(18)龍の気まぐれ

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 依頼を受けてまでわざわざ来たのは本当に旧友に挨拶をするためだけだったので、言ったとおりにすぐに別れるつもりだった。

 ところが自分たちが立ち去ろうとしたところでルミールが「ちょっと待っていてくれ」と言ってきたので、素直にその場で待つことにした。

 俺としては慣れた相手なのでそんなこともあるかと納得していたのだけれど、さすがに相手が相手ということで俺と眷属以外の皆は戸惑った様子で待っていた。

 

「――本当に何の用なのかしらね」

「あんまり気にしすぎても良くないと思うよ。強者が気まぐれなのはどこの世界も同じだからね。たまたま俺たちが来たことで、何か思いついただけだろうね」

「ハア。そんなものかしら。キラがそれに慣れているということの方が問題なのよね。本当なら」

「それはまあ、ほら。一応、俺も普通ではないという分類に入るみたいだしね」


 一つの世界の管理者になったお陰(?)で、自分が『普通』ではないことは自覚できている。

 そのせいなのかお陰なのかは別として、アンネリからの突っ込みも笑って受け流すことも出来た。

 その答えを聞いて、アンネリは何かを思いついたような顔をして「それもそうか」と返してきた。

 そういうアンネリも既にヒューマンの中では強者の一人として数えて良いくらいにはなっているのだけれど、どうやらその自覚は無いようだった。

 

「――そんなことは良いとして、オト、クファ。どうやらお客さんみたいだよ。折角だから二人だけでやってみようか」

「えっ……!?」

「は、はい!」

 突然に視線を向けられて言われたオトとクファの二人が、慌てて立ち上がって答えた。

 

 ルミールが現れた時には周辺から魔物の一切がいなくなっていたのだけれど、空に飛び去ってからすぐにまた魔物が集まり始めていた。

 そんな中には、俺たちを獲物だと認識して近づいて来る魔物がいたのだ。

 ルミールよりも強い眷属がいるにもかかわらず何故そうそう簡単に近寄って来るのかという疑問はあるけれど、近づいて来る以上は処理しなければならない。

 幸いにしてオトとクファでも足せるような強さなので、二人に任せることにした。

 もしかするとその二人でも倒せるような強さしかないからこそ、ドラゴンという姿かたちでしか判断できないような危機能力しかないのかもしれない。

 

 そんなわけでオトとクファの戦闘を全員で見守っていたが、特に注意することもなくしっかりと処理をしていた。

 さすがに伊達にダンジョンに潜って戦闘をこなしている二人だけあって、敵が近づいて来ると分かってからの動きは全く問題がなかった。

 俺たちと一緒にいるからという安心感があるからかもしれないけれど、周囲への警戒感はもう少し磨かなければならないところが反省点だろうか。

 

 魔物の知能に関してはそれこそピンからキリまであるので、自分たちのところまで近寄ってきたことについては皆も気にすることは無かった。

 具体的に言葉にすると「まあ、そんなものだろう」程度のことでしかない。

 知能に限らず本能も鋭かったり鈍かったりと様々なので、気にするだけ無駄だともいえる。

 さらに言うと、強い魔物も敢えて弱い魔物を魔力量的に狙ったりはしないので、逃げる必要性を感じないように見える。

 

 とにかく時折突っ込んでくる魔物をあしらいつつ時を過ごしていると、二時間ほどが経った頃になってルミールが戻ってきた。

『――すまんな。待たせたか?』

「いや、まあ。待ったと言えば待ったけれど、今日は野営する予定だったからどこで泊まるかの違いだけだったかな」

『そうか。それならよかった。お主だけなら魔法でひとっとびだろうといえるが、足手……仲間がいるならそうなるのだろうな』

「こらこら。足手まといと言おうとしただろう? ――それはいいとして、わざわざどこかに行っていたみたいだけれど、何か持ってきたのか?」

『おっと、そうだった。これを渡しておこうと思ってな』

「何を……って、竜玉じゃないか!」


 ルミールから魔法を使ってひょいという感じで差し出してきた何かのモノをチラリと確認すると、すぐにそれが何かがわかった。

 こぶし大ほどの大きさで光に当たって時折輝きを見せるそれは、紛れもなく竜が必ず一つ所持していると言われている竜玉だった。

 とある事情から竜玉のことを知っていたので、どういうつもりかと無言のままでルミールへと視線を向けた。

 

「一応今の俺は人として過ごしているのに、何故今更こんなものを?」

『何を言っている。見た目は人だろうが、その強さで誰かに何かをされることなどないであろう? それに預かっていただけだ。元の持ち主に返すのは当然だろう』

「やれやれ。律儀というかなんというか。折角、眷属という立場から解放されていたんだから、わざわざ自分から戻る必要などないだろうに」

『お主の下についていると面白いことも多いからな。下手に孤高を気取るよりもはるかに楽しい竜生を送れることは以前のことで分かっているぞ』


 カカカと笑い出しそうな雰囲気で言ってきたルミールに、やれやれとしか返すことができなかった。

 ルミールの言葉を深読みすれば、竜玉を渡すのだから楽しいネタを提供しろと言っているのと変わりがない。

 爵位持ちという存在が土地に縛られている以上は仕方のないことなのだけれど、あまり変わり映えしない日々に飽きが来る者も多かったりする。

 一周目の時に会ったルミールもまた退屈に飽いていて、今のように自ら進んで竜玉を渡して来た。

 かつての自分も土地に縛られることの退屈さは知っているので、ルミールの言いたいことは理解できる。

 

「――はあ。やれやれ。先に言っておくけれど、今はあくまでも人だから以前と同じようには出来ないからな?」

『そうは見えないが、まあ言いたいことは理解する。あくまでも退屈しのぎなのだから構わないさ。何よりも竜玉を守ってもらう相手としては誰よりもふさわしいだろう?』

「そこは、あまり否定は出来ないかな」

『そうだろう。どう転んでも我にとっては良いことしかないわけだ』

「……ハア。わかったよ。とりあえず君が飽きるまでは預かっておくことにするよ。もし解放されたくなったらいつでも返すから言ってくれ」

『安心しろ。あくまでも我の予感でしかないが、そんなことにはならぬよ』


 それは安心してもいいのだろうか――なんて疑問が浮かんできたものの、それを口にすることは止めておいた。

 断ったことで機嫌を悪くしていきなりブレスを吐くような性格をしているわけではないけれど、むやみやたらにドラゴンの機嫌を損ねるようなことをするつもりもない。

 ルミールが突然ブレスを吐いたとしても、ここにいる全員を守り切るだけの自信はある。

 といってもこの辺り一帯の自然は確実に損なわれるだろうし、何よりも今受けている依頼は完全に失敗判定になってしまうはずだ。

 

 依頼とアンネリたちの命のどちらを優先するかと言われれば間違いなく後者を選ぶ。

 ただ、そんな状況にはならないと確信している今は依頼のことを考えてもいいだろうと思う。

 国王クラスのドラゴン相手に随分な自信を持ったと思うけれど、事実である以上は無駄に怯える必要はない。

 それに竜玉を預かれば眷属に近い扱いになることは分かっているので、敵対されることもない。

 

 そんなことを考えながらも、手に持っている竜玉の輝きに目を奪われながらいそいそと拡張魔法がかかった袋にしまい込んだ。




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