(8)いよいよ開始

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 温泉施設での話し合いのあとは、ホームに戻って掲示板に予定したとおりの内容を上げてからヒノモトの拠点に戻った。

 一応投稿してから一時間ほど様子を見ていたけれど、多少の騒ぎは起こったものの予想よりは落ち着いたものだったのでその程度の時間で大丈夫だと判断してのことだ。

 そもそも各国に保管されているインテリジェンスブックに意味があるのではないかということは予想済みだったので、そこから発見があったという内容だけではさほど盛り上がらなかったということもある。

 ただし詳しいことを知りたい場合はラッシュをはじめとした数人のプレイヤーから聞くようにしたことがこれまでにないやり方だったので、何となく今回得た情報が特大級のものだと気付いた人たちは多かったよう。

 掲示板にもメモ帳にも書かずに口伝のようなやり方にするということでネタバレを防ぐということがかなり慎重なやり方だということは、ほとんどのプレイヤーが気付いているだろう。

 そういう書き込みもあったのだから当然といえば当然だけれど。

 掲示板で内容を知ったプレイヤーの反応としては、人に聞くのは面倒だからメモ帳でもいいから教えてくれというものと納得するもので大体二分されている。

 ただし二分しているといっても割合にすれば後者の方が明らかに多かったので、いずれは反対の声も消えていくだろうと思う。

 

 拠点に戻ったあとは夜も遅かったのですぐに休んだが、翌日すぐに進化するための行動を始めた……わけではない。

 もうすでに目的は達したともいえるけれど、図書蔵での調査も中途半場なままで終わらせるつもりはなかったからだ。

 この世界にある書物も中には読み物として面白いものが相当数存在していることが分かっているので、途中で終わらせるのがもったいないということもあった。

 娯楽が無い世界だけにこうした読み物があるのも理解は出来る……のだけれど、勿体ないと思うのは活版印刷が無いために本の値段が高くて一般庶民に広まっていないことだろう。

 

 さらに図書蔵での調査のことに合わせて、他のプレイヤーに情報を教えるという役目も残っている。

 ラッシュたちに任せてしまっても良かったのだけれど、全てを丸投げにするのも無責任すぎると考えたこともある。

 それにいきなり進化をしてしまうとしばらくアンネリたちと会えなくなってしまうので、ちょっとした充電期間を設けたかった。

 アンネリたちは、すぐにいなくなると考えていたのか、たとえ数日であってもまだ猶予があると知って喜んでいた。

 

 最終進化を目指すことで影響を受けるのはアンネリたちやプレイヤーだけではない。

 むしろより直接的な影響を受けるのは、眷属をはじめとしたユグホウラにいる面々だろう。

 俺(世界樹?)が進化することによって魔力がどう変化するか分からない。

 魔力を直接受け取って生きている眷属たちは、間違いなく大きな影響を受けることが確定している。

 

 ただし第一世代の眷属すべてを集めての話し合いでは、反対するような意見は一切出なかった。

 心配する様子は見受けられたものの何故今更進化などという意見が出なかったのは、やはり基本が魔物ということだろうか。

 より強大な力を得るために行動するということは、魔物にとっては息をするように当たり前のことのようだ。

 世界樹が進化することによって得られる魔力が強くなれば、その分だけ自分たちがより強くなれると分かっているだけに猶更反対する理由がないのだろう。

 

 アンネリたち、各プレイヤー、眷属たちへの説明を終えたあとは、いよいよ本格的に最終進化へ向けて進めることになった。

 まだ図書蔵の調査は残っているけれど、やろうと思えばいつまででも続けられるので適当なところで切り上げた。

 ただしアイリの出入りについては、ほぼ無期限で出来るようにしてある。

 既にアイリも結果を残し始めているので、変に締め出す必要が無かったということも話し合いの材料の一つになっている。

 

 さらに各地に置いてある転移装置については、アンネリとアイリに限って眷属の許可を得たうえで自由に使えるようにもしてある。

 進化にどれくらの時間がかかるか分からないので、誰かが使えるようにしておかないと折角やっているクランの移動ができなくなってしまう。

 それを防ぐために、眷属を間に挟みつつアンネリとアイリに許可を出した形になる。

 基本的に使うのはアンネリになりそうではあるけれど、何かあった時のためにアイリにも使用許可が必要になると考えてのことだ。

 

 そうした諸々の問題が上がりそうな部分を終わらせて、ようやく最終進化に向けて動けるようになったのは、情報を手に入れてから一週間後のことだった。

 これでも早い方だと思えるのは、それぞれの場所で協力してくれている人たちがいたからだ。

 実質敵に時間を取られたのはアイリの図書蔵への入蔵許可だけだったので、出した申請が返って来るのを待つだけで済んだ。

 その間に情報を知りたがる各プレイヤーへの説明もできたので、ある意味で予定通りだったといえる。

 

 それらの準備を終えて最終進化のためにまず向かった先は、世界樹の麓だった。

 どこからでも目的地に向かうことはできることは知っているのだが、始まりの場所から向かうのが良いのではないかと何となく思えたためだ。

 少しだけ感傷的になっていることもあるけれど、気の持ちようが進化に影響を与えることは知られていることなので割と重要なことでもある。

 それがたとえわずかな可能性であっても、良い方向に向かうのなら何でもやっておいたほうがいいだろうという気持ち的な問題でもある。

 

 世界樹の麓についた後は、人から精霊の姿に変化した。

 これから地脈に向かうことになるので、体を地上に残しておくよりも精霊の姿で直接地脈に向かったほうがいい。

 精霊の姿だと地脈に直接入れるのは以前から分かっていたことで、中で活動する分にはそちらのほうが色々と都合が良かったりする。

 特に精霊の姿で向かうべきと指示されたわけではないけれど、人としての身体を残しておきたくはないという理由が一番大きい。

 

 精霊の姿になった後は世界樹の中へ入って、そのまま地脈へと向かう。

 直接地脈に向かうことも可能だが、これも気分的にそうしたほうがいいのではないかと考えてのことだ。

 そして一度地脈の中へ入ってしまえば、あとは中央へ転移を使って移動した。

 今回の目的地は地脈の中央なので、これで全ての準備が整ったことになる。

 

 地脈の中央では、一人の人物が待っていたかのように声をかけて来た。

「いらっしゃい。……というのもおかしいですね。ここで何度も会っていますから」

 そう言いながら曖昧に笑ったのは、アルさんことアルハサエルさんだった。

 事が事だけに彼女がいることは予想できていたので、特に驚くことはなかった。

 

「そうですね。ですが、わざわざいらっしゃるということは、やはり進化に関係してですか? 何か不足していることでも?」

「いいえ。あの本から知識を得たのであれば、特に私から付け足すことはありませんよ。ただこちらとしても初めてのことですので、様子を見守りたいだけです」

「なるほど、そういうことですか。ただ、そう聞くと上司さんの言っていることと変わらないような気もしますね」

「……出来れば一緒にしてほしくはありませんが、そう言われてしまうのも仕方ありませんね」


 最終進化がどうなるのか近くで見守りたいという気持ちは理解できる。

 実際、何か不具合でもあれば対処することもできるので、いてくれたほうが助かるのはこちらとしても安心する。

 とはいえそれが上司の目的と同じように見えてしまうのは、同じように彼(?)に毒されてしまっているからだろうか。

 そんなことを思いつつ言葉にした後で、アルさんとほぼ同時にため息を吐くことになってしまった。




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m(__)m

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