(9)当主の認識

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 < Side:キラ >

 

 それぞれの場所へ報告が終わってから一週間が経っていた。

 その間は特に変わったことをするわけでもなく、適当に依頼を熟したりしている。

 ただし何事もなかったかのように過ごせていたのは一般庶民の自分たちだけで、ミヤコにいるお偉いさんたちのお間ではかなりの騒動が起こっているようだった。

 まずはギルドだが、例の話を兵家にしてから三日目には事情聴取という形で兵の詰め所に連れて行かれることになったらしい。

 もっともその時は本当に話を聞くだけで終わったのか、何事もなく戻ってきたそうだ。

 兵家側もあくまで話を聞くだけというスタンスを通していたので、ある意味ではいつもの確認作業の一環だとその時は思われていたらしい。

 

 そこからさらに日が進むと、ギルドマスターに逮捕の容疑がかけられることになった。

 実際には逮捕そのものは行われず、常に衛兵の監視が付けられて行動するという限定的な処置になっていた。

 これはギルドマスターがいきなりいなくなることによる混乱を避けるための措置であると説明がなされた。

 さらに次が決まるまでに何故ギルドマスターが逮捕されるまでに至ったかの周知期間ともなっている。

 意味もなくギルドマスターが逮捕されたともなれば、所属しているギルド員が何らかのアクションを起こす可能性もあるためそれを避けるためでもあるのだろう。

 その甲斐もあってか、今のところ冒険者たちが不穏な動きをするようなことにはなっていない。

 

 お互いに牽制でもしあっているのか、才家が絡んでいるだけに慎重に動いているのかは分からないが、少なくとも表向きにはそこまで急激に事が動いているようには見えない。

 余りのんびりやっているとタマモが本格的に出張って来ることになるのではないかと考えていたら、才家の当主がわざわざ拠点までやってきた。

 一応こちらに配慮はしているのか才家の当主であることは分からないようにしていたが、それでも目立つのには変わりがない。

 使った馬車も一目で才家のものだとは分からないようにしていたことから、辛うじて及第点と言ったところだろうか。

 

 向かい合った席に座った才家与一は、以前とは違って多少余裕を失っているように見えた。

「――どういうことか、伺ってもよろしいでしょうか」

「さて? いきなりそんなことを言われても、何のことか分からないんですが?」

「分からないということはあり得ないでしょう? あなたが会われたからこそ、あの方が直接動く事態にまでなっているのですから」

「あの方というのがはタマモのことだと思いますが、彼女が動いたからどうしたのですか? 必要があったからこそ、そうなっているのではありませんか?」

 与一が何を言いたいのか、あるいは聞きたいのか分からずに本気で首を傾げてしまった。

 まさかこの後に及んで、十年以上にわたって魔物の巣を放置していたことを問題視していないはずがない、と思う。

 

 ――と、そんなことを考えていたのだけれど、目の前にいる才家当主は苛立ちを隠さずにさらにこんなことを言ってきた。

「何を言っているんだ。ありもしない問題を上げて、あの方を動かしているのはそちらだろう!」

「えっ!? どういうことですか? いくらなんでも魔物の巣を放置したことが問題にならないはずがないでしょう?」

「……魔物の巣ですと? どういうことでしょうか?」

「いや、ちょっと待ってください。もしかして、当主のあなたのところまで何が問題かという話が来ていないのですか? そうだすると、いくらなんでもひどすぎると思うですが……」

 嫌な予感を覚えて恐る恐るそう聞いてみたのだけれど、実際にその予想は当たってしまったらしい。

 

 それからできる限りこちらで把握していることを与一に話をすると、一部の者たちによって都合の良い話しか上がっていなかったことがわかった。

 本来であれば兵家から直接話を聞ける場合もあったのだけれど、今回に限ってはどこまで関与があったのか確認ができなかったために与一に話をすることはなかった。

 結果として今回のことに関しては『裸の王様』的な立ち位置になってしまったというわけだ。

 

「――兵家の人ももう少し話をすればよかったのにと思わなくはないけれど……立場的に難しかったのでしょうねえ。最終的には兵家の長介さんだったり藤原家なりが動くつもりだったのでしょうが、今はそこまでは踏み込めなかったと」

「…………我が家の問題を押し付ける形になって、申し訳ないとしか言いようがありませぬ」

「話を聞いた限りでは、かなり根深いところにまで問題がありそうですが……大丈夫ですか?」

「はっきり申し上げますと、全く大丈夫ではありません。ですが猶予もあまりないということは分かりました。――これからお館様と話をしてみます」

「それしかないでしょうねえ。かなり苦しい立場になるでしょうし」

「仕方ありませぬな。このままだと家自体が無くなってしまうかもしれませぬ。それだけは何としても避けねば。話をしていただいたこと、お礼を申し上げます」

 そう言って頭を下げた時の与一の目は、完全に覚悟を決めたものになっていた。

 

 政治の上の方に立っていれば『知らなかった』では済まないことはいくらでもある。

 今回もまさしくそれにあたると言える。

 だからこその覚悟であるのだろうが、変な方向にあがこうとせずに問題を問題として受け入れたのはさすがと言ってもいいと思う。

 タマモが動いている以上おかしな政略は通じないという考えもあるとは思うけれど、その判断ができるのも為政者としてお資質の一つだろう。

 当然のように家の存続に向けて動こうとするだろうが、最終的にどう決着をつけるかはこちらが口を挟むようなことではない。

 

 これでヒノモトの政治を担っていた家の一つだと、少なくともお手向きには考えられていたのだから一つは二つは嫌味も言いたくなったけれどそれは控えておいた。

 ここで言っても仕方のないことだし、今後も政治の中枢に同じような立場で居続けられるかも分からない。

 ややこしいことにヒノモトの場合、藤原家と将軍を支えている家臣団としての立場があるのでどちらか一方の立場として裁かれることになる可能性もある。

 そうした色々な駆け引きを行ったうえで、今回の才家にどういう裁きが下されるかが決定するはずだ。

 

「――あなたはこれからどうされるのですか?」

「どう、とは? 私個人としては、特に何かするつもりはありませんよ? ユグホウラとしては狩場の一つが被っただけなので、面倒を避けて別のところを使うようにするだけでしょう」

「今まで通り狩場として使い続けるつもりはない、と?」

「あそこだけにしかない特別な理由があるなら別でしょうが、幸いにしていくらでも替えが効く場所なのでこだわる必要は全くないようですからね」


 もしかすると現状維持ができるかもしれないと期待しての問いだったのだろうが、その希望はきっぱりと断ち切っておいた。

 このままユグホウラに期待され続けるのも間違っているし、何よりも人族の都合に合わせて動いてくれると勘違いされるのも駄目だろう。

 もしこれがシーオ辺りならまだ交渉してくる可能性もあったのだけれど、さすがと言うべきか才家の当主はこれ以上ユグホウラが関与してくることないと判断したようだった。

 ヒノモトではシーオと比べてユグホウラとの距離が近い分、きっちりと聞き際も心得ていると思うべきか。

 その割には今回の問題が判明する以前の対応は何だったのかと聞きたいところではあるけれど。

 とにかく才家の当主が問題をはっきり認識した以上は、これまでよりも早く話が進むことになるのは間違いないだろう。




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m(__)m

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