(22)弟子(仮)入り

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 アンネリの狙いだった貴族子女たちの弟子入りは、結果として男一人女二人の計三人が入るということになった。

 これが少ないと見るか多いと見るかは人によって違って来るだろうが、アンネリ本人は「思ったよりも残った」と言っていた。

 決闘騒ぎで実力を見せたことによりさらに増えるという予想はしていて実際にその通りになっていたのだけれど、後付けで増えた分はアンネリが直接断っていた。

 あとは例の五人の内何人が残るかという問題だったわけだが、その内の二人は「正式に弟子になるのは……」ということで断ってきた。

 それだけ弟子になることへの重みがあるわけだが、逆にいえば残った三人はそれだけ追いつめられていたともいえる。

 それが家庭に事情によるもの何か、単に本人の覚悟が違っていたのかは敢えて確認はしていない。

 それは当人同士が知って入ればいいことだし、アンネリが聞いているのかどうかも知らない。

 もし家族の問題があって何かしらの圧力が貴族家からかかるなら口出しもするけれど、少なくともアンネリから何か言われない限りはこちらから動くつもりはない。

 

 そして肝心の弟子(候補)三人が今現在何をしているかと言うと、何故か俺の目の前で土下座を敢行していた。

「……いや、何故に土下座?」

「私が代表してお答えいたします。――私たちは愚かにも師匠のいないと思われた場所でご主人様のことを悪く言ってしまいました。それが師匠に伝わった結果……」

「あ~。うん。何となくわかった。アンネリのヒモだとか、何の役にも立たないことをしているただ飯ぐらいだとか、そんな噂をそっくりそのまま話していたことがアンネリにばれたと」

 それらの噂が王都で働いている官僚たちの間で広まっていることは、宰相から聞いていた。

 ついでに嫌なら対処もすると言われていたけれど、それについては別にほったらかしで構わないと答えている。

 何故宰相と繋がりがあるのかきちんと説明するつもりは今のところないので、好きなように噂をすればいい程度に考えているからだ。

 だが、その噂が弟子たちの耳に入って、そっくりそのまま口にしてしまったらしい。

 迂闊というかなんというか、きちんと弟子を持つと決めたアンネリが、その辺りのことを気にしないはずがないのに。

 

「理由は分かったよ。あと土下座ももういいかな。それ以外はアンネリに任せるよ」

「ありがとうございます。……あの。一つよろしいでしょうか」

「何?」

「あなたが師匠の師匠に当たるというのは本当なのでしょうか?」

「うーん。どうだろう? アンネリがそう言ってくれているってことはそうなんじゃない? 正確に言えば、特に魔力操作に関しては色々と教えているという感じだとおもうけれどね」

「「「申し訳ございませんでした!!」」」


 俺の答えに三人は、声を揃えながらほぼ同時に頭を下げていた。

 あの噂をうのみにしていたのであれば、まさか俺がアンネリに魔力操作を教えたなんてことは想像もしていなかったに違いない。

 敢えてそう思わせるように誘導したことでもあるので、特に怒りのようなものは浮かんでこなかった。

 三人に対する責任を持っているのはアンネリなので、この件に関してこちらからどうこう言うつもりはない。

 

 頭を下げたままの弟子組を見てからアンネリへと視線を変えて、ふと疑問に思ったことを聞くことにした。

「それで、結局この三人は連れて行くことにしたの?」

「いいえ? 少なくともあと数年はこのまま王都にいてもらうつもりよ」

「あら。そうなんだ。理由を聞いても?」

「折角学園に通えているんだもの。このまま卒業までしてもらうわよ。たとえいずれは貴族籍を抜けることになったとしても、ね」

「そういうことか。それなら納得だわ」

 元貴族というだけではなく、学園を卒業したという経歴は少なくとも国内ではそれなりに役に立つのは間違いない。

 

 そんな話をしている俺とアンネリの傍では、弟子組が頭上に「?」マークを浮かべていた。

 それを見る限りでは、アンネリもまだ今後のことを彼らに話していなかったことはわかる。

 それらについてもアンネリが説明すべきことなので、今この場で口にすることはなかった。

 とにかく彼らに対する責任はアンネリが負うべきで、何か困ったことが発生して助けを求めて来た時だけ手を貸せばいい。

 

 そんなことを考えながらちょっとだけ気になったことを弟子組に聞いてみることにした。

「そういえば、聞いてみたいことがあったんだけれど。君たちがアンネリの弟子になろうと決心したのは何故? たった二回の講義だけで信頼できると考えたわけじゃないよね」

 俺がそう問いかけると三人は顔を見合わせてから、代表して男の弟子(候補)が答えた。

「それは勿論、先生の素晴らしさに気付いたからで――」

「そういうのはいいから。いや、違うか。具体的にどう素晴らしいと感じたのか、それを知りたいんだよね。ただの見た目とかだけで、将来のすべてを預けようなんて考えないのはよくわかっているから」

「それは……いえ。隠すようなことではないですね。私の場合は、というか、他の二人も同じだと思いますが、学園で魔法の成績はあまりよろしくありませんでした。はっきりいえば、下から数えたほうが早かったです」

 男子のその答えに、他の二人の女子たちも少し恥ずかしそうな顔をして頷いていた。

「――ですが、アンネリ先生の講義を受けて魔力操作の訓練をしてから、明らかに魔法の発現が良くなりました。具体的には威力や精度が上がったりです。学園に通っている間、そこまでの改善があったのは初めてだったのです」

「なるほど。今後冒険者としてやっていくためにも魔法の改善は必須で、どうしてもアンネリの教えを受けたかったと」

「「「そうです」」」

 話をしていたのは男子だったが、最後に揃って答えていた。

 

 話を聞いてみれば、彼らがアンネリの弟子にと求めたのは当然の結果だったといえる。

 今後冒険者として活躍していくためには魔法の腕を上げることは必須で、短期間で結果を上げることができたアンネリを師匠としたいということは当然だったということだ。

 それに彼ら彼女らは三番目四番目の子供たちで、スペアにさえなることができない者たちでもある。

 そんな彼らが糧を得るために冒険者を目指すのは必然であり、そのために自らの能力を向上させてくれる師を求めるのも当然だといえた。

 さらにいえば、アンネリは彼らを弟子として迎え入れる際に、守秘義務のようなものを課している。

 その主な者は今後の付き合いで必ずユグホウラとの関係も知っていくことになるのは目に見えているので、事前に手を打っておいたのだろう。

 ついでにいえば、彼らの実家から変な誘いなどが無いように敢えて彼らを縛るための契約内容にもなっているそうだ。

 

 魔法使いの弟子ともなれば周囲に秘匿している魔法の一つや二つを教えてもらうこともあるので、そうした守秘義務が課せられることは珍しいことではない。

 それでもいきなり厳しい義務を課せられることに彼らも戸惑いあったそうだが、そうしたものを全て納得したうえで今に至っているとのことだ。

 そこまでされているのであれば、もうこちらから言うことは何もない。

 しばらくは寮生活を続けながら学園に通うことになるので、彼らの生活もそこまで大きな変化にはならないだろうと思う。

 

 今後については王都を離れる予定で入るけれど、数日中にというわけでもない。

 少なくともあとひと月程度は王都に滞在する予定なので、その間に彼らも色々と事情を知っていくだろう。

 それでもなおアンネリの弟子になりたいと望むのであれば、いつか(仮)が外れるときがくるのだと期待したいところだ。




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m(__)m

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