(7)アンネリの提案
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ハロルドとの会話から数日後、何とも複雑な表情をしたアンネリからとある相談を受けることになった。
「――ちょっといいかしら?」
「勿論いいけれど、何かあった? 深刻な表情をしているように見えるよ?」
「あら、ごめんなさい。少なくとも悪い方の深刻なことではないわね。端的に言うと、ヘリの婚約が決まったので国に戻ることになったのよ」
「えっ!? ヘリが?」
ヘリが時折転移装置をつかって地元に戻っていることは気付いていたが、まさかそんな話が持ち上がっているとは考えてもいなかった。
一部界隈からは『鈍すぎるだろう』という声が上がってきそうだけれど、気付かなかったのだから仕方ない。
さらに言い訳をすれば、縁談話が持ち上がったのは俺が最終進化をしている最中のことらしい。
ちなみに縁談という言葉尻だけを聞くと政略結婚的なものだと考えてしまうのだけれど、ヘリの場合はそういうわけではなく普通に恋愛を経ての婚約になるそうだ。
「――驚いたね。いつの間にというと変な意味で取られそうだけれど、これだけ連れまわしていたのに……色々な意味で凄いね」
「残念ながら私もそう思うわ。もっとも私の場合はお相手のことも昔から知っているから、あまり不思議な話とは思わなかったけれどね」
「まあ、以前からある程度自由に移動できるようにしていたから、そういうこともあるのかな」
「そうね。遠距離でもお相手の人の心が離れなかったから決断したということもあるみたいよ? これはヘリから聞いた話だけれどね」
「なるほどね。試していたというと言葉が悪いけれど、そういう意味では丁度良かったともいえるのかな」
ヘリの心のうちは分からないので、ただの推測でしかない。
とはいえアンネリから聞く限りでは当人が納得した上での婚約だということは分かるので、外野からどうこう言うつもりはない。
そもそもヘリはあくまでもアンネリの侍女なので、俺が口を出すこと自体も間違っているし出すつもりもない。
「そうね。ヘリのことなのでおかしな男に捕まったということもないでしょう」
「それは言えるね。ところで、どちらかといえばおめでたい話なのに、何故そんな険しい表情を?」
「け、険しい……? そんなつもりはなかったのだけれど? そうね。どちらかといえば少し悩みを抱えているというか……ちょっと相談があって話をしに来たのよ。険しい表情になっているとすれば、そっちの問題よ」
「相談? わざわざヘリの話をしたということはそっちに関係のある話だよね?」
「そうね。ヘリが結婚で私の元を離れるということは、侍女がいなくなるじゃない? 折角の機会だから奴隷の子を買って育ててみようと思って。ただキラは奴隷が好きじゃないみたいだから一応相談しにきたのよ」
「ああ~。なるほど、そういうことか」
奴隷が嫌いという態度を表に出していたつもりはなかったのだが……というよりもトムを買った時点でこちらのやり方に染まってきたと思っていたのだけれど、それでもアンネリから見れば嫌っていると取られていたらしい。
こちらの世界の奴隷は、あちらの世界のかつての有り様とはだいぶ違うので既に心の内ではそこまで抵抗はなかったりする。
奴隷を避けて来たつもりはないが、特に必要もなかったので近づくことがなかっただけのことでしかない。
敢えてこちらから奴隷についての話を振ることが無かったからこそ起きたすれ違いのようなものだ。
「今となっては、別にそこまで嫌っているわけじゃないけれどね。それはともかく奴隷を買うならアンネリが主人になるんだろう? わざわざ俺に相談するようなこと?」
「何を言っているのよ。侍女ともなればダンジョン探索はともかく、常時生活を共にしているようなものよ? 嫌っている相手とそんなに長いこと一緒にいると苦痛じゃない」
「いや。それはトムやハロルドがいる時点で今更だから気にしなくてもいい。それよりもやっぱりダンジョン探索はさせない方針なんだ」
「そう? それならいいのだけれど……ダンジョン探索については、単純に金額の問題よ。ヘリみたいに侍女と冒険者の両方をこなせるとなるとかなり値が張るもの」
アンネリは、冒険者としてかなりの金額を稼いでいる。
買おうと思えば条件を満たす奴隷も買うこともできろうだろうが、そこまでの能力は必要ないと考えているようだった。
奴隷の相場的にも両方を兼ね揃えた人材を買うよりも、どちらかの能力を持った人材を買った方が安くつくこともある。
「いっそのこと侍女と護衛、両方買ってみたら?」
「どうかしらね? 今のところ護衛は必要ないと思うわ。あなたがわざわざ付けてくれている眷属たちもいるしね。侍女候補を探す次いでに良い人が見つかれば、といった感じかしら」
「なるほどね。アンネリが買うんだから好きにすればいいと思うけれど。そうなると問題は命令系統かな?」
今は拠点に関わることについては、ほぼハロルドに一任している。
それぞれの土地にあるごとに管理する人を置いているが、それらを統一して管理しているのがハロルドになる。
そこにアンネリが買った侍女が混ざるとなると、命令系統のことで少々面倒なことになりかねない。
そう考えての発言だったのだが、アンネリは特に悩む様子を見せることなくあっさりと答えた。
「それは今まで通りハロルドがトップでいいわよ。むしろ専門の侍女を雇うことで、ハロルドも少しは楽になるんじゃない?」
「確かに、俺たちが移動する場所に着いて来る侍女がいればいいかもね。女性関係の物を用意する人はどうしたって必要になるからな」
「そういうことよ。私もいちいち自分で動かなくて済むようになるわ」
「それもあったか。とにかくアンネリが奴隷を買う分には全く問題ないよ。気にしていたのは俺の気持ち的な問題についてだけ?」
「それがメインではあるけれど、他にも確認したいことがあるわ」
メインの奴隷購入について他に何か問題があっただろうかと首を傾げた俺に、アンネリは少しだけ面白そうな顔になってから続けて言った。
「そんなに不思議そうな顔をしないで。ただ奴隷のことが良いのであれば、折角の機会だから今まで行ったことのない国に行ってみないかと思っただけよ」
「……なるほど。他国か。そういえば、なんだかんだで今まで行った国は少ないな。これを機会に新しい国に行くということか」
「そういうことね。どうかしら?」
「それは非常に魅力的な相談だけれど、そもそも奴隷ってそう簡単に手に入れられないんじゃなかったっけ?」
「確かに一般的にはね。でもそれもあまり問題ではないわよ。何のために冒険者のランクがあると思っているのよ」
「あ~。なるほど。こういう時には使えるのか」
今現在の俺とアンネリの冒険者ランクはBになっている。
そのランクだとほとんどの国で奴隷を購入できる権利が与えられるらしい。
奴隷を買ってパーティを組む冒険者も珍しくないことから、その地にあるギルドに頼めば質のいい奴隷商を紹介してもらえるそうだ。
こういうときのためにランクじゃないかとアンネリから言われて、ようやく思い出すことが出来た。
こういうところが未だに奴隷を避けているとアンネリに勘違いされる要因になっているのかと反省した。
とにかくアンネリの提案のお陰で、他国を見て回る機会を得ることができそうだ。
今更ではあるが、二周目を開始したばかりの時には色々な国を見て回りたいと考えていたことを思い出した。
そんなやる気になっている俺を見てアンネリがこっそりと笑ってたのだが、それに気づかないまま未だ見たことのない国に思考を巡らせていた。
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