(14)先のこと

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:ラッシュ >

 

 冒険者パーティへと助言を終えた俺は、ダンジョンマスター権限を使ってサクラと一緒にコアルームへ戻ってきた。

「あれでよろしかったのですか?」

「構わないさ。あれ以上のことを言えば、変に勘違いすることあり得る。あとはあいつら次第だ」

「そうですか。それにしても、以前とはまた違ったアプローチのされ方をなさいましたね」

「まあな。毎度同じパターンだと飽きるからな。ということと合わせて、どう関わればいいのか模索中というだけのことだ」

「彼らがうまく行かないことも予測のうちというわけですか?」

「どうだろうな。人がどう行動するなんて俺にも予測なんてできないさ。それに所詮はお遊びだ。彼らがいい方向に動いてくれればいいが、そうならなったとしても問題は無い」

「お遊びですか。私としては無駄に犠牲は増やしたくはないのですが……」

「言いたいことはわかる。だが、済まないが俺には俺の目的があるからな。それに今の人の戦力だと多少の戦闘能力が上がったとしてもそこまで犠牲は増えないだろう?」


 人族の能力を底上げするということは、現在の俺たちプレイヤーにとっての重要課題の一つとなっている。

 世界全体の能力向上があると、俺たち自身の能力が上がることに繋がると考えられているからだ。

 それに俺自身プレイヤーの能力が上がれば、眷属たちの能力は間違いなく上がる。

 そのことはキラが先頭に立って確認していることなので、ほぼ間違いないだろう。

 

「確かにそれはそうですが……いえ、マスターの決定に口を挟むべきではありませんでした」

「いや。そこで謝られても困るんだが。前から言っているように、疑問に思っていることはきちんと口にしてくれないとこっちも困る。最終的に判断するのは俺だが」

「それは当然です。皆にもきちんと言い聞かせておきます」


 本当の意味で理解してくれたのかどうかは分からないが、サクラは神妙な顔つきになって頷いていた。

 なんだかんだ言って最初に眷属になったせい(お陰?)なのか、眷属の中ではサクラが一番イエスマンに近い気質を持っている。

 もっともそのサクラも時には疑問を口にしたり反論をしたりしてくるので、完全なイエスマンというわけではない。

 

 傍にいる眷属が自分の意見を言わずに俺の言うことだけを聞くようになると事故が増えてくるので、できる限り多方面の意見を聞いて運営していくつもりだ。

 前の世界では別に経営者だったというわけではないが、それでもそうしたほうが良いということはわかる。

 世界の絶対者になって暴虐の限りを尽くすということもできなくはないが……止めておこう。

 どう考えても俺の性格的に向いているとは思えないし、何よりも別の道を探して運営していたほうが精神衛生的にも楽だ。

 

 そんなことを考えながら視線を並んでいるモニターに向けたが、ダンジョン内の状況は出かける前とほとんど変わっていなかった。

 騎士団そのものもそうだし、騎士団の後押しを受けて攻略をしている冒険者もほとんど進展はない。

 当たり前だが人は魔物のように進化をしていきなり能力が跳ね上がるなんてことは起こらないので、状況が一気に変わるなんてことはほとんどあり得ない。

 

 これ以上はコアルームいてもあまり進展がなさそうだと判断した俺は、サクラに一言断ってからハウスに戻って掲示板を確認した。

 ヒロシが管理者になって以降、サーバー内でも他サーバー交流掲示板でも大きな変化は起こっていなかった。

 最終進化を目指すことが難しいのは俺自身もよくわかっているので何とも言えないが、もう少しどうにかなっていても良いとは思う。

 さすがに管理者になることはエンドコンテンツを得たともいえる状態なので、そうそう簡単にはいかないということだろう。

 

 掲示板は特に見るべきものはないと判断した俺は、すぐに端末を閉じて広場へと向かった。

 久しぶりにゆっくり温泉にでも浸かろうと考えてのことだ。

 そしていつもの温泉に入ろうとした俺は、そこにキラがいることに気が付いた。

 

「よう。久しぶりだな」

「そうだね。というか、今回はラッシュのほうが長かったと思うけれど?」

「確かにな。ダンジョンに騎士団単位で攻勢を掛けられていたから仕方ないんだが、キラも海での移動だったんじゃないか?」

「まあね。今は一応陸地に近づいているから一旦上陸して骨休みという感じかな。ずっと船に乗りっぱなしってのも飽きるからね」

「それもそうだな。そもそもはっきりとした目的地もない……いや、一応決めているんだっけか?」


 以前少しだけ聞いたことを思い出した俺だったが、キラはその記憶が間違っていないことを肯定するように頷いた。

 確か仲間になっている女性の奴隷を求める旅だったはずだが、今まで行ったことのない国を目指しているとか言っていた。

 ダンジョンにある程度縛られている俺としては若干羨ましいという思いもあるが、以前の世界のように高速移動ができるような世界ではないので別に旅はいいかとも思う。

 プレイヤーも世界を旅をしたり一か所に留まっていたりと様々なので、絶対に旅に出なければならないというわけでもない。

 

「まあね。でも今回は、完全に俺はおまけだからな。観光気分でついて行っているだけだよ」

「そうか。それはそれで楽しそうではあるな。――そういえば、ひとつ聞きたいことがあったんだ。管理者になってから眷属たちはどうなった?」

「どう、と言われてもな。特に変わってな……ああ、そうか。ラッシュが聞きたいのは進化のことか。それなら順調に進化し始めているぞ」

「うん? 『し始めている』ということは、全員が進化したわけじゃないんだな?」

「そういうこと。経験か能力が足りていないのかは分からないけれど、進化で来ている眷属と出来ない眷属がいるかな」

「なるほど。それだけ管理者への能力向上の幅が大きいということか」


 俺の眷属の一人であるサクラは、元が人族に当たるエルフのため正確には進化するわけではない。

 それでも俺自身が進化をすれば、俺からの魔力の影響を受けているサクラは大幅に能力が向上することができる。

 サクラと違って元が魔物である眷属たちについては、そもそもが進化を繰り返すことが出来る生物なので言わずもがな。

 主に当たる俺が進化をすれば、それに引きずられるように進化をしてきた。

 だがプレイヤーとしての『最終進化』だと言われている管理者になった場合は、全ての眷属が進化できるようになるわけではないということがキラの説明で理解できた。

 

「それからこれはまだ確定情報ではないけれど、プレイヤーの進化? ……変化? ――も、これで終わりではないらしい」

「……は? それってどういうことだ? まだ掲示板にも上げていないだろう?」

「ああ。アルさんから聞いた情報何だけれどね。運営側も管理者になったあとにどうなるのかは分かっていないらしい。それこそ広場にいる運営さんを見れば分かるけれど、明らかに格上なのは分かるだろう?」

「そういうことか。俺たちも運営のような存在になれる……かもしれないということだな?」

「多分、だけれどね。実際のところはなってみないと分からないそうだよ。まだまだ先の話だけれどね」


 運営が用意してきた世界で存在の『格』を上げて来た俺たちは、世界の管理者になったあともまだまだ上がる余地があるらしい。

 そうなってくるとまた新たな目標ができるわけだが……今は管理者になることが先だろうな。

 このまま上を目指し続けることが唯一の正解かどうかは分からないが、とにかく折角できた新しい目標を目指さないのはもったいない。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


しばらく続いたラッシュの話はここで一旦(?)の区切りです。

次回からはまたキラ周りの話……になるはずです。


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る