(5)ギルドの対応

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 今回の討伐対象になっていたラットは、体長が五十センチを超える大型のネズミだ。

 ただし大型といってもこの世界にはさらに大きなネズミ種がいるうえに固体の強さもそこそこといったところなので、そこまで脅威というわけではない。

 とはいえネズミ種らしく数が増えやすいという点でみれば、間違いなく脅威の一つとなることは間違いない。

 そして今回見つけたネズミ種の巣には、百以上のラットを確認することができた。

 今いるメンバーであれば倒せないことはない数ではあるが、人知れず倒してしまうと色々と問題が起こるので発見した段階で巣を潰すということはしなかった。

 依頼主には巣を見つけたことだけ報告して、あとはギルドにお任せするということで納得してもらった。

 ここでギルドに報告せずに巣を潰したとしても、依頼主がギルドに依頼するほどになっていたという『違和感』が無視されることになってしまう。

 それならきちんとギルドに把握してもらったうえで、今後の対応のための材料としてもらった方がいい。

 

 枝根動可を使っての探知の良いところは、洞窟などの変則的な空間も調べることができることだ。

 その探知を駆使して調べた結果、ラットが巣にしている場所はかなりの大きさになっていて百体以上の個体がいることがわかった。

 この時点で自分たちだけで処理することはやめて、一度ギルドに戻ろうということにした。

 依頼のあった畑からラットの巣まではそこそこの距離はあったが、それでもミヤコ近くにこれほどの巣が出来うると知るべきだと思う。

 

 というわけで依頼人のサインの入った依頼書を持ってギルドへ。

 そこで依頼書を提出すると同時に、ラットが百以上いる巣を発見したことを報告した。

 最初は事務的に対応していた受付嬢だったけれど、話を聞いていくうちに話を進めると次第にその顔色を青くしていった。

 そして最終的には今すぐにでも対処すべきと判断したのか、俺たちをその場に留め置いて上司がいると思われる部屋へと入って行った。

 

 それから五分と経たずに奥に続く部屋から受付嬢が身体が厳つい人物を伴って戻ってきた。

 明らかに元冒険者という風貌をしたその男性は、カウンターに近寄るなりチラリとこちらを見て来た。

「お前さん方が、ラットの巣を発見したのか?」

「ええ、そうですが?」

「済まないが、詳しく話を聞きたい。別の部屋に移動してもらっても構わないか?」

「それは勿論。ですが、この人数で行くのもなんですから絞ってもいいでしょうか」

「ああ、構わない。むしろそっちの方が有難いな」

 短く話をまとめたところで、残るメンバー以外には拠点に戻ってもらった。

 話し合いの場に残ったのは、俺とアンネリとアイリ、そしてハロルドだ。

 

 案内された応接室のような部屋で、発見したラットの巣のことをミヤコの冒険者ギルドマスターだと言った厳つい男に説明をした。

「――ふむ。あのあたりにラットの巣があることを発見したことは分かった。それで、何がいいたい?」

「……は? 魔物の巣が見つかれば冒険者ギルドに報告をするのは、冒険者としての義務……とまではいかないまでも当然のことでは?」

「そうか、わかった。発見報告、お疲れさま」

「……それだけですか?」

「なんだ。やはり懸賞金狙いの小銭稼ぎか」

「……どういうことでしょう?」

「なに。あの場所の巣は、もう何年も前から発見されていてな。特に外から来た奴らにとっては小遣い稼ぎの対称になっているんだよ。だが、今更そんな報告をされてもギルドとしては金を出せんということだ」

「いや。そういうことではないでしょう? 巣があるのに何故討伐しないのですか」

「今も言っただろう? 何年も前に発見されているにも関わらず、未だに変化がないと。才家の連中も問題ないと言っているしな。人畜無害な魔物をわざわざ狩りに行く必要はあるまい?」

「それが、ミヤコの冒険者ギルドとしての結論というわけですか」

「そうなるな」

 才家の名前が出たところで怪しいと思ったが、はっきりと結論を出したギルドマスターを見てこれ以上は話しても無駄だとわかった。

 普通であれば信じられないような対応だが、ここで押し問答をしても時間の無駄にしかならない。

 

 俺とギルドマスターの会話を聞いて他の三人が何かを言いたげにしていたが、さっさと席を立つことに決めた。

 今持っている情報だけだと、ギルドマスターの雰囲気から何があっても動かないだろうと分かる。

 それに意図的なことなのかどうかは分からないけれど、この場で才家の名前を出したことも気になる。

 本当に才家が何かしらの目的で動いているのか、あるいはギルドマスターの暴走なのかをきちんと見極めないと駄目だろう。

 ここで下手に話を進めて変にこじらせるよりもきちんと裏鳥した方がいいと判断したので、アンネリたちに目配せをしてからそのまま部屋を退出した。

 その際、ギルドマスターが何やら不思議そうな顔をしていたが、わざと気付かなかったフリをして特にこちらから何かを言うことはなかった。

 

 そしてギルドを出て防御関係がしっかりしている仮拠点についてから、それまで我慢していたのかアンネリが不満そうにこちらを見て来た。

「――何なのよ、あれは」

「いや、本当にね。今までのギルドはきっちりしていたから油断したけれど、まさかヒノモトで見ることになるとは思わなかったよ」

「……申し訳ございませんわ」

「いや、別にアイリが謝ることじゃないから」

「そうよ。あくまでも問題なのは、ここのギルド……だけじゃなさそうなところが問題よね」

 もしかすると才家が絡んできそうなことは、さすがにアンネリやアイリも気が付いているようだった。

 

「どうするの? どこか他の支部に訴える?」

「いや、それは止めておこう。そもそもあれだけの数の魔物がたまっているのに、暴発して来ないこと自体がおかしい。何か理由があるはずだからね。きちんと調査するよ」

「確かにそのとおりね」

「もしかすると才家が何かを掴んでいる可能性もあるのでしょうか?」

「それもあり得るね。何にせよきちんとした調査をしてからかな。そして、放置してもいい明確な理由がないと分かったら動こうかな。さすがにスタンピードが起こる可能性があるのに、放っておくのは目覚めが悪いからね」

「そうね。それで行きましょう」

「間引きをするとかの対策はどうされますか?」

「変に刺激したくないからね。今まで通り依頼で討伐する分だけでいいんじゃないかな」

「畑を狙ってきた分だけってことね。わかったわ」


 今の段階で冒険者ギルドや才家の対応が間違っていると決めつけて行動するのは逆に危ない可能性もある。

 ここは慎重に対応すべきだと主張したことで、アンネリやアイリも先ほどまでの怒りは消えていたようだった。

 とはいえ冒険者ギルドでのあの対応も良かったとはいいがたい。もし放置してもいい理由があるなら、きちんとそこまで話をするべきだろうと思う。

 それが無ければ、今度は別のところで魔物の大発生を発見した冒険者が勝手に判断してしまう可能性だってある。

 

 とにかく早急に結論を出すのはやめておいて、きちんとした調査をしなければならない。

 あれだけの数の魔物が溜まっているのに、暴走せずにとどまっているのは何かしらの理由があるはずだから。

 その結果いかんでは、ミヤコの冒険者ギルドをどうにかしなければならなくなってしまうだろう。

 そうなった時には、きちんとしかるべきところに頼るなりして問題の根本を解決しなければならなくなるはずだ。




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m(__)m

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