(3)魔法剣士の独り言
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< Side:ホーカン >
俺の名はホーカン。ヘディンの町を本拠地としているクラン『大樹への集い』のメンバーだ。
俺がこのクランに入ったのは出来たばかりの頃で、ありがたいことに今では初期メンバーとして後発組の子供たちから慕われている。
俺としては自分がボスをはじめとした先輩たちからから教わったことを教え返しているだけなのだが、それが役に立っているらしい。
クランに入るまでソロとしてやってきた俺が、後輩に慕われるというのは何とも不思議な感じがしている。
ただ後輩の育成だけに力を入れているわけではなく、俺自身のレベルアップも怠らないように研鑽を積んでいる。
それもこれも伸び悩んでいた俺にボスが色々ときっかけを与えてくれたお陰なのは、疑いようのない事実だ。
クランへ入ったばかりの当時、ソロの魔法剣士として伸び悩んでいたことは今ではいい思い出になっている。
あれがあったからこそボスのことも見直すことができたし、何よりも自分自身の力を大きく伸ばすきっかけになった。
魔法剣士が本当の意味で『魔法剣士』として見られるようになったことも、俺にとっては有難い恩恵の一つだ。
それがあったからこそ後輩たちにの中にも魔法剣士を目指す者が現れて、順調に力を伸ばしてきている。
クランメンバーの一員としては喜ばしいことばかりだが、今の俺は一つ大きな悩みを抱えていた。
その悩みが何かといえば、ソロとしての『壁』を迎えたというところだろうか。
冒険者はパーティで行動するのが基本。それはやはり人族に対して強大な力を持つ魔物を討伐するときに、個よりも集団で退治したほうが生存確率が上がるからだ。
魔法剣士として伸び悩んでいたいた時も同じようなことを考えていたが、やはりソロでは限界があるのではないかと思い始めていた。
そんな俺に声をかけて来たのは、やはりというべきかクランリーダーのボスだった。
ボスは長い間姿を見せていなかったのだが、最近ひょっこり戻ってきてクランの新メンバーたちに誰かと首を傾げられていた。
中にはどう見ても戦闘職には見えないボスを見て侮る新人もいるにはいたが、いずれ誰かから忠告されることだろう。
紛れもなくクランの中では一番の実力者であって、ただのお飾りボスではないのだから。
それはいいとして、ボスに呼び出された俺は新人たちへの教育に関して褒めてもらった。
ただの言葉だけではなく金一封も貰えたので、これまでやってきたことが評価されたと内心で喜んでいた。
そんな俺に向かって、ボスが一言こんなことを言ってきた。
「――ホーカンへの褒美はこれでいいとして、最近何か悩んでいることがあるんだって?」
「……何故?」
「いや。俺が気付いたわけじゃないから。カールやラウから相談に乗ってくれって言われてね。自分らだと素直に話を聞けないだろうって言っていたな」
「あいつら……」
実質このクランを動かしている二人のパーティリーダーの顔を思い浮かべた俺は、思わず渋面になってしまった。
別に不快になったとかではなく、きちんと見るべきところは見ているのだと改めて有難く思ったのだ。
本来ならどちらもクランのトップとして立てるだけの能力を持っているのだが、ボスがそれ以上の力を持っていることを知っている俺としてはこのクランにいることが出来る幸運に感謝するだけだ。
「あいつらへの感謝は……いらないか。変に触れるといじられるのは確定しているからな」
「ハハ。そうですね。いや、先ほどボスから貰った金でも使って奢らせてもらいますよ」
「それはいいな。それはホーカン自身に任せるとして、本題に入ろうか。やっぱり悩んでいるのは、ソロに関してのことかな?」
「はっきり言ってしまえば、その通りです。やはりソロだと超えられない壁があるのかと……いや、自分自身が未熟だということは分かっているのですがね」
「……なるほど。さすがに自分の問題点も良くわかっているということか。となると俺が教えられることがあるとすれば、二つだけかな」
「二つ、ですか」
はっきり言いきったボスは、さらに続けてその二つの『教え』を話してくれた。
一つは、俺自身がどこまで『本気』でソロでいることを目指しているのかということ。
クランにとっては俺がソロで居続けようと新たにパーティを作ってランクを上げようとどちらでも構わないと言ってくれた。
あとは俺がソロにこだわりを持っているのであれば、今のままあがき続けるのも一つの選択だそうだ。
クランとして見ても俺の稼ぎは全く問題がないらしく、ソロでいようがパーティを組もうがどちらでも構わないとのことだった。
本当に俺の気持ち一つで決めればいいらしいと分かって、多少なりとも落ち着けたのはやはりボスから断言してもらえたからだろう。
そしてもう一つは、単純にソロでダンジョンに潜ることについての指導だった。
といっても、言葉であれこれと言われたわけではない。
俺自身が壁となっている階層へと二人きりで向かいソロで戦い続けることを実戦で教えてくれることになったのだ。
相談をしたその日のうちに潜ることになったわけだが、ボスの強さを理解している俺としては何ら不安もなく是非にと即答していた。
そしてすぐに準備をしてダンジョンへと潜ったのはよかったのだが、ダンジョンに入ってからのボスは圧巻の一言だった。
以前から何度も一緒に潜ったことがあるのでボスが実力者であることは分かっていた。
……つもりだったことが、今回のダンジョンアタックで改めて理解できた。
一人でダンジョンに潜り続けることの心構えから実戦まで、ありとあらゆる事を俺に対して教えてくれた。
ただ当然のように魔物が出て来るダンジョンの中なので、一々言葉にしてくれたわけではない。
それでもボスが戦っているところを見ていた俺は、これが言葉で理解するのではなく『見て覚える』ことだと身に染みて実感できた。
「フウ。まずはこんなものかな」
今俺がソロで行ける最下層の次の階層に向かうための部屋まで来たボスは、大きく息をついて笑いながらそう言ってきた。
ボス曰くダンジョンに潜るのは久しぶりとのことだったが、とてもそうは見えずむしろ余裕を持って対処していたように見える。
現に大きく息を吐いただけで肩が乱れるようなこともなく、息切れがしているようにも見えなかった。
ボスの凄いところは、あの独特な魔法を使わずになるべく俺の戦い方を真似てここまで来れるだけの実力があることだろう。
さすが俺が魔法剣士としての実力を伸ばすきっかけを作ってくれただけあって、武器(俺の場合は剣)と魔法の使い方やタイミングなど全てが完ぺきだったように見えた。
ソロでダンジョンに潜る以上は、全てを一人でこなさなければならない。
何をするにしても周り全てに気を配らなければならないのだが、それも当たり前のように自然にこなしていた。
続いてボスはさらに下の階層での立ち振る舞いを見せてくれたのだが、そこではすべてが俺にとっても大事な財産になった。
目の間に、自らの目標となる具体例がある。
冒険者に限らずどの分野においてもそれは当てはまるとは思うが、それでも実戦を間近で見ることが出来ることの意義は大きい。
ある意味で一冒険者として幸せなひと時を過ごすことができたわけだが、それは時間にして三時間ほどのことだった。
自分がボスと全く同じことが出来るとは考えてはいないが、こうして新たな『目標』ができたことでこれから先も目指すことが出来る――そう確信することができていた。
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