(3)一回目の話し合いと今後の予定

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 足利当主からの手紙を見て顔色を失った才家与一は、最後まで読み終わってから気を落ち着かせるためか一度大きくため息をついていた。

「――殿からの書状を確認させていただきました。それによると貴方には返しきれないほどの恩があるので、図書蔵にある蔵書は全て見せるようにと」

「そうでしたか。それは有難いですね」

「おや。内容はご存じなかったのでしょうか?」

「勿論です。兵家のご当主から一筆書いてもらう旨は聞いていましたが、中身までは関与していませんよ」

「……そうですか。ですが、現在の図書蔵はアシカガ家ではなく将軍の治世の元に管理されております。殿のお言葉は管理者にお伝えしますが、それだけですと……」

「ああ、先に言っておきますが、ここで交渉するつもりはありませんから。恐らくシーオのノスフィンでのやり取りを耳にされているのかもしれませんが、同じような対応をするつもりはありませんよ」

 何故ノスフィンとヒノモトで対応が違うのかといわれるかもしれないが、ユグホウラの恩恵を最大限に受けているヒノモトだと対応が変わって来るのは当たり前だと考えている。

 タマモの存在が大きいというのももちろんあるのだけれど、今現在少なくとも元の世界で東アジアと称されていた地域でヒノモトが優位を保っていられるのは間違いなくユグホウラの存在があるからだ。

 こういう時くらいはその影響力を存分に使ってやるという気持ちは持っている。

 

 ……というのは半分冗談で、実はノスフィンの時のようにしっかりと謝礼もどきは払っている。

 ただしその支払い相手が才家ではなく、足利家になっているということだろうか。

 足利家か兵家からの手紙にそのことが書かれているかと考えていたのだけれど、どうやら敢えて書かなかったらしい。

 今目の前にいる才家当主の顔色を見れば、その理由も何となく透けて見えて来る。

 ただこれからどうすべきかは足利家と兵家のどちらからも聞いていないので、好きにしてくれていいのだと理解している。

 

 そんな裏事情(?)を知っているのかいないのか、才家与一は厳しい視線をこちらに向けて来た。

「ならばこちらから言えることはこれ以上はありませぬ。一応将軍には話を通してみますが、許可されるとは思わない方がよろしいかと存じます」

「そうですか。それならそれで別の場所に向かえばいいだけなので、こちらとしては別に構いませんよ。――それにしてももったいないことですね」

「はて……? 勿体ないとはどういうことでしょう?」

「いえ。これはノスフィンでもそうだったのですが、私は別にここで知りえた情報を隠すつもりはありません。折角新しい情報が手に入るかも知れないのをミスミス逃すことになるとは……」

「ハハハ。それは我々才家の分析が足りないと仰っているのと同義になるのですが、理解しておられますか?」

「ご自身と家の能力を信じるのは良いのですが、過剰になり過ぎては足元をすくわれることになりますよ。現に私はノスフィンでそれなりの実績を上げることができたと自負しています。まあ、ここでそれを言っても意味はないですか」

 プレイヤーというこちらの世界の住人ではあり得ない立場だからこそできる解釈があるのであまり褒められたものではないのだけれど、出し惜しみをするつもりはないのでしっかりと利用させてもらう。

 だらこそそれによって得られた知識は、開示してもいいと思った部分は開示してきたのだけれどそれを才家与一に理解してもらえるかは今のところ不透明だ。

 

 目の間にいる才家与一を見る限りでは今の態度を変えるつもりはないようなので、これ以上この場で話を続けても意味はないだろう。

 そもそも全員を連れ立ってきたことからも分かる通り、今日はあくまでも顔見世のつもりで来ていた。

 本格的に話を進めることになるのは次回以降だと考えてきているので、さっさとこの場を切り上げることにした。

 

「――とりあえず今日はこれで引き揚げさせていただきます。お返事は用意した拠点に頂ければ、と思います」

「どちらにしても時間がかかるかと思いますが、よろしいですかな?」

「そうでしょうね。ですが、ひと月を過ぎても答えが無い場合は予定通りにこの町を発つことにいたします」

「一月ですか……それまでに答えが出るかどうか」

「出ないなら出ないで構いませんよ。こちらは好きに町を発つだけですので」


 図書蔵への立ち入り許可を貰うだけでどれだけ時間がかかるのかと言いたいところだが、あちらも交渉のつもりで言ってきているのは分かっているのでそれについて文句をつけるつもりはない。

 ここでそんなやり取りを繰り返したところで、意味がないことは分かり切っているからだ。

 それに才家与一が気付いているかどうかは分からないが、別にこれだけであとは待つのみということになるわけではない。

 用意した拠点に落ち着いた時点で、今回のやり取りの内容を兵家当主にも伝えることになっている。

 その兵家当主から足利当主に情報が行った時にどういうことになるのか、それからのことはこちらが関与するところではない。

 もっともその前に才家与一が動く可能性は十分にあるのだけれど。

 

 とにかくこれで一度目の話し合いは終わりということで、揃って部屋から出ていった。

 その際に止められたりすることがあるかもと予想はしていたけれど、結果的には何事も起こらずに屋敷から出ることができた。

 部屋を出る際にチラリと才家与一の顔を確認してみたけれど、少なくとも表向きには何の色も映していなかった。

 内心では色々と考えていたとは思うが、さすがに表にそれを出すような人物ではないということだろう。

 

 才家の屋敷を出た後は先に用意した拠点に戻って、それぞれの席に落ち着いた。

「それで? これからはやっぱり予定通り?」

「そうだね。この後少しだけ通信で話はするからもしかしたら変わるかも知れないけれど、とりあえずは移動中に話した通り冒険者として活動するよ」

「そう。キラがまともに冒険者するのも久しぶりじゃない?」

「そうだね。一応魔法の訓練は続けて来たけれど、実戦という意味では久しぶりだからね。色々と鈍っていないか確認しないと」

 そんなことを言いながらも実は子供(弟子)たちに見限られないように、裏ではきちんとこまめに実戦はこなしている。

 ただし眷属たちが用意した魔物を適当に狩るだけだったので、本当の意味で冒険者の活動をしていたとは言えない。

 

 そんな裏話は横に置いておくとして、これからしばらくはミヤコ周辺で冒険者活動をすることになる。

 ただしさすがに将軍がいる町周辺ということもあって、武官によって適度な間引きもされているのであまり強い魔物というのは出現しない。

 どちらかといえば食糧事情を維持するための農地などの周りに出て来る魔物を狩ることが主な仕事になってくる。

 ミヤコいる冒険者というのは、ほとんどが他の周辺都市からの荷物の移動に着いてきた護衛だったりする。

 その逆パターンもないわけではないが、ミヤコに入って来る荷物に比べれば圧倒的に少なくなるのが出ていく荷物ということになる。

 ミヤコの周辺にはダンジョンもないので、討伐依頼がメインになることはないだろうとさえ言われているくらいだ。

 

 俺が予定通りに冒険者活動に勤しむと宣言すると、傍で話を聞いていた子供たちも喜んでいた。

 最近は冒険者として一緒に行動することが少なくなっているので、俺の戦いぶりを見ることができるのが嬉しいらしい。

 そんな様子を見ながら、今のところ嫌われている様子はないけれどあまりに疎かにし過ぎると嫌われるかもしれないので気を付けないとなと戒めていた。




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m(__)m

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