(5)初対面
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< Side:キラ >
最終進化して管理者になったとはいえ、自分自身は特に変わりなくいつも通りの日々を過ごしていたある日のこと。
マナの訓練のため地脈の中央を訪ねると、そこでは見慣れない男性が一人立っていた。
見た目の第一印象は、どこにでもいるような顔立ちですれ違った次の瞬間には忘れてしまいそうになるほど印象の残らない平々凡々としている。
ただ会った瞬間それが誰かを理解できたので、思いついた言葉を即口にしてみた。
「チェンジで」
「ちょっ! ひどくない!? 折角初めて会えたのに、いきなりそれは。まさか木の人からそんなこと言われるとは思っていなかったよ」
「いやー、何となく。様式美みたいなものですから」
「そうなの? ……時々君らの世界のことが分からなくなるよ。いや、そういうと怒られるか。君たちの世界の一部、だね」
「それを楽しみのネタにしている人から言われても……それはいいとして、今日は何用でしょうか」
「見事に話をすり替えたね。まあ、いいか。それで、今日来た理由だけれどそろそろきちんと管理者について話をしておこうと思ってね。といっても大した内容じゃない……というかこれまでとほとんど変わらないんだけれどね」
そう前置きをしてから話を続けた『上司さん』だったけれど、これまでと大きく変わるようなことはなかった。
世界の管理者になったからといって自分たちがやることは変わらず、出来ることをやっていけばいいということらしい。
何かあればその都度アルさんが手助けをしてくれるようになっているらしく、これまで通り好きなようにしてみればいいとのお達しを貰った。
極端な話をすれば世界そのものを壊してしまってもいいらしいが、その場合に『プレイヤー』として生き残れるかはその時の行動次第で決まるとのことだった。
要は上司に気に入られればそれで良し、駄目ならこの世界からご退場ということだろう。
世界そのものを掛けている以上は今まで以上にリスクを負うことにはなるけれど、いきなり破壊神のような真似をするつもりがない俺にとってはあまり関係のない話ではある。
さらに付け加えると『世界』そのものを破壊できるほどの力をつけるのは、まだまだ先のことらしい。
なぜ今の段階でそんな話をしたかといえば、いずれは出来うる可能性があることを知ってもらいたかったそうだ。
「――そういうわけだからこの世界は君のものだ。どう扱うかは本当に好きにすればいい」
「そうですか。ですが、いきなり世界の管理者になったと言われてもピンとこないのですが……」
「それはそうだろうね。だからこれから好きなように学んでいけばいいんじゃないかな。別に学ばなくても良いし。要は管理者としていてくれればそれだけでいいんだよ」
「悪い言い方をすれば、人柱的な感じに聞こえますよ、それ」
敢えて悪い捉え方をして言ってみたものの、上司から返ってきたのは「間違っていない」という言葉と笑顔だけだった。
そもそもプレイヤーという形で囚われているという見方もできる以上は、今更という気持ちのほうが大きいので特に上司を責めるつもりはない。
「僕らからすれば君らプレイヤーがいるだけで世界が安定する。君らは君らで自分の好きに出来る世界が手に入るわけだ。まさにWin―Winだね」
「プレイヤーの好きなようなされる世界に取ってみれば、たまったものではないと思いますが?」
「ハハハ。そう考えられる君だからこそ任せられるとも言えないかい? それにたとえ邪なことを考えるプレイヤーがいたとしても、僕たちにとっては所詮世界の一つでしかないからね」
世界と聞くととてつもなく大きなことのように思えるけれど、上司にとってはその程度のことでしかないらしい。
以前からそんな傾向はあると認識していたものの、こうして対面して話をするとよりそれが理解できた。
「――君らプレイヤーからは大分儲けさせてもらっているからね。それから考えれば世界の一つくらいどうされても構わないよ」
「儲け……例のシステムからかすめ取っている『手数料』とかですか」
「それも勿論あるけれどね。それ以外にも色々と。それを理解するには、管理者として頑張ってもらうと色々と分かって来ると思うよ。そこまで手を伸ばすかは君次第だ」
「そうですか。ですが世界を壊してしまえば、その儲けも無くなるのでは?」
「程度の問題だからね。プレイヤーが管理者になって好き勝手したうえでその世界を壊されたとしても、僕らにとっては小さめの森を火事で失ったようなものだ。土地は残るし時間をかければ森を再生することだってできる」
「その再生にかかる費用のほうが大きくかかりそうですが?」
「確かにね。でもさっきも言ったように、君らプレイヤーからはそれ以上の儲けがあるから問題ないんだよ」
その世界で生きている者たちからすればたまったものではないが、少なくとも魂に関しては回収がされるようになっているらしく、本当に問題はないそうだ。
世界が壊されるという時点でその世界に生きて来た生命たちの選択だったともいえるので、運営側にしてみればわざわざ手出しをするような自体にはならない。
魂という名のエネルギーそのものに手出しをしようとしても、そもそもプレイヤー自身が色々な意味で力をつけなければ意味がないのでどうとでも出来るとのこと。
運営を出し抜いてその部分に手を出そうとしても、今の監視されている状態ではそれも難しいことは分かる。
監視と言うと言葉が悪いけれど、要は原発を国際機関で監視しているのと変わらない仕組みだと考えればそう反発も起きないだろう。
それだといつまで経っても上司を出し抜けないと考えるようなプレイヤーは、少なくとも自分が所属しているサーバーには存在しているとは思えない。
「それならばいいです。儲けもなしにただ単に趣味だけでやっているといつ切られてもおかしくはないですから」
「ハハハ。そういう考え方、僕も嫌いじゃないよ。初めは採算度外視だったんだけれどね。君たちプレイヤーが思ったよりも優秀過ぎて、割と早めに儲けが出るようになったさ」
「そうなんですか。ちなみにどの辺りから収支がプラスになるか、聞いても?」
「構わないよ。といってもプレイヤーごととかサーバーごととか全てを含めた全体とか、色々あるけれどどれが知りたい?」
その問いに「全部」と言ってみると、上司は笑いながら丁寧にもきちんと全部を教えてもらえた。
それぞれ細かいことを言ってきたので詳細まではいいとして、意外に早い段階で採算が取れていたことに驚いた。
ちなみに管理者まで行くと、運営とプレイヤーどちらにとってもボーナスステージになるそうな。
それぞれのサーバーで一人でも管理者が生まれると、そのサーバーは今後一切切り捨てられるようなことにはならないらしい。
「ま、君がいることでサーバーは僕が存在している限りほぼ間違いなく安泰だ。もっとも他にも何人か『壁』を超えて来るプレイヤーは出てきそうだけれどね」
「そうですね。余剰分は他のサーバーのために使われることになると」
「そうなるね。気になるかい?」
「いいえ、全く。それこそ元の世界にあったネットゲームと仕組みは同じでしょうから」
複数のサーバーがあるネトゲで一つのサーバーが荒稼ぎが出来ていたとしても、別にサーバーを用意する運営がほとんどだと思う。
そうしないとゲーム全体で活性化しないだろうし、同じメンバーが固定になっているサーバーだけで運営しているゲームがいずれ先細りしていくのはすぐに分かることだ。
勿論そんな単純な論理だけで運営されているわけではないのだろうけれど、一プレイヤーとしてはそう思っている方が気楽でいい。
上司との話で、そんなことを考えるのであった。
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