(2)ミヤコへ

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 アシカガ家当主からの返答はゆっくりでも構わないと告げたお陰なのか、ダンジョン探索をしてほしかったのかは分からないが、長介から用意ができたと連絡が来たのは話あってから五日後のことだった。

 その間は長介に宣言した通り、ダンジョンに潜って適当に体を動かすことができた。

 ここ最近はずっと室内に籠って作業することが多かったためか、まとめて身体を動かせてかなり発散することができていた。

 自分としてはそこまで身体が動かすことが好きなタイプではないと思っていたのだけれど、この世界に来て少しばかり趣味趣向も変わっているように思える。

 一周目のときにはそんなことを感じることはなかったので、もしかすると人族に転生したからこそ感じているのかもしれないが。

 とにかく長介のお陰でお膳立てはできたので、用意してもらった書面をしまい込んでからミヤコへと向けて出発することになった。

 マキムクからミヤコへ向かうとなると陸路が一番早いので、今回は余計なことをせずに素直に馬車を使って移動する。

 もっとも使っている馬車とそれを引いている馬が特殊なので、一般的な常識と比べてもかなり早く着くことになっている。

 

 アシカガ家にとってマキムクとミヤコの町は、かなり重要な位置づけに置かれている。

 その他にも港町など重要な拠点はあるのだけれど、この二つが別格扱いなのは間に敷かれている街道を通るだけで分かることだ。

 魔物が強い世界だけに一度も会わずに通り抜けることなどは不可能ではあるが、他の街道に比べてかなり通りやすい道になっている。

 それだけ足利家が、この間の街道に重点を置いているということがわかる。

 

 安全な街道ということで、主に行商の馬車が他の国にはないくらいに行き交っている。

 マキムクのダンジョンで取れた素材から様々な商品を作り出して、ミヤコへと運び込まれていることがよくわかる光景だ。

 関所などもあまり設けられておらず、ここを通る商人が多くなるような工夫もされている。

 もっともヒノモトでは、それぞれの御家が管理している領土内だと関所を設けることが少ないので、そこはあまり珍しい光景とは言えないかもしれない。

 

 そんな商人たちの馬車と合わせていつもよりもゆっくり目に進みながら、数日かけてミヤコに到着した。

 マキムクがダンジョンで成り立っている工業の町だとすれば、ミヤコはまさしく政治の町といえる。

 元の世界と違って皇室があるわけではないのだけれど、ユグホウラができる前からミヤコはヒノモトの政治の中心地だった。

 現在では御家の代表者である将軍がいる城がある都市でもある。

 

 そんな政治の中心地であるミヤコには、今回のお目当てである図書蔵がある。

 図書蔵にはヒノモトだけではなく、過去に大陸から渡ってきた書物も多く保存されている。

 その蔵書の量は東洋一といっても過言ではないほどに集められている。

 それほどの種類がこの図書蔵に集まっているのは、大陸にある都市と違って国の転覆などによって過去のものが焼き討ちにされるなどの被害が少なかったからという理由もある。

 

 現在の図書蔵を管理しているのは、足利家の家臣である才家になる。

 才家はアシカガの頭脳といわれるほどの頭脳集団で、その智謀を持ってして昔からアシカガ家を支えて来た。

 それはユグホウラがヒノモトを統一する以前からだったようで、ある意味でヒノモトを支えて来た一家ともいえる。

 余談ではあるが、アイリ曰く一周目の俺である世界樹の精霊がいなくなった際、ヒノモトが割れなかったのはこの才家の存在があったからとも言われているとか。

 

 その話の真偽はともかくとして、才家がミヤコにおいて大きな権勢を誇っていることは間違いない。

 本来なら足利家がミヤコの町を押さえていてもおかしくはないのだけれど、アシカガの本家はマキムクに置かれている。

 これは将軍と同じ町に拠点を置くことにより他家からの疑いの目を逸らすためとか、マキムクでの利益が無視できないものだと表向きは語られている。

 ただし表があるということは裏もあるというわけで、まことしやかに言われているのは才家が足利本家のマクムクへの移転を推し進めたとも言われている。

 

 知を司る家だけあってそんな様々な知略が語られている才家だが、当主が住んでいる屋敷は周辺にあるその他の武家の屋敷と大きな違いがあるわけではない。

 勿論家格に合うような大きさや広さはあるが、何か特殊な形をしているとか豪華な飾りつけがされているというわけではなかった。

 その辺りは知識を担っている家という誇りなどが関係している可能性もあるのだが、本当のところはよくわかっていない。

 一番ありそうなのは、古くからある建物の造りを大きく変えないことで昔からの技術をそのまま継承しているという、日本の伊勢神宮と同じようなことをやっているという話だろうか。

 

 ミヤコの町に入ってすぐに才家の本家を訪ねた俺たちは、門番に疑わしそうな顔で見られつつも長介に用意してもらった書状を差し出した。

 その書状を受け取ったその門番は首を傾げつつも屋敷方面へと向かい、しばらくしてから殊更丁寧な対応に変わって俺たちを屋敷へと案内し始めた。

 門番だと書状の内容は勿論のこと、本物の兵家当主からの書状だと判別ができなかったのだろう。

 それが念のため屋敷で調べたところ、本物だと分かって焦って対応を変えたのだと思われる。

 

 子供たちも含めて全員で来たのは、これからしばらくミヤコに滞在することになっているので顔を覚えてもらおうと考えたからだ。

 とはいえエルフ組も入れて十人以上で訪ねてきたのは少しばかり迷惑になっているのではないかと思ったが、一応長介からの手紙にも書かれているので問題はないはず。

 そのお陰なのかどうかは不明だけれど、屋敷の中に通された俺たちはちょっとした広さがある小宴会が開けそうな部屋に通された。

 しっかりと長テーブルと椅子が用意されていたことで、普段からお客を呼んで小さな宴会をするために使われていることがわかる。

 

 部屋に案内されてそれぞれ好きな椅子に座りながらお目当ての人物が待つこと数十分後。

 予定外の訪問だったのにも関わらず、才家の当主が俺たちの前に姿を見せることになった。

「――お待たせして申し訳ありませんでした」

「いえ。突然訪ねて来たのはこちらですので、全く構いません」

 冒頭でそんな会話がありつつもお互いに自己紹介をしてから改めて席に座ることになった。

 

 才家の当主は見た目が四十代後半で、細身の身体つきに眼鏡を装着している。

 シーオの価値観でいえば間違いなく貴族の身分といえる地位にいる才家当主――才家与一は、一見穏やかな表情を浮かべつつもどこか鋭い目つきをこちらに向けてきていた。

「さて。我が家を訪ねて来た用件については、兵家からの書面で伺っております。図書蔵の書物を確認したいということでよろしいでしょうか?」

「はい。そうなります。詳しい話を進める前に、まずはこちらからご覧いただけますか?」

「これは……?」

「足利様からの書状だと伺っています。中身については私どもは聞いておりません」

「……そうですか」

 足利からの手紙と聞いて与一が何を考えたのかは分からないが、受け取らないという選択肢はなかったのか、受け取ってすぐに中身を確認し始めていた。

 

 少し面白かったのは、その書面を読み進めるほどに段々と表情が無くなっていったところだろう。

 もしかすると図書蔵への入館を盾に何かしらの取引とかを考えていたのかもしれないけれど、その計画が足利からの書面で崩れ去ったのかもしれない。




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m(__)m

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