(9)魔法の広め方

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 広大な海原をゆらゆらと揺られながら順調に船が進んでいる。

 ヒノモトの港を出てから既に一週間が経ち、船は既にヒノモトの勢力圏を超えた場所に出ていた。

 一周目の時よりもさらに研究が進んだ結果、今でも最新鋭の船であることには違いはないけれど帆船であることには変わりがないため進む速度もお察し。


「――と、思っていたんだけれどなあ……」

「ご主人様がお休みの間、部下たちが頑張った成果」

「みたいだね。あとで何か褒美でも上げようか」

「皆、喜ぶ。でも過剰なものはいらない。一番はご主人様の作った魔石。小さいのが良い」

「なるほどね。どうせ船の上は暇になるから、コツコツと貯めて行こうか」


 所詮は帆船と考えていたのだけれど、外洋に出てからの船の進み具合が予想を超え過ぎていた。

 俺の中での帆船のイメージは、大航海時代に何か月単位で移動している姿だったけれど、魔法を駆使して移動しているその姿は完全にそのイメージを払拭するものだった。

 最終進化をしている間に劇的な発見があったというわけではなく、これまで積み重ねて来た研究が花開いた結果と言ってもいいと思う。

 

 ちなみに船の改善が行われているのは、平時に進むスピードだけではなく嵐などが起こった時の対策もされている。

 船自体が頑丈になっていることは勿論のこと、船の周囲数メートルの範囲で波が穏やかになるような魔法も開発されている。

 それ以外にも強風を抑えるような工夫もされていて、船の技術的な進化よりも魔法技術を使っての進化の方が進んでいた。

 元の世界ではありえないような工夫が成されているわけで、こちらの世界ならではの進歩が起こっていることはいいことだと思う。

 

 今回アイが旅に同行しているのは、使っている船がきちんと目的通りに動くかどうかの確認をする目的もある。

 アンネリのための奴隷探しをする旅に出るのが遅れたのは、この船に最新装備を組み込むために時間がかかったということもあった。

 船の構造自体に大きな変化があったわけではなく、中で使われている魔道具を変更するだけの更新だったからことできたことらしい。

 いずれにしても今乗っている船が最新鋭であることには変わりなく、お陰で考えていた以上に快適な船旅が出来ている。

 

 船の性能についてアイと話をしていると、船室がある出入り口からオトがやってきた。

「師匠。お時間があるなら魔法を見ていただけないでしょうか?」

 出会った時にはまだ子供だと思っていたオトも、態度や口調は大人のそれに近づいて来ている。

 少し寂しい気持ちもあるけれど、成長を妨げるつもりはないので今は優しく見守っている段階だった。

 

「うん。いいよ。緑の魔法だよね?」

「勿論です。船内で火の魔法を使うつもりなどありません」

「そう? それはそれで面白いと思うけれどね。この船、魔法防御はしっかりとしているしね」

「……そうなのですか?」

「まあね。というか外洋を進むのには、それくらい頑丈になっていないと不安だよ? シードラゴンとかサーペントとか出て来るし」

「それは、確かにそうかも知れません。単純に魔法金属でできているというわけではないのですね」


 外洋を進める船を作ったのは一周目の時だったけれど、その時からエンチャントされた金属で造られていた。

 今ではそれだけではなく、物理、魔法に問わず様々な防御が施されている。

 その分とんでもなく資金がかかっているともいえるけれど、海の魔物が出て来る世界なのでそれくらいの防御は当たり前に備えないといけない。

 もっと言えば、海の魔物にも縄張りというものがあるのでしっかりと安全な航路を見つければ進むことは出来る。

 ただし、魔物同士の戦いなどで縄張りから追い出された有名どころの魔物が出てくることもあるので油断は出来ない。

 

 制海権はいまでもユグホウラが優位保っている……というよりも、未だに新大陸などへの進出が出来ていない時点でお察しと言える。

 ただ元の世界と違って迂闊に外洋に出ると簡単に魔物に船が沈められてしまうので、仕方のない面はある。

 それでもそろそろ船に使える魔法金属なんかが出てきてもいいとは思うのだけれど、現状はそこまで技術は進歩していない。

 海からの進出よりも陸での魔物と相対するのに技術力を使われているので、これまた仕方ないことではあるのだが。

 

 とはいえ百年単位で魔法技術の進歩がほとんど起こっていないのは、もしかしたらこれまで世界の『管理者』がいなかったからという影響も少なからずあるかも知れない。

 今後どうやって技術力を伸ばしていくべきか、管理者になった以上は色々と考えないといけない。

 ユグホウラが一番優先ということは変わっていないので慎重に進めないといけないのだけれど、今のままでいいとは考えていない。

 かといってこちらから技術の提供をしたところで、今後独自に発展してくのかは微妙なところだと思う。

 その辺りの匙加減が難しいので、色々と考えながら進めて行かなければならないだろう。

 

 オトが使っている枝根動可の魔法を見つつそんなことを考えていると、ふと気になることができた。

「――そういえば、クファはどうしているの?」

「クファならアイリさんの指導を受けていました。ただ後半は遊んでいるようにも見えましたが」

「遊んで……アイリが? どんな遊び?」

「以前、師匠が手慰みだと言ってやってくれた花火の魔法ですね。さすがに大型のは出来ないですが、その代わりにどれだけ複雑なものを作れるのかと試していましたよ」


 魔法で花火を表現するためには、それなりの技術が必要になる場合がある。

 ここで重要なのは『場合がある』ということで、簡単なものだとすぐに出来るようになるということだ。

 違うタイミングで複数の属性を使ったり、単一の属性だけでも細かい操作をしたりと実は魔法の技術を磨くためには花火というものを利用するのにはちょうどいいツールだと考えている。

 

「……うん? あ~、そうか。そっちから攻めるということもできるのか」

「師匠、何かありましたか?」

「あ~、ごめんごめん。こっちの話だから気にせずに続けて」

 

 花火に限らず直接戦闘に関係のしない魔法はこちらの世界でも存在はしている。

 ただ人的資材に余裕があるわけではないために、魔法を使う=戦闘で役に立つ人材とされているだけのことだ。

 考えてみれば、例えば農業なんかの生活に直結するような魔法を各国に教えることが出来れば、魔法の技術を伸ばすことが出来る可能性がある。

 今までそんなことも思いつかなかったのかと言われそうだけれど、プレイヤーとしてはある意味で最終段階に来ている今だからこそ余裕が生まれて思いつけたと考えることにした。

 

 掲示板でもそれに似たようなことを実践しているプレイヤーいたことを思い出したので、後で話を聞きに行こうと決めた。

 これに関しては結果よりも経過の方が重要だと思うので、直接話を聞きに行ったほうがいいかも知れない。

 どこまで世界に対して干渉していくかは悩みどころではあるけれど、今のままでいいとは考えていない。

 だとすれば、直接戦闘には関わらない日常系の魔法から広めていくことは、世界に対する影響力を確認していく意味でも丁度いいと思う。

 幾ら管理者プレイヤーだからといっても、たった一人の働きかけでどこまで広がっていくかは分からない。

 ユグホウラという前例がある以上はそれなりに影響を及ぼすことは出来るとは思うが、まずはやってみないと分からないだろなとオトの魔法を確認しながら考えていた。




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大晦日です。

これにて本年の更新は終わりになります。

来年もごひいきの程よろしくお願いいたします。

(__)

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