(4)魔法剣士の懸念
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< Side:ホーカン >
まだまだ先にいる背中さえ捉えられていないと思わせるボスとのダンジョン探索は、俺にとっては非常に実りのあるものとなった。
自分があそこまでたどり着けるかどうかはわからないが、少なくとも目指すべき先はあるということだけは実感できた。
あとはこれまでやってきたように、地道に剣を振り続けばいい。
それで同じ道を歩けるとは思わないが、何もせずにうじうじ悩んでいるだけよりもはるかにましだろう。
ボスは最後に俺がいたから安心して進むことができたと言ってくれた。
勿論それはお世辞の一種だということは分かっているが、自分よりもはるか頂に進んでいる者から掛けられた言葉としては賛辞だと受け止めている。
まだまだ先に進むべき道はあると晴れやかな気持ちでクランハウスに向かうと、入り口付近で最近入ったばかりのとある冒険者が話しかけて来た。
「よう。『接待』はどうだった?」
「接待? どういう意味だ?」
「どうもこうも、ろくに顔も見せない団長を連れてダンジョンに行っていたんだろう? 古い連中はやたらと持ち上げるが、所詮は周りに守られてのトップだろうに」
俺からすれば、どこからどう判断してそんな考えに至っているのか分からない言葉が飛び出してきた。
こういう輩に言葉だけで説いても意味はないと分かっているのだが、先ほどまであったいい気分が吹き飛んでしまってつい反論するような言葉を返してしまった。
「何を言っているのか分からないんだが? むしろ俺の方が着いて行くのが精一杯だったんだがな」
「はっ。随分と笑えない冗談だな。ソロのトップが言うような言葉じゃないだろ。それともあんたも持ち上げられているだけか」
「お前が俺のことをどう思おうが好きにすればいい。ただ、せめて到達階層に追い付いてから偉そうな口を聞いてくれないか」
「何をっ!?」
俺としてはただただ事実を突きつけたつもりだったが、どうやらこの男にとっては言われたくはない言葉だったらしい。
男は髪の毛が逆立ちそうなほど逆上してきたが、こちらに向かって来るほどの馬鹿ではなかった。
「このクランでは結果だけを見て判断されるわけではないが……それにしても的外れな勘違いを続けていたらそのうち居場所がなくなるぞ」
一応忠告のつもりで付け加えてみたものの、俺はこの男が素直にこの言葉を受け入れるとは全く考えていなかった。
その予想を証明するかのように、男はフンと鼻を鳴らしてクランハウスとは逆方向へと歩いて行った。
「――よくあんな態度でうちのクランに入れたな。面接ではしおらしかったとかか?」
冒険者としては珍しくもない態度ではあるが、うちのクランに入っているメンバーとしては中々にいなかった性格をしているように見えた。
ソロの冒険者も所属しているクランではあるが、基本的にはサポーターとの連携を重要視しているため独りよがりな態度を取る者は面接の段階で落とされている。
とはいえうちのクランも冒険者だけで百名に届きそうな規模になってきているので、ああいう輩が入って来ることもあるのだろう。
俺としては、あの男よりもそちらの方が気になった。
大手のクランであっても少数の問題児を抱え込んだだけで潰れたケースはいくらでもあるので、うちのクランもいつ何時そんな事態になったとしてもおかしくはない。
少し悩んだ俺は、そのままクランハウスの中心部ともいえる部屋へと向かった。
中心部と言うと大げさになってしまうが、要は今のクランを動かしているメンバーが事務仕事をしている部屋になる。
その部屋ではクランの事務方が常に書類整理などを行っていて、俺たち冒険者が煩わしい思いをしなくてもいいように日々の事務処理が進められている。
一部のクランメンバーは俺たち冒険者が中心で事務方などに大金は払わなくてもいいと公言する者もいるが、俺から言わせればとんでもない勘違いとしか言いようがない。
数人の事務員だけで百人近いメンバーの書類の整理が行われているが、実はこの数人がボスに選ばれているメンバーだと知っている者は少ないだろう。
メンバーの中には所詮事務員と侮っている者もいたりするが、実のところ事務のトップである事務長は当然のこととして、他のメンバーにも勝つことは出来ないだろう。
事務長自体も大体半年単位で変わっているので、その『異常さ』に気付きにくいということもあるのだろう。
ボスがどこからどうやって選んできているのかは分からないが、百人近くいる無頼者たちを纏められているのは彼ら彼女らが何事にも動じずに仕事を続けているからだ。
事務室の奥には事務長が作業するための席があり、そこでは今の事務長(女性?)が座って仕事をしていた。
その机に近づいていくと、こちらに気付いた事務長が顔を上げて話しかけて来た。
「――おや、ホーカンさん。この部屋に来るのは珍しいですね。何かありましたか?」
「残念ながら、な」
「わざわざそう言うということは、何か厄介事でしょうか。ここではなく、席を移って話しましょうか」
事務長はそう言って、事務室の片隅に用意されているソファとテーブルのある場所に移動した。
「――ホーカンさんは団長と一緒にダンジョンに潜っていたはずですが、何か問題でもありましたか?」
「いや、そっちじゃない。団長には感謝しかないからな。そうじゃなく、最近入った団員について聞きたかったことがあるんだ」
俺がそう言うと、事務長はすぐにピンときた顔をしていた。
それに気付いた俺も、ここに来た目的の半分を達したことを理解した。
「……んだが、最初の質問はしなくても良くなったな」
「そのようですね。お察しの通り『わざと』入れました。その目的もホーカンさんなら察してくれると思います」
「まあな。それならいいんだが、一応団長たちは知っていることなんだな?」
俺の問いに事務長はニッコリと微笑みを返してきた。
男であれば誰でも魅了されるような笑顔だったが、それを見て手を出そうなんて恐ろしいことは考えない。
そんな無駄なことを考えるよりも、今はその微笑みの意味を考えることの方が重要だ。
『目は口程に物を言う』ではないが、事務長のその顔を見れば言葉で聞かなくても答えは出ている。
「それなら別にいいか。それにしても以前も似たようなことがあったと思うが、また必要なのか?」
「仕方ありません。それこを以前からいるホーカンさんのような方々であれば必要ありませんが、新たに入ったメンバーには必要でしょうから」
「団長も忙しいらしくて直接強さを見る機会も減っているようだからな。――いや、すまん。たった今、直接手ほどきを受けて来た俺が言うべきことじゃなかったな」
「いいのですよ。団長がご自身で決めたことなのですから。それよりも『彼』のことですが、折角ですのでホーカンさんも注意して見ていただけると助かります」
「それな。どうやら言われなくとも向こうから絡んできそうな気もする。同じソロだから目の敵にされているのかもな」
俺がそう言うと、事務長は少しだけ予想外だったという顔をしていた。
どうやら他の団員たちにとっての踏み絵代わりにされているらしいあの男については、多少同情する所も……いや、全くないか。
あれはあれで好きなように振る舞っているらしいので、自業自得という言葉がお似合いだと考えることにしよう。
とにかくあの男の動きで一波乱が起こるかどうかは分からないが、他のメンバーが変に浮足立つことがないように注意しないといけない。
あの男が他のメンバーにとっての良い反面教師になってくれるといいが、中にはあの男に乗せられて調子に乗るメンバーも出ないとは限らないからな。
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