(8)旅の準備

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 アンネリからの提案で今まで言ったことのない国に行くことに決めたわけだが、すぐに出発……とはならかなった。

 冒険者としての身分は持っているので、国境を越えることは何とでもできる。

 移動自体も眷属のレオをはじめとした馬種がいるのと、改良した馬車があるので何とでもなる。

 そこから考えればいつでも旅立てるといえるのだけれど、大きな問題が一つあった。

 一つ目はそもそもどこの国を目指すのか全く考えていないということ。

 もう一つは一度出発してしまえば、今みたいに簡単に移動することが難しいということだ。

 馬車の中には転移装置があるので、戻ろうと思えば好きな場所に簡単に戻ることは出来る。

 問題なのは、馬車を現地に残したままにするわけにはいかないということだった。

 

 そこで考えた解決策が、馬車自体を移動させてしまえばいいということになった。

 早い話が、以前ヒノモト国内を移動する時につかった船を利用すればいいということだ。

 使う船がユグホウラ所属のものになるので目立つことこの上ないが、今更といえば今更な状況にある。

 二周目を始めたばかりの頃なら隠していただろうが、既に今の冒険者としての立場でユグホウラとの繋がりを知られているので問題にはならないというわけだ。

 

 別に積極的にユグホウラのとしての立場を利用するつもりはないけれど、無理やりに隠して生きていくつもりもない。

 それならばユグホウラの船を自由に動かせるくらいの立場にあると見せた方が、アンネリやアイリをはじめとした周囲にいる人たちを守れると考えた。

 ついでに大手を振って眷属たちを連れて歩けるようになるので、安全度が飛躍的に上がる。

 むやみやたらに眷属の姿を見せつけるつもりはないが、人の姿になれない眷属のうち数匹程度なら連れて歩いても当たり前に見てもらえるようにするつもりだ。

 

 ――というわけで、肝心の船が着くまで待機となったためすぐに出発とはならず、それまでは日常を過ごしていたということになる。

 そして船がついた場所はヒノモトの拠点の傍にある港町で、そこから列島を南に進んでから西に向けて進む予定でいた。

 

「――随分な長旅になるわね」

「急ぐ必要もないんだからいいんじゃない? アンネリとアイリは問題がある?」

「私たちはないけれど、ユリの退役に間に合わなあったら意味がないわよ?」

「間に合いそうになかったらノスフィン王国なりその近くの国で見繕えばいいんじゃないかな? 急いで探す必要もないと思うけれど?」

「それは……言われてみれば確かにね。どうせしばらくは船の上で過ごすことになるのだからメイドもあまり必要にならないわね」

「そういうこと。着るのが面倒な貴族服だって、そうそう着る機会はないだろうしね。いざとなれば眷属の誰かをつけるよ」


 意外なことにというか勉強熱心なことにというか、諜報部隊にいる眷属たちの中には貴族の生活を知っている者もいる。

 聞いたきにはは驚いたけれど、メイドのような仕事ができる者もいるので一時的に任せてしまっても構わないと考えている。

 いっそのことその眷属たちに任せてしまってもいいかとも思ったけれど、それだとアンネリの気が休まらないかと考えて保留にしておいた。

 そもそも奴隷を買いたいと言い出したのはアンネリ自身なので、その考えに従うつもりでいる。

 

「キラさん。一つ相談なのですが、この際ですから私も奴隷……というか付き人を一人雇ってもいいでしょうか?」

「あら。アイリも? 随分と突然だね。巫女には侍女をつけるような必要はないと思うけれど?」

「そんなことはありませんよ。むしろ旅をするときには集、護衛付きの団で行動することが当たり前です。それにクファに色々と教えていくうちに、弟子を持つのも悪くないと思えて来ました」

「なるほど。弟子ね。だったら別に奴隷にする必要がないのでは?」

 

 そう言ってみたのはいいけれど、ほぼ同時にアンネリとアイリは顔を見合わせてからため息を吐いた。

 

「キラさん。これから先、キラさんと一緒に行動し続けることを考えれば秘密保持は必須になります。普通に考えれば奴隷契約で縛ってしまうのが一番楽です」

「あ、いや。確かにそうだけれど、そうするとオトとクファは……」

「あの二人は、キラさんの直接の弟子ですよ? 私たちが雇って間接的に関わる人材とはまた別の扱いです」

「……そういうもの?」


 ちょっと自分では分からない価値観が入り込んできたので思わずそう問いかけたが、二人から返ってきたのは「そういうもの(です)」という言葉と頷きだった。

 やや回りくどすぎると感じてしまうけれど、これがこちらの世界の考え方だと言われてしまうと何とも返す言葉はない。

 

 今からでもユグホウラを使って元の世界の『常識』を植え込んだらどうなるかと考えなくもないけれど、実行するのは二の足を踏んでいる。

 一周目の時も考えていたことだが、やはり上から抑え込んで教えた知識など全く役に立たない……とはいわなけれど、根付くことがないと考えているためだ。

 元の世界の奴隷解放も、何もないところからいきなり起こったわけではなく長い下積みと為政者ではない立場の者たちが立ち上がったからこそ起こったことだ。

 魔物がいるこの世界でどこまで実現できるのか、それをこちらの勝手な都合だけでするつもりにはなれない。

 

「――まあ、とにかくアンネリもアイリも色々と考えていることがよくわかったよ。それにしてもアイリに弟子か」

「おかしいですか?」

「おかしくはないけれど、少し意外だったかな? どちらかというとアンネリよりも一人でこもるタイプでしょ?」

「そう言われると私が独りぼっちみたいに聞こえますが……言いたいことは分かります。確かにタイプでいえばその通りですわ」

「だよね? そう言っている俺も、人のことはどうこう言えなんだけれどね」

「私から見ると、アイリもキラも研究者タイプよね。独りぼっちというよりは、研究室なり書斎なりに籠って何かをするというタイプじゃないかしら」


 話の途中で口を挟んできたアンネリに、アイリと顔を見合わせてなるほどと納得した。

 一人で行動することが好きというよりは、何か作業をしている時には一人でしていたほうが楽と考えている節があるのは確かにその通りだと思う。

 

「――それに、二人ともキラにしてもアイリにしても外に出て活動することも積極的よね? 別に部屋に籠りっぱなしというわけじゃないんだからいいじゃない」

「言われてみれば、確かに。アイリもフィールドワークは嫌いじゃないよな」

「巫女は歪みを見つけることも修行の一つですから。でも、確かにアンネリの言った通りかもしれません。仲間の中には歪みを見つけるために森の中を歩くのが苦手と言う方もいましたから」

「そうよね? これは私にも言えることだけれど、そもそもアイリは貴族令嬢じゃない。普通は魔物と相対すること自体避けるものよ」

「それはお国柄の違いもありそうです。ヒノモトでは女性が刀を持って戦うこと自体は否定されていません。無理強いもされてはいませんが」

「それはあるかも知れないわ。でもこちらにも女性騎士がいるくらいなので、昔みたいに完全否定されているわけではないわよ?」


 いつの間にか話が女性騎士や女性戦士の話へと移って行った。

 この世界では魔法という存在があるので、女性が戦いに出向くということ自体に忌避感があるというわけではない。

 ただその分『母体を守る』という意味で、元の世界では差別扱いされそうな考え方があることも確かだ。

 ゴブリンやオークをはじめとして、女性を性的に可能性があるのだからそういう考えが生まれている。

 その考え方がが良いか悪いかは別として、一つの答えとして事前と行きつくことは当然なのだろうとは思う。




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