(7)各所への報告

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『――ほう。ミヤコがそんなことになっておるとはの。我にはそんな報告は一切入っていないの』

 こん後の方針を決めてすぐにタマモに通信具を使って連絡をすると、そんな答えが返ってきた。

「それは仕方ないんじゃないかな? 眷属たちも気付いていなかったみたいだから、そもそも知り様がないと思うよ」

『そうではない。仮にも将軍が住まう町で、魔物の巣が放置されておること自体が問題ではないかの?』

「あ~。それは確かに。当事者たちはタマモに知らせるまでもないと思ったとか言いそうだけれど」

『であろうな。だが、まだそちらでは町の詳しい事情は調べていないのだな?』

「そうだね。それをする前にタマモに知らせようと思ったからね」

『それは、助かる。この件、我の預かりにしてもらっても構わないかの?』

「それは任せるよ。ただ、出来ればいきなり一刀両断にするというのはなしにしてほしいかな?」

『ふむ。一応理由を聞いても?』

「いきなり大きな変化を起こすとそれに巻き込まれる民たちが可哀そうだから。あと、こっちの調査開始が遅れるのも困るかな」

『ククク。本音が漏れておるぞ? とにかくわかった。状況次第ではあるが、なるべくそなたの意見も聞き入れるようにしよう』

「それはよかった」


 一応タマモからの確約を貰えたので、ミヤコがいきなり政治的に不安定になるという自体は抑えられた……と思う。

 タマモ自身が動く気満々だったのは言葉だけを聞いていても分かったので、下手をすれば将軍が吹き飛ぶくらいの事態にもなりかねない。

 何を大げさなと言われそうだが、タマモからの言葉の雰囲気を感じる限りでは決して大げさだとは思わない。

 こちらから釘を刺したことで恐らく足利家なりを間に挟むことになる……とは思うけれど、実際は自体が動いてみないと分からない。

 

 そもそも根本的に何故タマモが怒っているかというと、国内で発生している魔物の動きについては把握するという契約のようなものがあるためだ。

 勿論、ヒノモト全ての魔物の動きを把握することなど不可能なのだけれど、特に氾濫が起きそうな場合には必ず報告することになっているそうだ。

 今回はそれを完全に無視している形になるので、怒りという感情をいだいているというわけだ。

 もっとも魔物の氾濫が起こる、起こらないは完全に推測することなどできないのだが、それでも兆候があるだけで一応報告は受けるようになっているとのことだ。

 

「とにかくまだ原因がよくわかっていないから、そこを調べてからということになるからね」

『原因はミヤコの連中が巣を無視しているところにあるのではないか?』

「それはそうなんだけれどね。そもそも何故無視するようになったのかを調べないと駄目だと思うよ? 今後のためにも」

『なるほど。言いたいことは分かったが、やはり人族は手間よの。我らのようなものであれば、巣は無視するな、報告をしろの一言で済むのだが』

「そこは寿命の差もあると思うよ。当事者に伝えても代が変わったらそのこと自体無かったことになるし。やっぱり何らかの処分を下して記録を残しておかないと」

『やれやれ。やはり面倒だの』

「まあ、だからこそそこは足利家なりに任せてしまったほうがいいってこと」

『確かにそうだの』

 どうにか話の流れでタマモ(の眷属)が単独で乗り込んで行く、なんて事態にはならなくなりそうでホッと安心した。

 

 あとはタマモから報告を受けた足利家か兵家がどう対応するかで変わって来るだろう。

 ただしそれでも事態をもみ消そうとする可能性を考えて、どういう流れでギルドが魔物を巣を無視するに至ったのかを独自に調査するつもりではある。

 ただどこかでよく聞いたような忖度が働いていたすれば、記録に残るようなものではないので眷属たちの調査もあまり期待はできない。

 強引に口を割らせる方法をとれば知ることは出来るだろうが、さすがに今のところそんな手段を取るつもりはない。

 

 タマモとの話を終えたあとは、転移装置を経由してその足でマキムクの兵家へと向かった。

 今回は緊急事態ということを伝えるために眷属を使って連絡していたので、門のところで合言葉もどきを伝えただけですんなりと入ることができた。

 ほとんと初めての方法で連絡を取っただけにきちんと話が通じているか心配だったのだが、そこはやはり武を担当している家だけあって柔軟に対応してくれたようだ。

 そして案内された当主である長介が来たのも、俺たちが部屋に入ってから十分後くらいのことだった。

 

「――さて。珍しい方が始めているような方法で連絡を取ってきたので慌てて駆け付けましたが、何事がございましたか? たしか今はミヤコに滞在中だと思いましたが」

「そのミヤコでちょっと問題がありましてね。一応言っておくと、ここに来る直前にタマモにも話をしていますのでご了承ください」

 タマモの名前を出すと、長介は眉を顰めて大きくため息を吐いた。

「できれば聞きたくはない……と言いたいところですが、そういうわけにもいかないのでしょうなあ……。どんな問題が起こりましたか?」


 冗談交じりに言われた言葉を聞くと、長介も大分慣れて来たのだと実感できた。

 それに変に畏まられるよりも、こちらのほうが好みなので問題ない。これで調子に乗るような相手だと釘をさすところだが、長介は大丈夫だろうという安心感もある。

 それはともかく、真面目な顔になって聞いていた長介に先ほどタマモに話してきた内容をそっくりそのまま話した。

 その話が進むごとに長介の顔がより険しくなっていったが、一々気にしていては話が進まないので気にせず最後まで話をした。

 

「――つまりはもしかすると氾濫を起こしそうな巣を放置したままであると。そういうわけですな?」

「そうなるかな? 何がどうなってそんな結論を出したのかまでは調べていないけれど――」

「それはこちらで然りと調べます。それからタマモ様へのご連絡もありがとうございました。某どもがするとどうなっていたか……」

「あ~……。お礼は別にいいかな。一応ユグホウラこっちも関わっていることだからね。タマモは今にも飛び出しそうだったから、すぐにでも足利の当主に連絡したほうがいいと思うよ」

「そうさせえてもらいます。――しばらくはこちらに任せてもらえるということで、よろしいですかな?」

「こっちは構わないけれど、タマモがどこまで我慢できるかは保証できないよ?」

「……その問題がありましたか。いずれにしても何かございましたらご連絡ください。この後はミヤコに戻られるのでしょうか」

「そうだね。図書寮の調査は出来ないから、適当に魔物を狩ることになると思うけれど」

「その問題もございましたな。――とにかく数日中にはひとまずの結果を出しますので、それまでお待ちください」


 非常に簡単ではあったが、長介との話し合いはそれだけで終わった。

 長介は今すぐにでも飛び出して足利当主に話を通したいといった表情を見せていたので、敢えて短く終わらせている。

 その意図が通じたのかは分からないけれど、話を終えてすぐにミヤコに戻る様子を見せるとすぐに長介も同意してくれた。

 兵家の屋敷には全部合わせても一時間もいなかったのだが、必要な要件はきちんと伝えられたので問題はないはず。

 

 今回はあくまでも直接手を出すことはないはずなので、あとは結果を待つだけでいい。

 タマモに知らせた時点で結果は変わらないとは思うけれど、政治的にどう決着するのかは興味深いといったところだろうか。

 この騒ぎに才家がどこまで関わっているかは分からないが、決して無傷のままというわけにはいかない……と思う。




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m(__)m

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