(15)新天地到着
すいません。遅くなりました。
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< Side:キラ >
船で最後のヒノモトの港町を出発してからひと月以上経っていた。
その間も色々な港に寄っては町の見学をしたりしていたけれど、特に変わったことが起こることはなく普通に観光をするくらいで終わっていた。
もともとこの世界では地球ほどそれぞれの国内で地域差があるわけではないので、建物や食べ物の違いを感じるだけでも十分観光をしているといえる。
地球の感覚でいえば中心地から離れて田舎に行くほどそうした差が出て来るはずなのだが、こちらではそういうことにはなってない。
人の多い中央から人が出て行って新たに村を作るということが常態化しているので、そもそもが似通って来るのは当然かもしれない。
そして中央からはなれば町や村を作ったとしても、魔物の襲撃で潰されることが多いことも独自の文化が発展しにくくなっている要因の一つなのかもしれない……と思う。
さらにいうならば、地球とは違って様々な人種がいることも要因の一つになっているとも思える。
ただこれに関しては、サーバー間での違いもあるようなので運営が敢えてそういう環境にしているということも考えられる。
実際のところは分からないけれど、とにかく地球ほどに大きな違いがあるというわけではないことは確実だ。
地域によって育つ植物が違うので食事が多様化しているのは間違いないので、それは旅行する際の楽しみの一つになっている。
この日停泊した船から久しぶりに地上に降りた港町は、近隣からディア王国と呼ばれている国にある町だ。
地球の国でいえばインドの南端にある港町に降り立った俺たちは、久しぶりの観光を楽しんでいた。
「うーん。さすがにここまで来るとヒノモトとは建築様式がだいぶ違うね」
「そうね。屋台で売っている物も違っているように見えるわよ?」
「アンネリの言う通りだね。移動するたびに少しずつ変わっているとは思ったけれど、ここまで来ると違いが実感できるかな」
行くかの屋台を見回った限りでは、この辺りは
運営がわざと雰囲気を地球に合わせたのかは分からないが、キラとしてはわかりやすくてなじみ深く感じていた。
もっとも元の世界にいたときにはインドへ旅したことなどなかったので、完全にテレビなどから得た知識だけしかない。
インド=スパイスという図式が成り立っている時点で知識に偏りが過ぎることは分かっているので、その知識を披露することは止めておいた。
「地産地消がいいとは言われますが、そもそも自生していたものを育てた方が楽なことには違いありませんから。独自のものが発展することは当然かと思います」
「ああ、うん。アイリの言いたいことは分かるけれど、俺がいいたいことはそういうことじゃなくてね。――いや、自分の知っている常識を当てはめようとすること自体が間違いなのか」
「キラさんの……ということは、あの話に当てはめてのことでしたか」
「そういうことだね」
皆には既に自分が別世界で生きて来た記憶を持っていることを話してある。
ただそれを往来で言葉にすると変に注目を浴びてしまうことは分かり切っているので、アイリも敢えて言葉を濁して聞いてきた。
「――うん、まあいいか。今は折角珍しいところまで来たんだからこの町での観光を楽しもうか」
「そうよ。折角なのだから楽しみましょう。変なところにこだわるのはあなたの悪い癖よ。……私も人のことは言えないけれど」
「アンネリも色々と考察をすることが好きだからなあ。完全に育ちのせいだと思うなあ」
「それは否定できないわね。でも育ちという意味でいえば、アイリに似たようなものじゃない?」
「私は貴族というよりも巫女として育ちましたから、アンネリ程ではないかと思いますわ。その分、信仰心というか信仰への探求心が強くなっていますが」
「それはそれで一般的とは言えないわね。そうなると私たちは考えてから動きパーティということかしらね。――あら、あれは美味しそうに見えるわ」
「どれ……ああ、あれか。確かに食べてみたいような見た目をしているかな。ちょっと寄ってみよう」
いつものように寄り道しがちな会話をしつつ歩いていると、アンネリがとある屋台に目を向けた。
香辛料の香りが強く漂って来るところは他と同じだが、どことなくシーオ(ヨーロッパ)方面の料理が混ざっているような見た目をしている。
どうしてだろうと内心で不思議に思っていたが、すぐにその答えを見つけることができた。
その屋台で使われているメイン食材が、パスタ用の麺が使われているためだ。
この辺りも周りを見回してみれば麺類が全くないわけではないことは見て取れるのだが、パスタ麺を使っている屋台はアンネリが目をつけた屋台しかないようだった。
そこまで分かるとどう香辛料と合わせてパスタ料理が作られているのか気になってきたので、その屋台に近寄って一つ注文してみることにした。
店主と適当に会話をしてから一つだけその屋台飯を買って、三人で分け合って食べる。
「へえ~。こんな感じになるのか」
スパイスを利用しているだけあってカレー風味になっているのはいいとして、味のバランスはきちんとパスタ麺に合うように作られている。
店主はシーオの生まれのようには感じなかったが、この屋台料理を開発した者がシーオ出身なのは間違いないだろうと断言できた。
見ていて面白かったのは、アイリが面白そうな顔をして嬉しそうに食べているのに対して、アンネリは何とも言えないような顔をしていたことだった。
アンネリも別に不味いと思っての表情ではないことは見ていてわかる。
敢えて言葉にするとすれば、いつも食べているものになれない味が混じっていて違和感を覚えているといったところ。
普段はしない組み合わせなのに、味はきちんと(?)美味しいので脳がプチパニックを起こしているのだろうと思う。
「おーい。アンネリ、大丈夫か。戻って来いよ~」
「だ、大丈夫よ。ちょっと意外に感じただけだから……」
「この組み合わせでここまで美味しくなるのかと、びっくりしているだけだろうね。慣れてしまえば普通に受け入れられるようになるんじゃないかな?」
「そ、そうね。何度か食べていけば……」
「いや。無理に勧めているわけじゃないから、変に努力する必要は無いんだけれどね」
所詮と言っては店主に失礼になるので言葉にはしないが、数ある屋台のうちの一つでしかないので絶対に食べる必要があるわけではない。
アイリなんかは好きになっているようなので、数日滞在している間にもう一度来そうな雰囲気を出しているので来ることもあるだろう。
だからといって、アンネリも一緒に買わなければならないというわけでもない。
「――まあ、いいや。とりあえず前にも言った通り何日かは滞在するつもりだから、好きなように見て回ればいいんじゃないかな? 俺やアイリは好きってだけだから」
「そうね。他にも色々とありそうだから、無理をする必要はないわよね」
「そういうこと。そんなことよりも予定通り冒険者ギルドに顔を出しに行こうか。そろそろトムたちも待っているだろうしね」
トムとシーリには先行してギルドに向かってもらっている。
自分たちと一緒に行くと周囲からの見られ方も変わって来ることは分かっているので、敢えて年が若い二人に先に行ってもらったのだ。
それでこの地域での冒険者の態度も見分けられるだろうと考えてのことだ。
この場所で冒険者活動をするかは決めていないのだけれど、何かあった時のために情報収集は必要なのでどこの町に滞在してもやっていることだ。
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フォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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