(10)最後の決めごと

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 才家与一が拠点に来てから一日空けた翌々日。今度は兵家長介が拠点を訪ねて来た。

 その顔を見ればただ単に結果報告をするためだけに来たわけではないことはすぐに分かったので、アポもなしに突然やって来たことを責めたりはしなかった。

 そもそも才家の当主がわざわざミヤコまで出張っていること自体通常ではありえないことなので、ある意味では非常事態ともいえる。

 そんな状態でここまで来たということは、俺自身というよりはすぐにタマモへ連絡がつくことを期待してのことだということはすぐにわかった。

 実際タマモへ連絡手段は持っているので、必要だと分かればすぐに使うつもりでいる。

 一々タマモへのお伺いを立てるためだけに来たのなら便利に使われる気はないのだけれど、長介の顔を見ればそうではないことはわかる。

 実際彼の顔は苦渋とも取れるような何ともいえないものになっていて、難しいかじ取りを迫られていることは容易に想像はつく。

 もっとも敢えてその顔を見せているのかもしれないが、今彼が難しい立場に立たされているのは紛れもない事実だ。

 

「――この度は、本当に申し訳なく……」

「あ~。いやまあ、正直一番動いているのは貴方ではありませんか? 私は魔物の巣を放置しておくのはまずいとタマモに知らせただけですからね。直接タマモじゃなく先にあなたに伝えるべきだったかもしれませんが……いや、あそこまでになっていたらそれも無理だったでしょうか」

「恐らくあなたにギルドの惨状を知られた時点で無理だったでしょう。あなたがヒノモトにいる時点で、ある程度の話は伝わっているでしょうから」

「まあ、そうでしょうねえ。それはいいとして、今回はその話をしに?」

「いえ。実は困った問題が起こっていまして……。一つ知恵をお借りできないかと来させていただきました」

「知恵……と言われましても、そちらの政には関わるつもりはありませんよ」

「いえ、そうではありません。より詳しく言うと、あなたを通して守護様のご意見を伺えないかと思いまして……」

「ああ、なるほど。メッセンジャー役ですか。ですが、それでしたらわざわざ私を仲介する必要はないかと思いますよ」

「そうは仰いますが私どもから守護様と会える手段は限られておりますし、何よりも全て終わってから話をするようにと申し付けられておりますので……」


 好き勝手に当事者の処分を決める前に事前に調整できるように感触だけ知りたいと、実に人族らしい考え方を長介が言いにくそうにそう言ってきた。

 とはいえこれに関しては自分自身も人間的な考え方をするので、長介が言いたいこともよく理解できる。

 だからと言ってこの場にタマモを呼び出すようなことはできないしするつもりもない。

 というよりもそんなことをしなくても、長介にとっての一つの解決策にできる方法は気付いていたので、それを実行することした。

 

「――そういうことらしいので、ちょっとここまで来て話をしてくれませんか、イチエさん」

「もう。キラ様は『さん』付けなど要らないといつも言っているのに、連れないですね」

 そんなことを言いながら大人の魅力たっぷりい現れたのは、タマモの眷属であり一番の娘でもあるイチエだった。

「それは皆の許可をえてからということで。それよりも才家が困っているようなので、助言の一つでもお願いします」

「あら。そもそも私は、あまり詳しく話を伺っていないのですが? ここに飛んでこれたのもキラ様の許可があったからで、母様からも状況はあまり聞いておりませんよ?」

「そうなんだ。逐一報告しているものだと……そういえば、連絡手段がないと言っていたっけ」

「それはおかしいですね。今が非常時じゃなくて、いつが非常時になるんです?」

「あれ? そう言われてみればそうだね。一応非常時の連絡手段は、少なくとも藤原家は持っているんだっけ。……と言いたいけれど、さすがにそれを長介さんに求めるのは間違っているかな」

「……母様、怒っていますからねえ。出来れば最終決着がつくまでお会いしたくないという気持ちは理解しますよ、私も」


 怒れるタマモに口を出したくないというのは俺も同じで、さらに今回はユグホウラも絡んでいることなので猶更口出ししにくくなっている。

 この件で俺が口を挟んで仲裁してタマモが怒るとは思わないが、残念ながらそんなことまでするつもりはない。

 もしここで手助けをしようものなら、間違いなくヒノモトの関係者は俺を頼って来ることいなるだろうから。

 もっともそれを言ってしまうとここでイチエを呼んだのも手助けになってしまうわけだが、これくらいなら許容範囲と考えていい……と思う。

 

「タマモのことは今は横に置いておくとして、長介さんが聞きたいのはどう決着を付ければいいのか――じゃなくて、考えている案のどれで行けば納得してくれるか、ということでいいのかな」

「は、はい。そうです! 幾つかの案はありますが、そもそも守護様が何を求められているかが分からないと決められないというか……」

「母様も勢いに任せてフジワラの当主のところへ行っただけですものねえ。でも、そんなに難しく考える必要はないわよ」

「……と、仰いますと?」

「母様が望んでいるのは、今回の件の正確な状況を知ることと関わった者たちへの処分よ。そこを考えればどう動けばいいのか見えて来るのではない?」

「それは確かに、有難いお言葉です。ですが……直接関わっているわけではない才家の当主をどうしたものかと悩んでおりまして……」

「ああ~。任命責任関係か。あれが関わってくると色々と面倒だからなあ。かといって、無視すると今後に関わって来るだろうし」

「はい。まず断言できるのは当主自体はこの件には関わっていないことは確かです。それはキラ殿もご存じのはず」


 確かに数日前に会った時にはそんなことを言っていたけれど、それが正しいときちんと裏もとれているそうだ。

 ただしその与一が直接任命した部下が報告を怠っていたことは確かで、ばっちり任命責任があることも併せて分かっていることがさらにややこしくしている。

 いや。正確には与一へ任命責任を問うのは確かとして、さらにその先にある『才家全体への責任』をどうすべきかが悩みどころだと長介ははっきりと告げて来た。

 この辺りは全てが個人で完結していた日本ではなかった考え方であるが、個人よりも『家』が重視されるヒノモトでは完全に無視することは出来ない。

 だからこそ長介も頭を悩ませて、わざわざここまで相談に来ているのだ。

 

「――はっきりいえば、それはそっちで勝手に決めてくれていいと思うわよ? さっきも言ったけれど、母様の望みは今回の件の関係者への処分ですからね」

「あ~、うん。俺もそう思うわ。どっちかといえば、家云々は統治方法の問題だよね? タマモがそんなことまで口を出すとは思えないな」

「……極端なことを言えば、才家与一への罰は任命責任に関することだけでいいということですか」

「極端というか、はっきりそう言っているね。才家全体への処分はそちらの問題だってね」


 改めてそう断言すると、長介は幾分か安心できたのか、そっと小さく息を吐いていた。

 タマモが関係者の処分だけを望むのであれば、あとは自分たちの匙加減だけで済むと考えたのだろう。

 

 とにかくこれで今回の件での関係者の処分はほぼ決まったと言える。

 宙に浮いていたギルドマスターへの処分も実行されることになるはずだ。

 最後にそのことを長介に確認したところで、一応今回の騒動は一応の決着ということになった。




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m(__)m

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