(6)いろいろ相談

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 貰った情報の整理も終えたところで、早速進化をするための最後の条件を満たすべく目的地へ移動……する前に、二つのやるべきことを終わらせることにした。

 一つは、アンネリたちに長期不在になる可能性があることを知らせることだった。

 前回の進化の時でさえ、長期間身動きすることができなかった。

 今回が最後の進化ということで、どれくらいの期間不在になるか分からない。

 最初からそれが分かっているのだから、きちんと知らせておくことが筋というものだと思う。

 難しく言いまわすとそんな感じになってしまうが、要は心配させないように事前に知らせておくというだけのことだ。

 もっともどれくらいの期間かかるのか分からないのでその点は心配させることになるかも知れないけれど、それに関してはどうすることもできない。

 俺自身も予測が全くできないので、それを正直に話すことしか出来ることはない。

 

 部屋からリビングに出て全員が揃っていることを確認してから長期間不在にすることを告げた。

「――そういうわけだから、どれくらいになるかもわからないけれど結構な期間いなくなると思う」

「そう。わかったわ。……大丈夫なのよね?」

 こういう時に真っ先に聞いて来るのはアンネリなのだけれど、その表情が僅かに曇っているように見えるのは気のせいではない……と思う。

 それだけ自分のことを気にかけてくれていると思うと嬉しくなってしまったが、さすがにこの場でそれを口にすることは控えておいた。

 心配をさせていることも事実なので、ここで空気の読めないようなことを口にするほど鈍いつもりはない。

「大丈夫……とはっきり言いたいところだけれど、正直なところは分からないな。ただ今言えるのは、これまでも同じようなことはあったけれどそこまで心配するようなことにはならなかったということくらいかな」

 実際進化は「条件を満たしている」からこそできるので、進化している最中に最悪な事態にはならない。

 今回もそれが当てはまるとは思うけれど、絶対と断言できないのは何となく今までとは違っていると肌で感じているからだ。

 

 正直に今わかっていることを告げると、アンネリはジッとこちらを見て来た。

 真っすぐこちらを見てくる目は確かに心配しているように見えて、また嬉しくなってしまったがそれは表に出てこないように気を付ける。

 こちらがアンネリの気持ちを分かるように、あちらもしっかりと分かってしまうだろうから。

 それは、お互いの気持ちが分かるくらいに長い付き合いになってきたからかもしれない。

 

 数十秒ほどこちらを見ていたアンネリだったが、やがて一つ大きなため息を吐いていた。

「――もう。仕方ないわね。どうせ止めても止まるわけはないでしょうし、そもそも止める必要もないわね」

「……本当にそれでいいのですか?」

「アイリ。残念ながらこの人は、自由にやってきたからこそ今があるのよ。それにこの先どこまで行くのか見たいというのは、あなたも同じでしょう?」

「それは……確かにその通りです」

 アイリは、見事にアンネリに言いくるめられたようだった。

 それもこれもアンネリが周りにいる人のことを良く見ている証拠でもある。

 今回はアンネリにもアイリにも思いっきり甘えてしまう形になってしまうが、今更進化しに行くのを止めるという選択肢は存在しない。

 どこまで行っても自分は『プレイヤー』なんだと認識させられた結果になってしまったけれど、それが良いことなのか悪いことなのかはいつまでも答えが出ない問いのようなのかもしれない。

 

 そんな余計なことを考えているとアンネリとアイリは既に覚悟(?)を決めたようで、いつも通りの表情に戻ってこちらを見ていた。

 それは既に長期間不在にすることを受け入れているようで、思ったよりも説得に時間がかからなかったと安心した。

 これだけのことをしておいて進化があっさりと終わった場合は恥ずかしい思いをすることになるけれど、それは甘んじて受けようと思っている。

 

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 アンネリたちに説明をした後は、もう一つのやるべきことをするためにプレイヤーが集まる広場へと向かった。

 いきなり温泉施設に行って井戸端会議よろしく風呂の中で話すのも魅力的だが、内容が内容なだけに流石にそれは自重することにした。

 温泉施設というだけあって寛げる場所はいくつも用意されているので、そこで話をすればいいだろう。

 

 そんなことを考えながらいつも使っている休憩所に向かうと、そこには既にある程度出来上がっているラッシュが他数名のプレイヤーとともに雑談をしていた。

 テーブルの上には、空いた酒瓶の幾つが並べられているのはご愛嬌だろう。

 インテリジェンスブックから得た知識の整理とアイリたちとの話で夜もある程度時間が進んでいるので、珍しい光景ではない。

 そもそも俺自身も時間ができた時には同じようなことをしているので、どうこういえる立場にはない。

 

 そんな集団向かって歩いて行くと、あちらも気付いて話しかけて来た。

「よう。今日はちょっと遅かったな?」

「色々と立て込んだことがあってね。それもあって、今からちょっと相談に乗ってもらおうかと思ってね」

「……しまったな。今日は来ないと思っていたから飲み始めたが、甘かったか。遅くなる時こそ何かあったと思うべきだった」

 

 そんなことを言っているラッシュだったが、お酒が入ったコップを片手にそんなことを言われてもあまり説得力はない。

 こちらとしても固すぎる雰囲気で聞かれても困るので、多少お酒が入った状態の方が話しやすい。……それにしても回り過ぎている気はするけれど。

 もっとも今ここにいるプレイヤーたちは、たまたまなのか人外系ばかりなのであまり酔いは気にしなくてもいい。

 中身はドラゴンを筆頭にして『酔い』という状態異常に対する耐性を持っているのが普通だったりするからね。

 

「――まあ、いいか。それで。何かあったと顔に書いてあるが、何があった?」

「……そんなに分かりやすいかな?」

「人の姿の時はな。不思議なもんで精霊の時は分わかりにくいぞ。犬の尻尾と同じようなものなのかもしれないな」

 人族の表情の変化を犬の尻尾と同列にして欲しくないと言いたいところだったが、思い当りがあり過ぎて反論は出来なかった。

 別に俺の表情が読みやすいというわけではなく、種族的な問題だと言いたいのだろう。

 実際、一周目の時も人族の表情が分かりやすいと感じることが多々あった。

「さよですか。それはいいとして、ちょっと相談含めて話したいことがあってね」

「了解。ちょいと酔いを醒ますから待っててくれ」

 

 ラッシュの言葉に合わせるように、周囲にいた他のプレイヤーも耐性のスイッチを入れたようだ。

 耐性のON/OFF機能は、こういう時にこそ効果を発揮すると思う。

 ……耐性に限らずスキルにON/OFF機能があると発見された時に喜んでいたプレイヤーの多くが、少なからずお酒を飲む人たちだったというのは今でも掲示板内で語り継がれている。

 

 そんなよもやま話はともかくとして、ラッシュたちからお酒が抜ける様子を確認してからプレイヤー(今いるサーバーのみ?)にとっての最終進化の情報を話した。

 条件を含めた細かい内容は話さずに、進化ができるという話だけに絞って話している。

 折角だから自分で見つけたいというプレイヤーも多いはずということもあるが、そもそも掲示板でどこまでを書き込んだらいいかと相談したかったこともある。

 詳しい情報を話さずにプレイヤーにとって最後の進化になるはずだと言うと、皆の顔色が変わったのと同時に揃って悩ましい顔になったのは状況を理解してくれたから……だと思いたい。




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m(__)m

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