第23章

(1)調査開始

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 ミヤコでは、冒険者ギルドの依頼から始まった一連の騒動も終わりを迎えて落ち着きを取り戻していた。

 それらのことをマキムクに帰還することを報告するためか、兵家長介がわざわざ拠点まで挨拶に来ていた。

 その明るい表情を見るに、タマモへの事情説明も上手くいったことが見て取れる。

 これでようやく肩の荷が下りたと言わんばかりの表情を見て、少しだけ申しわけなく思いつつ以前から放置し(され)ていたままだったことを聞くことにした。

「――ここで言うのは申し訳ないのですが、図書蔵への入館の件はどうなっているのでしょうか。畑違いなのは分かっておりますが、今回のごたごたで誰に連絡を取ればいいのかも分からなくなっておりまして……」

 その言葉に長介の顔色がさっと青くなっていた。

「申し訳ございません! すぐに確認を取ります。今しばらくお待ちください」

 長介は、その言葉だけを言ってすぐに出ていってしまった。

 

 そんなやり取りをしたのが午前中で、長介は午後には再び顔を見せに来た。

 その手には一通の書状が握られていて、次のような言葉と共にサッとそれが差し出された。

「遅くなって申し訳ありません。こちらを図書蔵の門番にお見せください。既に話は通っているので、誰にも邪魔されずに中を確認できます」

「ありがとうございます。――どうにも急かしてしまったようで、申し訳ございません」

「元はといえばお館様からの書があるにも拘わらず止めておったこと自体がおかしなことなのですが……今更言っても仕方のないことですな」

 お館様(足利当主)の書を止めていた才家与一は、既に処分が下って当主を退いている。

 ここでその与一に文句を言っても仕方ないというのは長介の言う通りなので、頷き返すことしかできなかった。

 有耶無耶になる原因を作った与一は、既に表に出て来る立場ではなくなったので責任を負わせることもできなくなっている。

 予想以上に長く放置されることになった原因は与一にはないので、今更どうこう言うつもりもない。

 

 とにかく図書蔵に入る許可を得ることができたので、これ以上を求めるつもりはない。

 それを丁寧に説明すると長介はホッとしたようすを見せて、さらにしっかりとお礼を言いながら拠点を去っていった。

 巣の件といい色々と心労がたたっていなければいいと思いつつも、こちらからは見守ることしかできない。

 もっとも武を統括する家の当主なので、心配するだけ無駄かもしれないけれど。

 

 長介から書類を受け取った翌日には、アイリを伴って図書蔵へと向かった。

 さすがのアイリも図書蔵に入れるような立場にはいないので、今回の機会を楽しみにしてるようだった。

 その他のメンバー(護衛役の眷属は別)は、これまで通り冒険者活動をすることになっているので着いて来てはいない。

 アンネリは前回のこともあるので一緒に着て来るかと聞いてみたが、子供たちを引率することに楽しさを覚えているらしく今回も丁重に辞退された。

 

 図書蔵はいわゆる日本お寺などの建築様式で作られている建物で、かなりの広さになっている。

 ユグホウラができる以前からあったヒノモトに関係している書物全てが集まっているので、その位の広さがあってもなんら不思議はない。

 中には禁書と呼ばれるようなものが管理されてることも、ノスフィン王国の禁書庫と同じだ。

 魔法がある世界だからこそ魔導書と呼ばれるものがあり、不用意に触れたりしないようにと司書である管理者に念を押された。

 

 図書蔵に努めている書記さんたちはそこそこの数がいるようで、室内に入った時から不思議そうな視線を向けられている。

 針の筵というわけではないけれど、探るような視線を向けられるのはやはり居心地が悪くなってくる。

 とはいえこれで引き返すと何をしに来たのか分からないので、意味ありげな視線を向けて来たアイリに首を振りつつ目的地へと歩く。

 今回の目的は古代から伝わるとされている古文書なので、ある程度の位置は聞いておいてあるのでそこに向かって進むだけだ。

 

「ここの棚がそうかな?」

「恐らく……ああ、間違いありませんわ」

 棚に納まっている一冊の本を手に取ってチラリと内容を確認したアイリが、間違いないと頷いてきた。

 この辺りはまだ『大人しい』ものだけが収められていると司書さんから聞いているので、そこまで気をはる必要はない。

「よし。それじゃあ、ここら辺りで調べて行こうか。アイリもこっち事は気にせず自分の気になることを調べていいからね」

「ありがとうございます。そうさせてもらいますわ。私としては、やはりお社関係が気になりますから」

「そうだろうね。むしろ俺もそっちから調べた方が早い気もするけれど……どうせだったら手分けしたほうが早そうだしね」

 どの分野から調べたとしてもこちらが求める『何か』が見つかる確率は変わらない……と思う。

 そもそも求めているものが古代史に関わる『何か』という非常に曖昧なものなので、最初から決めつけるのは危険だろう。

 

 というわけで、これまでの騒動に対するうっぷんを晴らすかのように書籍調査を始めた。

 調査が開始できなかったのは巣の騒動とは別の問題なのだけれど、同じ才家が関わっているので頭の中では同一のものとなっている。

 長介はあまり詳しくは言っていなかったが、図書蔵への立ち入りが中々許可されなかったことに才家が関わっていることは間違いないと考えている。

 だからといってそれを追求するのは時間がもったいないので、政治的な処分(?)はお任せしているといったところだ。

 

 そんなことを考えながら始めた調査だったけれど、そんな余計な思考が混ざっていたのはほんの数分レベルですぐに書籍探しに熱中し始めていた。

 図書蔵にあるのはやはりヒノモトで書かれたものが中心になっているので、何となく日本昔話から取ったような話が多くて面白かったということもある。

 一つ一つの話を読み込むわけにはいかずに流し読みをしながらだったけれど、こんな話まであるのかと懐かしく思えるようなものまであった。

 運営がどこまで関与しているかは不明だが、ここまであからさまに似せた話がある以上は全く関与していないとは思えない。

 

 そうこうしているうちに二時間ほど時間が過ぎていて、アイリが笑いながら近寄ってきた。

「随分と楽しそうですが、何か見つけましたか?」

「直接的に関係するような話ではなさそうだけれど、恐らく間接的なものだと思われるものはいくつかね。やっぱりこっちに来てよかったよ」

 ヒノモトに来る前はエイリーク王国とどちらに行くかで迷っていたが、やはり図書蔵にある書物の内容を見るとこちらが正解ではないかと思えるようになっていた。

「それは良かったですわ。私も中々興味深いものを幾つか見つけられました」

「そうか。お互いに良かったってことかな。まだまだ始めたばかりでこれからどうなるかは分からないけれど、先が楽しみだね」

「ええ。本当に」

 入るまで色々大変だったが、たった数時間で楽しみを見つけけることができたのは大きな成果だと思う。

 それが実際に結果につながるかどうかは別にして。

 

 とにかく、それからの調査でも面白いと思えるような書物を幾つも見つけることはできた。

 肝心のこれからの攻略に関係しそうなものは見つからなかったが、たった半日程度の調査で見つかるとも考えていない。、

 これからもどんな話を見つけることができるかは楽しみではあるけれど、本題はあくまでも攻略に関係する書物があるかどうかだ。

 出来ることならこのヒノモトで見つけることができればとは思うが、ここに用意されていなかったとしても手掛かりのようなものでも見つかればいいと思う。




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m(__)m

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