(16)面白そうな依頼

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 適当に町を散策しながら冒険者ギルドへと向かうと、建物の中に入る直前にトムたちと会った。

「あれ? もう見る者が無くなった?」

「あ、キラ様。そういうわけじゃなくて、逆に面白そうなものを見つけたから早く報告しようと思っていました」

「面白そう? 二人が見ていたのはギルドに張られていた依頼だよね?」

「それ以外に資料室にもいきましたが、報告はとある依頼についてです」

「うーん。トムを見る限りでは急ぎのものではなさそうだけれど、何が面白そうだったのかな?」

「それはお……私の言葉で聞くよりも、実際に見てもらったほうが早いです。ちょうど今、ギルドの前にいらっしゃいますから」

 トムはそう言ってクルリと方向を変えて、つい先ほど出て来たギルドの扉に向かって歩きはじめた。

 

 俺たちも一度だけ顔を見合わせてから、ゆっくりとそのあとをついて行った。

 特に慌てている様子はないので緊急性を要するものではないことは分かっている。

 それに加えて若干トムが楽しそうにしているところが気になる。

 普通に『何があったのか』と気になるのだけれど、折角トムが楽しそうにしているので呼び止めるようなことはせずに任せるままに動いた。

 

 ディア王国のギルドの様子は他のところと変わらず、独特の雰囲気を漂わせていた。

 俺たちが中に入ると、彼らからの視線が集まるのも変わらなかった。

 普段一緒にいると忘れがちになるけれど、アンネリにしてもアイリにしても美人なので視線が集まるのは当然だと思う。

 ついでに言えば、一緒にいる俺に対しては色々な意味で強い視線が送られることも変わらなかった。

 

 ここ暫くは船の上だったために忘れていた感覚にさらされて内心では苦笑をして、表面的には顔色を変えないようにしながらトムの後を追う。

 ギルドの造りも独自色を出さないように敢えて同じようにしているらしく、依頼が張られている掲示板も大差はなかった。

 十歩ほど先を歩いていたトムが掲示板の前で振り返って、俺たちが来るのを待った。

 そして十分に近づいてきたところで、トムがとある依頼を指さして言った。

 

「ほら。あれです。こんな依頼もあるのかと、ところ変われば色々な事情があるのかと思いました」

「どれどれ? ああ、あれか。――ドラゴンへの荷物配達? 何、これ?」

「そう思いますよね。私も不思議に思ったので、職員に詳しく話を聞いてみました」

 

 そこからトムに詳しく話を聞いてみると、なんでもディア王国にはシーオ周辺とは違い国を守る守護獣のような存在はいないらしい。

 その代わりにというべきか、辺り一帯を支配しているドラゴンが存在していると。

 そのドラゴンは積極的に人族を狩るようなことはせずに、近くの山で気ままに暮らしているそうな。

 そんなドラゴンを人々は昔から信仰対象のような扱いに徹していて、お互いに刺激し合うことなく上手く共存しているとのことだった。

 とはいえいつ何時ドラゴンの心変わりが起こるか分からないため、定期的にお供え物のような物を送ることを続けているらしい。

 

「お供え物、ねえ……」

 トムの話を聞いてあることを思い出して思わずそう呟いたのだけれど、その時の顔を見て全員が『おや』という顔になった。

 さすがにこれだけ一緒にいると、何か含みを持たせていることに気が付いてくれたらしい。

 ただしそれをこの場で話すことは出来ないので、再び視線を掲示されている依頼に向けることで誤魔化した。

 

「この依頼って俺たちでも受けられるかな?」

「はい。ランクも問題ないですから。ただ転籍の報告はする必要があります」

「それはもともとそのつもりだったから、ついでに今からやってしまうか」

「「そう(です)ね。そうしましょう」」


 冒険者ギルドで転籍といえば、二つの意味がある。

 護衛依頼などで各地を転々とする冒険者は、時に国またいで活動することが多い。

 そのため国を移動して依頼を受ける場合には、移動した国にあるギルドで転籍の申請をしなければならない。

 もう一つの意味は、活動の中心拠点そのものを移動したときに行うための手続きになる。

 

 前者の場合は一時的にその国で依頼を受ける場合に必要になる申請になっていて、これをしないとその国で依頼を受けることは出来ない。

 もっとも申請といっても他国から来たことを報告した上でギルドカードに情報を追記するだけなので、そこまで複雑な手続きをするわけではない。

 その一方で拠点ごと国を変えて活動するためには、面倒な手続きをしなければならない。

 ただし地球ほど厳格な戸籍のようなものがあるわけではない上に、腕(ランク)がある冒険者だと歓迎される側なので基本的にはギルド任せで終わる手続きではある。

 

 今回はあくまでも一時的な滞在なので、簡単な手続きだけで終わる。

 早速受付まで行って、転籍の申請をすると受付嬢さんも慣れた様子で手続きを進めていた。

 今いる町は港町だけあって、船を利用して国を超えて来る冒険者が多いのだと思う。

 トムやシーリも既に手続きを終えていることから分かる通り、そこまで時間はかからずに手続きを終えた。

 

 その手続きでディア王国のギルドでも依頼を受けることが出来るようになったので、例の依頼を受付へと持って行った。

 すると依頼を受け付ける担当の受付嬢が、その依頼を受け取ったあとで少し戸惑った様子でこちらを見て言った。

 

「――こちらの依頼を受けられるのでしょうか?」

「そのつもりだけれど、何か問題でもあったかな? ランクは足りていると思うけれど?」

「いえ、そういう意味ではございません。中には物見遊山で悪戯半分度胸試し半分で持って来られるかたもいらっしゃいますので、一応毎回確認しているのです」

「ドラゴンを相手にそんなことをする冒険者がいるんだ。何というか……いや、これ以上は何も言わないでおくよ」

「確かに、そのほうがよろしかと思います」

 

 後半を小声になって言うと、受付嬢も声を落して何度か頷き返してきた。

 その態度を見る限りはこの受付嬢はで、こちらへの心配半分、ギルドの職員としての職務が半分で確認してきたことが分かった。

 ドラゴン相手に遊び半分で依頼を受けるようなことをされると、ギルドの評価が落ちるどころの話ではなくなる。

 それを防ぐためにもしっかりと確認してきたのは、少なくともギルド内での彼女の評価が高いことも理解できる。

 真面目に職務をこなしている彼女を説得できなければ、この依頼を受けることは叶わなくなってしまう。


「それはいいとして、俺たちはこの依頼を受けてもいいのかな?」

「はい。今の話を聞いても問題なさそうですので、こちらで依頼の受領をいたします。一応お伝えしておきますが、一定期間戻らなければこちらで未達と判断しますのでお気を付けください」

「ここには一か月間と書かれているけれど、今日からということでいいのかな?」

「そうなります。ここの期間は、あくまでもギルドで設定しているものでルミール様が決めているものではありません」

「なるほどね」


 ちなみにルミールというのは依頼対象になっているドラゴンの名前のことで、掲示板に張られていた依頼書にもしっかりと書かれている。

 とにかく期間が一か月というのは、今いる場所から考えても歩きの冒険者だと結構ギリギリな設定になっている。

 そこから考えても真面目に依頼を遂行できる冒険者を選別していることは間違いないのだけれど、自分たちにとっては問題が無いので改めて依頼を受けることを伝えるとあっさりと受領されることになった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る