそうだな。するつもりがないが、これに働きかければ権限に委譲はできそうだ。恐らく眷属がいなければ出来ないようになっているのだろう』

 確信を持った様子でそう言ってきたルミールに「なるほど」と頷き返した。

 

 ルミールとスイのお陰で領域の主は権限を委譲することが可能だということが分かった。

 今までは領域の主が討伐されることで領域を与えられると認識していたけれど、これで別の方法が示されたことになる。

 これが分かったからなんだと言われればそれまでなのだけれど、領域に縛られていることにうんざりしているプレイヤーにとっては朗報になるかも知れない。

 自ら領域を手放すなんてことは考えたことがなかったので、もしかすると掲示板なのでは既出の情報ということもあり得るので報告する前に一応調べる必要はあるけれど。

 

 とにかく今はルミールに確認してもらえただけで有難かったので、きちんとお礼は言っておいた。

 それで返ってきた言葉が『お主――いや、主の願いをかなえるのは当然だ』というものだったのは、彼なりの冗談だということはすぐにわかった。

 とはいえこちらが本気でいえば、ルミールは絶対に断ることはしないだろう。

 それほどまでに竜玉を他の存在に渡すということは、龍にとっては重いことになる。

 

 そんなルミールが今でも軽いノリで話しかけてきているのは、以前からそういう関係だったことが大きく影響しているのだろう。

 俺もその関係性が楽なので、今更畏まった態度を望むつもりは全くない。

 そんなことを考えながらルミールと会話を続けていると、ついにスイが今いる場所まで姿を見せた。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る