(4)ラット退治

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 遥か昔よりヒノモトの中央に存在する都市として繁栄してきたミヤコは、他の年に比べて人口が多くなっている。

 その多すぎる人口を利用して行われているのが、魔物に襲われることを前提とした『見せ農地』といわれるちょっと変わった制度である。

 魔物が跋扈しているこの世界では、農地が魔物に荒らされることなど日常茶飯事に行われている。

 それを利用して、敢えて魔物に荒らされることを前提にした農地を作っているのだ。

 早い話が農地を荒らす魔物が入って来るのを待って、襲ってきた魔物を狩ってしまうというわけだ。

 一見すると乱暴な方法にも思えるが、人口が多いことを利用して郷士のような存在を作りだしているというわけだ。

 ただし冒険者や職業軍人のように戦闘の専門家というわけではないので、対処できないほどの魔物が出て来た時には冒険者に依頼を出すこともある。

 というよりも出現した魔物を適当にさばいている間に、冒険者に依頼を出して本格的に討伐するという流れが出来上がっている。

 

 ちなみに農地となっている場所の外で魔物を狩ったりする場合もあるのだけれど、それに関してはまた別の依頼として成り立っている。

 よくあるのがどれだけ狩っても尽きることが無い常設依頼や、街や街道近くで巣が発見された場合の破壊(根絶)依頼などになる。

 これらは見せ農地の農家からの依頼とは別に出されているので、分けて考えられていることがほとんどだ。

 ただし農家が複数集まって農地の外から来る魔物の調査依頼が上げられることもあるので、明確に区別されているというわけではない。

 

 ミヤコに来て初めて受けた依頼は、そんな農家からのものだった。

「――いやー、ありがてえな。そろそろ俺だけの手だと足りなくなっていたんだ!」

「それは良かったです。では、今のところはまだビッグラットが出てきているということで間違いないですか?」

「ああ! 奴らこっちがいくら狩っても湧いて出てきやがるからな。出来ることなら巣まで破壊したいところだが……さすがにそこまでの金は出せなかった」

「それは仕方ありませんね。とりあえず適度に狩ってから、余裕があれば調査をしますよ。巣の規模が分かればギルドも動きやすいでしょうから」

「そいつはありがたい! 俺の感覚だと大きくなっていると思うんだが、いかんせんこの目で確かめたわけじゃないからなあ……」

「ギルドが出す巣の破壊依頼は、ある程度の規模にならないと出ませんからね」

 魔物の巣に関しては、基本的には国や貴族(ヒノモトだと御家)から出ることになるが、予算の関係上、巣の規模によって線引きがされている。

 何でもかんでも討伐(破壊)依頼を出していると、いくらあってもお金が足りないという状況になってしまう。

 

 今回の依頼はあくまでも畑に出て来る魔物を間引きするということなので、そちらに専念することになった。

 本来ならそれを越える範囲の仕事をしては駄目なのだが、状況によっては巣を探すことをしたいと考えている。

 もしかするとギルドが気付いていないところでラットが大繁殖などしていると、後々面倒なことになる。

 もし才家との交渉が上手くいけば長期滞在することになるので、魔物ラットの氾濫騒ぎになることは出来る限り抑えておきたいところだ。

 

 依頼主との会話を終えてから案内された畑の端っこにまで行き、話で聞いたラットが出て来る方角を確認しながらオトを見た。

「オト、分かるかな?」

「が、頑張ります!」

「いやいや、そんなに固くなっていたら成功するものも失敗するよ? いつも通りでいいから」

「そうよ。いつものあなたならラットの巣くらい簡単に見つけることができているわよ」

 俺がいるせいか緊張しているオトに、アンネリが安心させるように微笑みながらそう話しかけた。

 それを聞いて一度大きく深呼吸したオトだったが、何とか落ち着くことができたのかそれ以降は特に緊張のようなものは見られなかった。

 

