(17)呼び出し

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 一言でディア王国といっても自分が知っているインドと同じくらいの面積がある国なので、場所によっては目的地にたどり着くだけでもかなりの時間がかかることがある。

 ただし今回の依頼は近くの山を住処としているドラゴンを確認して指定した荷物を置いて行くことのなっているので、きちんと移動時間も考慮されている。

 それに加えて自分たちの移動は、レオを始めとした魔馬たちを利用することになるので時間的余裕もある。

 レオたちに引かせる馬車も通常ではありえない豪華仕様なので、快適な列車旅をしているのと変わらいくらいにはゆったりとした旅ができていた。

 アイがしっかりと動いている以上は点検・改良も常にされているので、不具合など起こることもなく目的地に着くことが出来た。

 

「――ここら辺りから縄張りになっている……と思うんだけれど?」

「そうね。ドラゴンの探知能力はかなり広いと言うからもう気付かれていてもおかしくはないと思うわ」

「確かにね。でもまあ、折角だから待つだけじゃなくて別の方法で呼び出そうか」


 そう言ってから一緒に着いて来ていた眷属のランカに視線を向けると、彼女は了承したとばかりに頷いて数歩前に出てきた。

 そして一度だけ大きく息を吸ってからそれに見合うような大声を上げ――ることはなく、普通の大きさの声を出した。

 ただし一度の息継ぎをすることなく音を出し続けるロングトーンで、普通ではありえないくらいの長さを続けていた。

 

 ランカの本性はドラゴンで、ルミールとは既知の間柄になる。

 元はランカとルミールが繋がったわけではなく、ユグホウラ経由で知った仲になるが、同種族ということで他の眷属よりも関係性が強い。

 ランカが行っている呼び出し方法はドラゴン同士で行う方法になるので、通常よりも早く来てくれる……はずだ。

 ちなみに通常だともう少し山の奥まで進んで数時間単位で待ち続けることになるのだが、ランカがいるお陰でそこまで待たなくても済む。

 

 できる限り邪魔をしないように静かに待っていると、やがてランカのロングトーンが止まった。

「――お待たせしました。返事があったからすぐに来ると思う」

「そう。いつもありがとうね」

「私たちにとってはただの会話だから礼を言われるようなことじゃない。でも、ありがとう」


 少しだけはにかみながら礼を言ってきたランカに、こちらの手を小さく振って答えた。

 そしてそれから数分ほど待つことにはなったけれど、ランカが言っていた通りに待ち人(ドラゴン?)がやってきた。

 同じ種族の中でもひときわ大きな体躯を持つそのドラゴンは、エメラルドグリーンの色をしている。

 光に反射して時折輝くその姿は、この世界においても圧倒的な力を持っていることを見ただけで理解させられるような圧がある。

 

 ルミールは一塊になっている俺たちを睥睨してから一度ランカを見て、すぐにこちらに視線を向けてこう言葉(?)を発した。

『これはこれは。既知の友に呼ばれて来てみれば、珍しい姿があるな。長いこと姿を見せていなかったどころか、風の噂でその身を滅されたはずの御身が何故ここにおる?』

「あ~、うん。細かい話はあとにして、今は依頼を終わらせてしまっていいかな?」

『……依頼だと? 人の姿もあるからもしやと思ったが、我の予想も間違ってはいなかったということか』

「そういうことだね。どうせだったら堂々と君と話をしたくなってね。折角だから利用させてもらったよ」

『やれやれ。そういうところは昔と変わっていないな。だが随分と変わったところもあるようだ』

「ハハハ。お陰さまでね。それはともかく、荷物を受け取ってよ」

 俺がそう言いながら視線を向けるとハロルドが用意していた小荷物を差し出してきた。

 中身は人が作った酒らしく、これを土産物として渡すことでお互いの契約のようなものとしているらしい。

 

 ドラゴンの図体からすれば人間用の酒瓶一つで酔うことなどないだろうが、別にこの依頼をこなしているのは俺たちが依頼を受けたギルドだけで行っているわけではない。

 塵も積もれば山となる――ではないが、細かく受けとっている分を全て合わせればかなりの量になるそうだ。

 今回はランカが直接召び出したのでルミールはすぐに来たけれど、場合によってはその場に放置するだけでも構わないという内容になっている。

 その場合は後日別の冒険者がこの場を訪ねてきて、荷物が回収されているかを確認するとギルドの受付嬢さんが言っていた。

 

 この辺り一帯を支配しているドラゴンへの荷物をかすめ取るような冒険者はいるはずもなく、もしいたとしても後から来る冒険者に確認されて終わりになる。

 ディア王国のギルドにとっては上から数えたほうが早いほどに重要な依頼だけに、一度でも不正をしたと発覚すれば評価は駄々下がりになるはずだ。

 その結果どうなるかは、冒険者なら誰もが知る事だと思う。

 そうした諸々の事情からギルドが冒険者を評価するためにこの依頼を利用していることは、間違いないことだろうと思う。

 

 俺が差し出した荷物を魔法を使って器用に受け取ったルミールは、そちらにはほとんど気にも留めずにさらに続けて話しかけて来た。

『うむ。確かに受け取った。――それにしても、お主が人に紛れてこのようなことをするとは何が目的だ?』

「そんなに警戒されるような理由はないよ。単にこの辺りに来る用事があって、ギルドの掲示板を覗いたらたまたまこの依頼があっただけ」

『こんなに御大層な面子でと言いたいところだが、お主がいる時点で当たり前ともいえるか。周りにいる魔物どもは気付いていないようだが』

「気付かれても困るけれどね。魔物が近寄って来なかったら仕事にならないし。……冒険者としての仕事はほとんどしてないけれど」

『我すらも軽く超える強さを持っているお主が何を言う。本気で暴れれば、誰であれ止めることなどできないだろう?』

「そんなことする必要もないからしないけれどね。ルミールだって同じだよね?」

 笑いながらそう問いかけると、ルミールは『違いない』と応じて来た。

 どう見ても国王クラスの爵位を持っていると分かるルミールであれば、この辺り一帯を焼け野原にすることなど息をするようにできるだろう。

 

『そういうことにしておこう。それよりも本当に顔を見せに来ただけか?』

「そうだね。君にとっては意味のないことかも知れないけれど、人の世界では重要なことではあるからね」

『なるほど。確かにこうして顔を見せることは大事らしいからな。我もこれまでの間で色々と学んだ』

「みたいだね。以前だったらこんな面倒なやり取りだってしていなかったんじゃない?」

 

 何故か当たり前のように行われているこの依頼も、以前のルミールを知っている身としては驚きだった。

 人と会うことすら煩わしいと考えていたルミールが、わざわざ人の都合によるご機嫌伺いのために顔を見せることが以前からは考えられない言動になる。

 過去に何かあったのかとすら思うけれど、色々な考えがありそうなので敢えてこの場で聞くつもりはない。

 ルミールのような強大な力を持つ存在が、闇雲に力を振るわなくなったことだけでも世界の安定にとっては必要なことだろうと思う。

 

 そんなことを考えながらも実は自分も同じ立場にいるのだけれど、未だに実感が沸いていなかったりする。

 持て余し気味の力をどうこの世界のために利用するべきか、常に考え続ける必要があるのかもしれない。




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