(9)思考

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 上司のことは横に置いておくとして、今は速やかに最終進化を進めることにした。

 進化のためにすることは単純明快で、地脈の中央から流れている魔力を全て把握していつでもどこでも好きなように操れるようになることだ。

 一言で言ってしまえば、ガイアがやっていることを自分自身で出来るようになればいい。

 悪くいえば乗っ取りともいえる行為なのだが、アルさんも彼女の隣に姿を見せているガイアもそれが当たり前という顔をして立っている。

「本当にいいのでしょうか?」

 ガイアに視線を向けながらそう問いかけると二人とも揃って頷いていた。

「キラさんが気にしていることをお話するとすれば、そもそも地脈を完全に掌握したとしてもここにいるガイアが消えるというわけではありせんから。

 そう一言前置きをアルさんが語ったことを纏めると、次のようなことになる。

 

 そもそも『ガイア』という存在は、今俺たちが住んでいる『星の魔力』を管理しているAIのようなものらしい。

 より具体的にいえば、地脈が暴発しそうになったら適当に流れを変えて地表に影響を与えないようにしたりする等々、細かい微調整をしている。

 そのため星の管理者が現れたとしても、得にやることは変わらないらしい。

 人が自分の身体の中を流れている魔力を意識せずに使うことができているように、星の管理者もまたそこまで細かいことまでは意識することはない。

 ガイアは、そうした管理者が意識しないところを管理しているという。

 では今現在『星の管理者』が誰かといえば、これは俺たちから言わせると運営の誰かということになる。

 今現在は、こうして目の前に現れてるアルさんが管理者となっているとか。

 今回の進化が上手くいけばその座を奪うことになってしまうわけだが、アルさんとしては歓迎こそすれ反対することはあり得ないとまで言われてしまった。

 そもそも俺たちプレイヤーが運営と呼んでいる存在はかなりの数の『世界』を抱えていて、一つや二つ手放したところで大きな影響はないそうだ。

 

「――そういう訳ですから、気にせず是非とも管理者を目指してください。管理者となった後、この星を生かすも殺すもあなた次第です。自由にしてください」

「そこまで言われると逆に怖いのですが……」

 聞きようによっては突き放すような言い方に思わずそう答えてしまった。

 ただ話を聞く限りでは、アルさんにしてみれば『世界』の一つや二つが無くなってしまっても本当にどうとも思っていないことが分かる。

 

 俺が最終進化したところでガイアには大きな影響が起きないと分かったところで、ようやく進化をすることなった。

 進化をするために必要なことはただ一つ。言葉通り世界(星)の中央であるマナの発生源で、それらを完全に制御できるようになればいい。

 そう言葉にすると簡単に終わるのだけれど、当然ながらそうそう素直に出来るようになるわけがない。

 マナに対する五感を得てからも色々な訓練を進めて来たが、これがもっとも基本的で最後の難関ともいえる技術なのだから。


『壁』を通り抜ける前に一度だけ深呼吸をして息を整えてからいつものように、マナの溜まっている場所である『マナ溜まり』へと向かった。

 マナが自ら動くような存在でないことはここでも同じで、中に入ったからといって何かに流されるようなことにはならない。

 あるのは濃密なマナの気配だけで、それ以上のことは何も起きない。

 ここにあるマナの濃度が一定以上になれば、壁を越えて地脈の流れに乗って世界中にマナが放出されることになるわけだ。

 

 ここに来て進化するためにやるべきことは、普通は動かないマナを自由に動かせるようになり、そのマナを使って世界中に張り巡らされている地脈へと移動させること。

 一言で言ってしまえば、魔力を体の中で自由に動かせるようにする魔力操作のマナ版だと思えばいい。

 言葉にすればマナ操作と言ってもいいかもしれないけれど、マナそのものは世界に対して直接影響を与えるわけではないので扱えるようになったからどうだという見方もある。

 ただしたとえわずかな量であってもマナを魔力に変換すればそれは膨大な量になるので、マナを自由に扱えるようになればまさしく『世界』を握ることができるというわけだ。

 

 そんな理屈はいいとして、とにかく周囲にあるだけのマナをどうにかして動かさなければならない。

 さらにマナを動かしただけでは意味がなく、壁を越えて地脈の流れに乗せなければならない……のだけれど、これがまた難しい。

 エルさんから教わったのはマナに対する五感を得ることだけで、それ以上のことは聞いていない。

 いや。もしかすると講義の最中に一言だけでも何か言っている可能性はあるのだけれど、思い出せない以上は意味がない。

 

 とにかくまず最初にすべきはマナを動かすこと。

 五感のうちの触覚でどうにかできないかと試してみたけれど、うんともすんとも言わず、これまでと変わらずにそこに存在するだけで終わった。

 その他にも五感を使って思いつく限りのことを試してみたが、やはり目的を達することはできない。

 最初に一歩すら進むことができずに悔しい思いだけが募っていく。

 

 体感時間で数時間経った頃だろうか。

 このままがむしゃらに続けていても仕方ないと休憩を取ることにした。

 休憩といってもマナ溜まりから出るのではなく、何もせずにそのまま漂うだけの状態になった。

 そうしていると海の上に浮かんでいるような感じで何とも心地いい。……青い空が見えないのは非常に残念だけれど。

 

 そんなどうでもいいことを思い浮かべながらマナの中を漂っていると、やはりさきほどまでやってきたことが正しかったのかと気になってきた。

 俺がアルさんから学んだことは、あくまでもマナの五感に関することまで。

 普通の五感もそうだけれど、例えば目で周囲の光景を確認することができたとしても、それ自体が何かの現象を起こすわけではない。

 極端な言い方をすれば、目が見えるという五感のうちの一つが正しく機能していても、目からビームを出すなんて真似が出来るわけではない。

 

 先ほどまでやっていたことを思い浮かべながらこのままではマナを動かすなんてことは出来ないと結論を出したうえで、だったらどうするかを考える。

 ここで問題になったのは、マナはあくまでも魔法的な存在なので物理的な方法で考えても答えは出ないのではないかということだった。

 目からビームは極端だとしても、手で仰げば多少の風を起こすことは出来る。

 そもそもマナに触れてるといっても手のような器官があるわけではないのだから、いくら触ったつもりになったとしても動かすことは出来ないというべきか。

 

 だったらマナを動かすためにはどうするべきか――。

 その考えだけが頭の中を巡って、良い答えは全く見つからない。

 ……と、そう考えたところで、ふと根本的な疑問が浮かんできた。

 そもそも今自分自身の身体は精霊のものはずだけれど、肉体があるわけではない。

 そうでなければこの場に存在することができないからだ。

 ――となると今の思考は本当に『頭』で考えているのかと。

 

 マナを動かすということからは離れた考えではあるかも知れないが、一度気になってしまうとどうしても考え続けてしまうのは悪い癖といえるかもしれない。

 とはいえ気になってしまったことは仕方ない上に、何故かいつかの時もあったように、これがマナを動かすことに対する答えと結びついているようにも思える。

 妙な確信と共にそんな考えが浮かんでしまったので、まずは今の自分の有り様について考えることにしてみた。

 マナを動かすための方法は全く見当もつかないのだから、たまには寄り道をしてもいいだろうと言い訳をしながら。




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m(__)m

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