(10)進化への道

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 マナだまりの中……というよりも地脈の中央の来るためには、人族としての『体』は捨てないといけない。

 だからこそ中央に来るために、魔道具で疑似的な体を作って来たわけだ。

 マナだまりがある場所はそこのさらに中心にあるわけで、当然体そのものがあるわけではなく慣れた感覚で体が存在していると認識しているのに過ぎない。

 となると今こうやって思考している内容は、どこでどうやって考えているのかという疑問が沸いて来る。

 そもそも魂という存在が物理的にみればあやふやな存在なので、と考えること自体間違いだと思える。

 そこまで考えて思い出したのは初めてこの世界に来た時、世界樹の中で動き回る事すらできずにただどうするべきかと考えていた時のことだ。

 あの時のことを思い出して、ふと今の状況と似ていることに気が付いた。

 あの時は世界樹が生み出している魔力が周囲にある状況だったが、今はマナが周りにある。

 

 初めてこの世界に来たあの時、自分はどう動いただろうか。

 そう考えてからかつて当時は知らなかった魔力の中で動けるようにもがいたことを思い出してみる。

 そこで思い出したのは、周りに合った『流れ』に身を任せて周囲の様子を探ったこと。

 その流れで魔力の存在を知り、自分自身のことを知っていった。

 

 それならマナに囲まれて漂っているだけの今でも同じことができるのではないか――そう考えてしまったのは、仕方のないことだろうか。

 さっきまではマナを動かすことを忘れてどこで思考をしていたのかと考えていたのに、次々と焦点がずれてしまうのは悪い癖だと思う。

 それでも思い浮かんだ思考が止まることはなく、過去のことを思い出しながらこの場で自分自身が動くことができないかと考え始めていた。

 今現状ではそこに漂っているだけなので、自分自身が動くことができればもしかすると周りにあるマナを動かすことが出来るようになるかも知れない。

 

 過去に世界樹の中でどうやってもがいていたのか思い出しながら、マナの中を漂う。

 そうしているうちに、ふと地脈の中央とマナだまりを遮っている『壁』付近ではマナがどうなっているのか気になってきた。

 中央にある壁はマナだまりと地脈を遮る障壁であると同時に、マナをマナだまりから『外』に出す役目も担っている。

 であるならば壁がマナを動かしているともいえ、それが何かのヒントになるのではないかと思いついた。

 

 とはいえマナだまりの中では移動することもままならない。

 どうしたものかともがいているときに、以前アルさんから聞いた話を思い出した。

 そもそも壁の役割はマナだまりと地脈を区切るものであって、積極的にマナを動かすような存在ではないのではないかと。

 ではマナがどうやってマナだまりの中から出ているのかといえば、ある一定以上の量を超えると出ていくようになっているのだと。

 

 マナの量が増えると溢れるように外に出ていく。だからこそこの星の、世界にあるマナの量を増やすことが重要になる。

 確かにそう言っていたことを思い出して、同時にどうしてこんな重要な話を忘れていたのかと反省をした。

 そもそも人族全体の強さを上げようとしていたのは、底上げすることによって世界全体の魔力の量が上がるからだと考えてのことだった。

 その根底にあるのがマナだということは後で知ったことではあるけれど、やっていることは変わらない。

 

 ここまで考えれば、マナを動かすためにあとはどうすればいいのかはすぐに思いつく。

 早い話が今いるマナだまりにあるマナの量を増やせばいいだけだ。

 問題になるのはどの程度の量が増えれば、もしくは濃度を濃くすればいいのか分からないということだろう。

 さらにそもそもどうすればマナを増やすことができるのかもよく分からない。

 

 ……だからこそ最終進化なのかもしれない――ここでそう思いついたのは、自然な流れだったのかもしれない。

 マナを動かすことが出来るような存在になるために、最後の進化が必要だということなのだろう。

 ここで大量にというのは、それこそ世界の管理者になるために必須の条件だと思われるためだ。

 大量のマナを任意で操作することができるようになる。それが進化をするための最低条件というわけだ。

 

 また思考が寄り道をしてしまった。

 先に考えていたのは、初めてこの世界に来た時と今が似たような状況にあるということ。

 あの時はどうやって動き回って周囲の状況を確認したのか。

 それらの疑問を頭の中で思い浮かべつつ、過去のことを思い出しながら少しずつ周囲の様子を確認していった。

 幸いにして既に周囲マナに対する五感は手に入れている。

 あとは自分自身が自由に動きまわれるように、ほんの少しでもいいから場所の移動ができるようにと試していった。

 

 ――体感時間にして二、三時間が経った頃だろうか。

 それまで何の変化もないと思っていた周囲の様子が、少し違っていることに気が付いた。

 言葉にするには何といえばいいか悩むところだけれど、何となく周りでそよ風が吹いているように感じた。

 勿論今いる場所で風が吹くなんてことはあり得るはずもなく、すぐにそれがマナが移動しているために感じていることだとわかった。

 よくよく感じ取ってみれば、流れる方向が一定方向になっていることもわかった。

 今いる場所が壁に近い場所で、マナの濃度が一定数を超えたので移動を始めたから感じ取れたとも考えられるけれど、残念ながらそれが正解かどうかは分からない。

 何度もいうがマナという存在が物理的な法則に沿って存在しているのか分からない以上、自分が知る『常識』に当てはめて考えていいかが分からない。

 

 これまでの試行錯誤を考えれば、マナが流れていることが体感できただけでもかなりの成果といっていい。

 ただし本来の目的は、周りのマナの動きを察知するのではなく自分の力で動かすことだ。

 こちらに関しては、全く目途が立っていない。

 ……わけではなく、そもそもここに来た目的と先ほどから感じているマナの動きを感じ取れたお陰で、何となく何をすればいいのかは分かってきた。

 

 かつてこの世界に来て魔力なんて存在を全く知らなかった頃、あの頃を思い出してマナを動かせないかと試したことはあまり上手くいかなかった。

 ただ『マナの流れ』を感じ取ることができたお陰で、自分自身がどう変わればいいのかは理解できた。

 それこそ初めて魔力というものに触れて、その動かし方を知った時のように。

 あとはその変化を受け入れることができれば――そんなことを考えた時だった。

 

『進化の条件が整いました』


 という随分と久しぶりに感じるメッセージ音が流れて来た。

 マナに対する理解が深まったからなのか、あるいはマナの動きを自分で感じ取ることができるようになったからなのか、あるいはその両方なのか――。

 いずれにしてもメッセージが届いたということは、最終進化をするための条件が整ったことになる。

 そのメッセージだけを見ればこれまでの苦労は何だったのかと少しばかり脱力してしまいそうになるけれど、その苦労があったからこそだと思い直した。

 

 物理とはかけ離れたはずのマナだまりの中にいるにも関わらず、システムメッセージはしっかりと開くことができた。

 そういえば、このシステムについてもアルさんは『魂に紐づいているのでこの世界の中であればどこでも使えます』と言っていた。

 そんなどうでもいことを一瞬でも考えてしまうのは、最後の進化ということで感傷的になっているからだろうか。

 

 そんなことを考えながら進化の許可を受諾すると、マナに囲まれて様々な色に見えているはずの視界が一瞬にしてブラックアウトした。




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m(__)m

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