(11)残った問題

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 才家への処分も決まり、ミヤコではざわつきがありつつも日常に戻っていた。

 魔物の巣の放置という人の生活にとっては日々の生活を送っている民からすれば重大事件だっただけに、もっと騒がれていてもおかしくはないとは思うがそこまでお騒ぎになることはなかった。

 この辺りは兵家が情報統制とは言えないまでも、何らかの関与をしていると思われる。

 俺自身も変に騒ぎが起こるのは好ましくはないとは思うので、大きな騒動にならなくて良かったと思う。

 そして肝心かなめの冒険者ギルドがどうなったかといえば、監視付きの放置状態になっていたギルドマスターにもしっかりと処分が下された。

 そもそもギルドでは積極的に巣のことを『なかった』ことにしようとしていたのは上層部の数人だけで、あとはその指示に従って動いていただけだった。

 冒険者もまたその雰囲気に流されてあのような状態になっていたということで、何かの処分が下ったということはない。

 結果として当初考えていたよりは最小限の処分で済んだというのが、結果を聞いて最初に思ったことだった。

 

 それらの政治的な問題はいいとして、最後にして最大の問題がまだ残っている。

 それが何かといえば、下手をすればミヤコ自体が襲われてもおかしくないくらい近くに出来ているラットの巣のことだった。

 ユグホウラが調整用に使っていたので暴発寸前というところにまでは行っていないが、それでも今のまま放置を続ければいつ暴発をしてもおかしくはない。

 兵家によって改めて調査された結果から、すぐにでも対処しないと駄目だということがギルドに改めて知らされることとなった。

 

 頭を抱えることになったのはギルド側で、さすがにそれだけの事態をいきなりすぐに手配などできない状態だった。

 そもそもミヤコは将軍が住まう町ということもあって、周辺も含めた都市警備が発達しているお陰でランクが高い冒険者はあまりいなかった。

 基本的に人の対処はお侍さんたちが、魔物も相手は冒険者がという暗黙の了解のようなものもあるお陰で、町にいる武士(騎士)たちもすぐに動かすことはできない。

 周辺警護や街道整理をしている武士を回すことはできなくもないが、それによって後ほどミヤコの町そのものや街道に影響が出るようになるのは目に見えて明らかだそうだ。

 

 ――そんな情報を持ってやってきたのはやはり兵家長介で、今現在その当人は一緒に来た部下の目があるにも関わらず見事な土下座を決めていた。

 より正確にいえば、武士たちが上位者に対してお願いしたりするように正座をした状態で頭を下げているというべきだろうか。

「――話ができませんから、ひとまず頭を上げてもらえないでしょうか?」

「はっ。いやしかし、私にはもうこうすることしかできないのです」

「うん、まあ。話の流れで私に巣の破壊を依頼に来たというのはわかりますが、何故私なのか伺っても?」

「それは――守護様に此度の件を報告するのと同時に巣の件をお話しした際に、冒険者としてきちんと依頼すれば受けてくれるのではないかということでしたので――」

「あ~、なるほど。そう来ましたか」

 確かにタマモであれば俺の実力をある程度把握したうえで、『人』として片付けてくれると言って来るのはおかしいことではない。

 問題なのは、あれだけ多くのラットがはびこってる巣を片付けることができるということを、どれほどの異常事態なのかを把握していないであろうことだろうか。

 

「――受けるのは構わないのですが、正直なところどれほどが適正値になるかが問題だと思いませんか?」

「それは……過去に行われた巣の破壊を参考にするというのは?」

「それは恐らくですが、爵位というか家臣として迎えるということで処理されていませんか? さすがに私がそれを受けるわけにはいきませんんし、金銭で貰うとなるとどれほどになるのか、計算はされておりますか?」

「むうっ。それは、確かに難しい……いや、むしろ金銭で済ますほうが穏便に終わるか?」

「そこで問題その二が出てきます。そんな大量の金貨を何の公表もせずに動かすことができるのか、ということですね」

「それは……」

 悪目立ちするつもりがないということは以前から変わっていないので、ギルドが町にいる冒険者だけでは破壊は不可能と判断した巣をでどうにかしてしまったという注目のされかたはあまり好ましくはない

 今にでも町が襲われそうになっているというのであればそんなことを言っていられないのだけれど、現状だとそこまで緊急事態でもないので何か別の道を探したいという本音もある。

 それが難しいとなると、どうにか目立たないまま内々で終わらせてほしいところだ。

 

 ……とは思いつつも現実的に彼らに手段がないことも理解している。

 ミヤコの近くに手が付けられないレベルの魔物の巣があることは冒険者の間でも既に知られているので、彼らもまた自分たちのところには指名依頼は来るなと考えているだろう。

 良くも悪くもミヤコにいる冒険者は一部を除けば自分たちのレベルを知っていて、自分たちの手に終えないことを理解しているから。

 一部の理解できていない者たちは、残念ながらそこまでのレベルに到達していないので、ギルドや兵家が依頼をすることはあり得ない。、

 

 今すぐではないにせよいつ崩壊するか分からない魔物の巣を放置するわけにはいかないと兵家が考えるのは当然……というよりも、むしろ義務だといえる。

 だからこそここまで頭を下げに来たのだということも理解できていて、自分たちが巣を処理すること自体は何の問題はない。

 残った問題こそ今お互いに頭を悩ませる結果になっている報酬に関して、ということになる。

 そこでお互いに思考が止まってしまったわけだが、ここでこれまで黙って話を聞いていたが口を開いた。

 

「主様、少しよろしいでしょうか?」

 その言葉にクインの正体まで知らない長介は訝し気な表情になっていたが、他の面々はここでクインが言葉を出すのかと驚いていた。

「うん。勿論いいけれど、何か良い案でもあった?」

「折角の機会ですので、あの洞窟自体を完全にユグホウラのものとすると明言することにされるのはいかがでしょうか?」

「……なるほど。確かにそれはありだね。後々変に係争地になるのを防ぐことにも繋がるだろうし」

 クインと俺の言葉を聞いた長介も、それならという顔になっていた。

 

 魔物の巣がある辺りは、そもそもが巣の傍ということもあって人の出入りはほとんどない。

 さらに奥に進めばユグホウラの管理している土地になっているので、最初から使える土地ではない。

 そんな土地を利用して取引に使えるのであれば、願ったり叶ったりといったところだろうか。

 ユグホウラ側のメリットはクインが口にした通り係争地になることを防ぐことであり、それだけで十分に利益になる。

 そもそもユグホウラが『土地』を確保するのは、人族のように住処のための町を作ったり農耕地として利用するためではないので、その価値は人族が考えている以上のものになる。

 そしてユグホウラが間に入れば、大量の金貨の移動という不自然さも隠すことができる。

 俺たちはユグホウラから金銭を受け取ればいいので、ギルドからの依頼という形には出来ないが、十分な利益になるというわけだ。

 

 クインのお陰でどうにか道筋が見えたため、早速とばかりに長介は各所へ調整へと向かった。

 その結果巣は無事に排除され、ミヤコの人々はそれをギルドの発表で知る事になり再び安心して暮らせるようになった――とさ。




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m(__)m

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