(6)巣の状況

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 ミヤコの畑を襲って来るラットがいる巣を詳しく調査することにしたのはいいが、まずはユグホウラで何か掴んでいないかを確認することにした。

 ミヤコはユグホウラができる前からヒノモトの中心だったこともあって、人口が多くいる。

 その関係上、近くに精霊樹を置いて町の様子を見ながら周辺の魔物の『調整』を行っていた。

 ただし魔物の『調整』とはいっても人族に対して楽になるように魔物を狩っているわけではなく、ユグホウラの領域内で不用意に魔物が発生しないようにしているというべきか。

 もしかするとその関係であの巣が調整の対象になっている可能性があると、アンネリたちと話をした後に護衛役についていたシルクが教えてくれた。

 言われた俺も確かにその可能性はあると考えて、すぐに確認をして見るように指示を出した。

 すると案の定、あの巣は近くにある精霊樹を管理している眷属(狼)が、若い世代の訓練のために敢えて放置してある場所だということが判明した。

 ユグホウラの眷属といえども魔物を狩る訓練は必要なわけで、数の調整がしやすいラットの巣はちょうどいい訓練場として活用しているというわけだ。

 

 調査というほどの時間をかけずに戻ってきたシルクから話を聞いて、思わず納得して頷いてしまった。

「――なるほどね。ミヤコの冒険者ギルドもただの感覚だけで放っておいたのかと思ったけれど、ちゃんとした理由があったわけだ。……一応確認だけれど、狩場にしていることは伝えているんだよね?」

「いえ、それはありませんわ。眷属たちが利用しているのは、主様が発見された入口とは別の場所にあるものです。町の近くに出口があるというのは今回のことで初めて知ったようです」

「……ああ~、つまりはお互いにお互いのことは知らない状況で利用しているということになっていたということかな?

「そうなります。氾濫が起こらないように調整もしていたようですので、ミヤコの町にとっては結果的に助かっていたということになりますわ」

「なるほどね。それなら納得だ。というか、どれくらい前から続けているの?」

「さすがに百年は経っていないようですが、四、五十年ほどは今の状態が続いているようですわ」

「それは、また。さすがラット種というべきか、よくそこまで巣が長続きするもんだね。……さて、どうしたもんだか」

 あの巣がユグホウラの眷属たちによって『調整』されていることは分かったけれど、今後のことはきちんと考えておかなければならないと思う。

 

 今回はラットが巣を作った場所にたまたま二か所(以上?)の穴が開いていて、片方をユグホウラが管理していた。

 だからこそ氾濫が起こることもなく、町側は平穏無事に過ごすことができていたわけだ。

 もしユグホウラ側の穴が無かった場合、一つの穴から魔物があふれ出ていたことは想像に難くない。

 そうなったときには長く続いていたミヤコの町が壊滅状態になっていたとしてもおかしくはなかっただろう。

 

 ただしミヤコの冒険者ギルドや才家にも言い分はあるだろうと思う。

 そもそもきちんと調査したうえで放置しても問題ないと結論を出したのは、ある意味では間違いではないからだ。

 下手に巣を突いて多くの犠牲を出すよりは、今の状態を保ったままで巣から出て来る魔物だけを狩っていればいいという方針も合理的ではある。

 問題なのは、ユグホウラが調整用に使っていた巣であることを知らずに、他でも同じようなことがあり得ると考える可能性があることだろう。

 

「――となるとミヤコ側があの巣にユグホウラの関与があると把握しているかどうかだけれど……その辺りはどうかな?」

「特に報告にはありませんでした。ただミヤコの人間に限らずなるべく見つからないように活動をしているとは思いますわ」

「そうだろうね。きちんとその辺りのことも確認しておくことにしておいて、あとはどうするかかな」

「ちょっと不思議なのだけれど、調査のためとはいえ人族が巣に入っていることはあると思うのよ。それなのに、ユグホウラの眷属たちに気付かないなんてことはあるの?」

 少し悩む様子を見せた俺の言葉の隙間を縫って、一緒に話を聞いていたアンネリがそんな疑問を口にした。

「あの巣は、そもそもの洞窟自体の大きさがかなりあるようですわ。それこそ人の足で歩くと半日はかかるくらいに。だからこそ眷属たちもミヤコ側に入口があると気付けなかったのですわ」

「なるほど、そういうことね。ユグホウラでも洞窟そのものは調査の対象にはなっていなかったというわけね」

「そうですわね。あの場所がラットにとって住み心地が良い場所という認識くらいしかなかったようです。有用な資源も見当たら無かったようですし」

「それはきちんとした調査がされなくても仕方ないわね。眷属たちにとっては容易に倒せる相手でしょうから」


 シルクに疑問を投げて納得できたのか、アンネリは何度か大きく頷いていた。

 今回の件でも理解できただろうが、ユグホウラの眷属の強さと人族の強さには明確過ぎるほどの差がある。

 ラットとはいえ人族にとっては氾濫が起こると大問題になるのだが、眷属たちにとってはたとえ氾濫が起こったとしても簡単に『処理』ができるはずだ。

 世代でいえばもしかするとシルクよりも一つ下の第二世代どころか第三世代が複数出て来るだけで対処ができるだろう。

 またそれができるからこそ、眷属たちはあの巣を『調整用』として残しているのだと思う。

 

 そんなことを考えているとふと疑問が沸いて来たので、それをシルクに聞くことにした。

「一応確認するけれど、氾濫したとき用の要員は用意してあるんだよね?」

「勿論ですわ。ただこちらは転移装置が使えるので、距離はあってないようなものですが」

「それもあったか。確かに転移装置を使えばどこでも対処可能と言えるか。現地にいる皆は足止めが出来れば十分だろうしね」

 一周目だった時に当たり前のように行われていたことは、今でもきちんと受け継がれているようで安心した。

 

 それと同時に、だからこそミヤコの冒険者ギルドの対応のひどさが際立って見えて来た。

「――シルク、もしあの巣を潰すことになっても問題ないかな?」

「大丈夫でしょう。この町の近辺ではありませんが、他にも調整用の巣は幾つか確保しているようですから」

「わかった。それじゃあ済まないけれど、あの巣はこっちで預かるってことにしてもいいかな?」

「全く問題ございません。むしろ残された洞窟がどうなるかのほうが気になりますわ」

「いざとなったら町側の穴をふさぐから精霊樹側に問題が発生することはないと思うよ。ミヤコ側もわざわざユグホウラの眷属と問題を起こそうなんてことは考えない……と思う」

 さすがにこの問題を機にユグホウラとの協力関係の破棄をヒノモトが選ぶとは思えない……のだけれど、最悪を想定すれば絶対に無いとも言い切れない。

 

 既にその筋が見えているだけに、ヒノモトの『顔』ともいえるタマモを蚊帳の外に置いてくわけには行かなくなっている。

 ミヤコ側とやり取りを始める前に知らせるつもりでいるけれど、タマモが動くとなるとかなりの大事になることが確定している。

 そうなって来ると本来の目的だった図書寮の件が面倒ごとになりそうな気もしてくる。

 とはいえ既に面倒ごとにはなっているので、この際だから一緒に解決してしまおうかという気になってきた。

 

 いずれにしても問題の大筋が見えて来たことで、関係各所への連絡は必須になった。

 これでまた兵家や足利家が頭を悩ますことになるのだろうが、放置するわけにもので為政者としての責任を果たしてもらうことになるだろう。




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m(__)m

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