 それからしばらくしてオトから魔力が伸びるのを感じた。

 正確にいえば枝根動可の応用で、枝や根を発言することなく魔力のみをのばして周辺の様子を探ることに特化した探知魔法の一種になる。

 使い手の影響を受けてなのか、素直に伸びていく魔力は幾つかに別れて四方八方にその探知範囲を広げていった。

 探知魔法は幾つかあるけれど、枝根動可を使ったこの方法では魔力の枝が伸びた範囲に魔物が触れると感知するようになっている。

 ドーム型やレーダー型のように全ての方角を網羅することができる他の探知魔法とは違って魔力の枝を伸ばしているところでしか探知ができないが、その分遠距離や地下の探知ができたりとメリットもある。

 ちなみにオトは全方位型の探知魔法も使うことができるはずなので、今回は敢えてそちらを使ったということだろう。

 

 そんなことを考えている間に、オトが指示を出した。

「あちらの方向に三、さらに少し左側に二」

 手で方向を指し示しながらそう言うと、今度はクファが待ってましたとばかりに飛び出す――ようなことはせずに、何かの魔法を唱え始めた。

 そして目標がある程度まで近づいたところで、その魔法を発動していた。

 

「――うーん。それぞれ一撃か。わかってはいたけれど、俺たちはいらなかったかな?」

「これだけならね。でも本当の目的は別でしょう?」

「まあね。オトもそれがわかっているからこそ、探知はまだ止めていないみたいだしね。関心感心」

「これくらいのことはね。ダンジョン内で散々失敗してきているから、嫌でも覚えるわよ」


 やはり経験に勝るものはないというべきか、オトもクファも色々と失敗を繰り返してここまで来ているようだ。

 別に天才型を否定するわけではないけれど、そうやって色々と経験を積み重ねて強くなっていくのはより当人にとって望ましいと俺自身は考えている。

 そんな孤児的な思いを余所に、オトとクファは何の問題も見せずに次々と襲って来るラットを打ち破っていた。

 既にその数は十を超えていて、とても成人前の子供二人組が打ち倒せるような数ではなくなっている。

 

 それでもやはり漏れはあるようで、時々クファの魔法を乗り越えてやってくるラットはダークエルフ組が処理している。

 その数が十五を超えたところで、ようやくオトの探知に引っかかるラットの数が落ち着いてきた。

 ただし今回はそこで終わりというわけではなく、さらに続きがある。


「オト、どんな感じかな?」

「……すみません。ちょっと分からないです。ラットたちが来た方角を調べてみたのですが、いつもと違いが無いみたいで……」

「そっか。それじゃあ、その辺りが今のオトの探知範囲の限界ってところかな。自分がどこまで探知できるか知っておくのも大切だからきちんと把握しておくようにね」

「あら。それじゃあ、キラはもう見つけているの?」

「そういうことだね。あのあたりに見える森の中に入ってもう少し行った先に、地下に入る入口みたいなのがあるよ。付け加えるとダンジョンではないみたいだね」


 ラットたちが来ていた方角とはまた違った方角に巣らしきものを見つけたので、それをきちんと示しておいた。

 オトも魔力操作がもっとうまく使えるようになればこれくらいは探知できるようになるのだけれど、まだまだその範囲は及ばない。

 それが理解できたのか少しだけがっかりした様子を見せていたけれど、すぐに顔を輝かせながらこちらを見て来た。

 素直に尊敬の念を見せてくれるのは嬉しいところだけれど、オトならもっと先を目指せると思うのであとで攻めて来たラットをきちんと処理できたことを褒めつつ、もう少し他の指導もしようかなんてことを考えるのであった。




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※今後の更新についてです。

実は私事ではございますが、半月ほど病院送りになってしまいました。

そのためここから先は、四日ごとの更新にさせていただきます。

それでしばらく様子を見つつ、もとのペースに戻していけたらとかんがえております。

楽しみにしてくださってる皆様には申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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