第22章

(1)久しぶりのマキムク

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 アンネリが弟子を取ってから半月が経ってから俺たちは、拠点をヒノモトへと移した。

 正確にいえば拠点を移したというよりも必要なものだけを移動して、王都にある拠点(建物のみ)はそのままにしてある。

 理由としては、まだ王都に残ることになっている弟子たちがその拠点を利用するためだ。

 日常で行う訓練もそうだけれど、学園の寮住まいの彼らには隠れて何かをするということが難しい。

 今のところアンネリが彼らに教えているのは魔力操作の訓練だけなので隠すことは何もないのだけれど、自分たちだけで使える住居があるというだけでも心の持ちようが変わって来る。

 ただし弟子だからこそというべきか、建物の掃除などの管理は彼らが行うことになっている。

 彼らの内二人は貴族といっても貧乏貴族の出なので、掃除くらいは元から自分たちでやっていたので問題はないはず。

 建物が傷まない程度に掃除してくれればそれで構わないので、あとは自分たちが過ごしやすいように使ってくれるはずだ。

 

 そしてヒノモトへ移動した俺たちは、ひとまずマキムクで兵家の当主に連絡をとった。

 ヒノモトの中心は過去も現在も『ミヤコ』になるわけだが、ヤマト(近畿)を治めている御家はアシカガ家になる。

 タマモを通していきなりアシカガ家当主に連絡をとっても良かったのだけれど、ここは面識のある兵家当主を通したほうがいいと判断した。

 今回の用件はただの古文書漁りなので、下手に事を大きくしたくはなかったということもある。

 

 今現在のヒノモトは、将軍をトップに据えつつ七家の御家がそれぞれの土地を治めている体制になっている。

 一応代々の将軍が住んでいる城がヒノモトの中心ということにはなるのだけれど、国外からの圧力がほとんどないのでお飾り将軍とも言えなくはない。

 勿論七家の間で争いが起きそうになった場合の抑えにはなったりするが、将軍が直接動くことはほとんどない。

 そもそも七家の間で直接の争いが起きた場合には、タマモなりユグホウラが動くこともありえるので将軍が活躍する機会はほとんどないといえる。

 

 それでもやはり長い間ヒノモトの中心がミヤコにあったことは確かで、恐らく古い書物などは中央に集まっているだろうとアイリから説明を受けている。

 それらの言葉を確かめるためにも、まずはいきなりミヤコに突撃するのではなく纏向へと行ったほうがいいだろうということになっていた。

 そしてマキムクについてすぐに兵家当主との面会の打診をしたのだが、これまた予想以上に早くアポを取ることができた。

 マキムクの拠点は兵家に管理をお願いしているところがあるので、俺たちが町に着いた時点で連絡が入ったのではないかと思えるくらいの速さだった。

 

「――ふむ。確かに古い書物を調べるのであればミヤコが一番だろうが、あそこは滅多なものは入ることができませぬぞ?」

「やっぱりそうですか。一応アイリに頼んで津軽家のも見てみたのですが、残念ながら求めるようなものは無かったのですよね」

「であろうな。ユグホウラが興る以前に関しては、知はほぼすべて足利に集まっていた。地方にある民謡なんかは別であろうが、あなたが求めるのは違うのであろう?」

「そうですね。出来ることなら神代のことについて書かれた書物があればと思うのですが……」

「それならやはりミヤコに出向くしかないであろうな。……ふむ。あまり気は進まぬが、才家に紹介状でもだそうか。才家はミヤコで書物の管理もしておるからの」

「それは有難いですが……気が進まないというのは?」

「あそこの家はの。知のためにならという理由があると、時に暴走することがあるからの」

「ああ~。なるほど、そういうことですか」

 知識を求めるがゆえに踏み越えてはいけないラインを踏み越えそうになるという話は、別にヒノモトだけはなく古今東西どの文明でも聞いたことがある話……かもしれない。

 

 俗にいうマッドサイエンティストという存在がそれにあたるが、面倒になって来ると(研究)対象のあらゆるものを無視して研究の対象とするので質が悪い。

 行くところまで行きつくと他人の命さえ軽々しく扱うこともあり得るので、そういった存在とはお近づきになりたくはないというのが本音だったりする。

 そんな考えの表情が思いっきり表に出てしまったのか、兵家当主も真顔になって頷いていた。

 

「心配せずともそなたをろくな目に合わせるようなことはさせぬ。きちんと殿を通して釘を刺すので安心されよ。こんなことで足利を潰すわけにはいかないからの」

「あ~。それは有難いのですが……暴走するときは何をやっても無理では?」

 そう問いかけると、長介は一瞬渋面になったもののすぐに頷き返してきた。

「確かにの。だがそこを越えぬとミヤコの書物は読めぬよ。あとはそなたの決断次第ということになる。儂が約束できるのは殿に釘を刺してもらうというところまでだ」

「やっぱりそうなりますよねえ」


 長介の言う通り、彼らができることは最大限のことを提案してくれている。

 それでも何をしてくるのか分からないという怖さがマッドサイエンティストというイメージがあるので、あとは本当にこちらの回答次第ということになるのだろう。

 それに、ここまで言ってくれるのであればこちらから何をしても罪には問わないという約束ももらえるはずだ。

 勿論その約束も無制限というわけではなく、こちらの身を守ることができる範囲内でということになる。

 

 そんな提案をしてくることは事前に察知していたのか、長介はすぐにその条件を飲んでくれた。

 ただし内容的にはアシカガ家当主の了承がいることになるので、その返答を待ってから本格的にミヤコに向かうことになる。

 長介の言葉では一両日中には返答がもらえるはずだとのことだったので、それまでは纏向で過ごすことになった。

 

「一両日となると……そうですか。その返事、そこまで慌てなくてもいいですよ」

「いや。特に慌てるつもりはないのだが、何かあったのか?」

「折角ですので、気分転換も兼ねてマキムクのダンジョンにでも行こうかと。あくまでも息抜き程度なので、そこまで深くは潜りませんが」

「おお、それはいい。是非とも下層にいる魔物の間引きに励んでくれるとありがたい」

「ああ~、なるほど。それは確かにそうかも知れませんね。出来る限りのことはしましょう」


 そんなことを答えたのは良いのだけれど、実際にはマキムクダンジョンで魔物の氾濫を押さえるための間引き行為は必要なかったりする。

 その理由は簡単で、マキムクダンジョンのダンジョンマスターであるルファがきちんと調整を行っているからだ。

 より正確にいえば、ルファの部下たちがそれぞれの階層ごとに自然発生をしている魔物を間引いている。

 ただし少なくともマキムクダンジョンではルファの管轄外の魔物が発生する確率は低いらしく、そう簡単に氾濫が発生するわけではないらしい。

 

 そんな内部事情を知らない兵家の当主が魔物の氾濫を警戒するのは当然のことであり、これには俺も特に反発することなく頷いておいた。

 冒険者としては魔物を狩るのは当然で、その冒険者の活動を担っている(ギルドへ依頼を出している)のも兵家の役割の一つだから。

 長介に言った通り魔物を狩って気分転換したいというのはここに来る前に話していたことなので、全くもって問題はない。

 というよりもその話が上がっていたからこそ、長介が言い出すよりも先にこちらから話のついでに出しておいただけのことである。

 

 とにかくミヤコにあるはずの古文書の確認許可はなんとかなりそうなので、あとはアシカガ家当主からの返答を待つことになる。

 それが終わればミヤコへ移動できるので、そのまま皆でミヤコまで移動する予定になっている。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る