(21)距離の問題

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 結論から言ってしまうと、アンネリの決闘騒ぎでは特に大きな事件は起きなかった。

 いや。決闘自体が騒ぎといえば騒ぎなのだけれど、それ以上の広がりは見せなかったというべきか。

 一応他国や他貴族(派閥)の介入なども警戒はしていたのだが、それもこちらが関与するようなことにならずに収まっていた……らしい。

「らしい」というのは、それらの話を後からまとめて宰相から聞いたからになる。

 実際のところは、宰相どころかそのさらに二つくらいの役職の役人でも対処できる程度で収まったらしいので、本当にただの杞憂で終わったというべきだろう。

 余計な騒ぎにならなかったのは宰相が直接動いていたからということもあるのだけれど、明らかにこちらにまで拡大しないように警戒していたからということもある。

 現実はそこまで何度もイベントに巻き込まれるわけではないと思う結果になったわけで。

 そう考えてしまったのは、似たようなことで何度も巻き込まれて来た一周目の経験があったからともいえる。

 

 とにかく他国を巻き込むような大騒動にはならずに宰相共々胸をなで下ろしたのはいいとして、少しだけ予想とは外れた展開になったことがある。

 いや。正確にいえば予想通りともいえるのだけれど、ここまで一気に噂が広まるとは考えていなかった。

 その噂が何かといえば、決闘に直接参加したアンネリの強さについてだった。

 アンネリが強いことは分かっているので噂になること自体はそこまで驚くようなことではなったのだけれど、問題はその広がるスピードだった。

 

「――そこまで問題かな? 私としては想定内だったのだけれど」

「あら。強さの件に関してはアンネリの方が認識不足だと思っていたんだけれど、こっちの方が想定が甘かったか」

「仕方ないんじゃない? 私が想定していたのは強さ自体のことじゃなくて、噂の広まり方だから」

「えーっと……? どういうことかな?」

 意味が分からず首を傾げる俺に、アンネリからではなくアイリが補足をしてくれた。

「つまりアンネリが言いたいことは、キラ様の人族に対する認識が甘かったということではないでしょうか?」

「ああ~。つまりは、まだまだ人族の『強さ』に対する認識が高すぎたと」

「そうなりますわね」


 アイリが言ったことはつまり、『激流』と呼ばれているヒルダの存在から今現在のこの世界の人族の強さというものを理解していたつもりだったけれど、それはまだまだ甘かったということだろう。

 こちらから見てSランクと呼ばれている存在がそこまでの強さではないということは分かっていても、人族の間では間違いなくSランクと呼ばれるにふさわしい強さを持っている。

 そのSランクの強さに対する人々の畏敬の念というか、思いの強さのようなものを見誤っていたというべきかもしれない。

 アンネリの決闘の相手はSランクだったというわけではないが、それに片足を突っ込んでいると言われるくらいには評価の高い人物だった。

 その相手をアンネリが軽くあしらったからこそ、ここまで噂が広まったというわけだ。

 現時点でのアンネリの強さを考えれば、それくらいのことは出来ても不思議ではない。

 だからこそ戦闘そのものについては驚かなかったのだけれど……と、いつまでも噂が広まっているという現実を無視し続ける意味はないか。


「それで? アンネリにしていれば想定内だったみたいだけれど、狙っていたのはこれだけ?」

「噂が広まるのは、むしろ副次的なものね。狙っていることは別にあるけれど、結果が出るのは……もう少し経ってからということになると思うわ」

「そうなんだ。それじゃあ、まだ王都にはいた方がいいのかな?」

「あら? 移動するつもりでいたの? 禁書庫の調査はまだ終わっていないのでしょう?」

「そうなんだけれどね。いつまでも一か所で調べ続けても意味はなさそうだから、また別の所に行ってみようかなと」

「別の所……というと、ヒノモトかエイリーク王国辺りのこと?」

「だね。今のところだと、その二つ以外には話を通しづらそうだしね」

 

 そもそもの目的は攻略に繋がる何かが見つかるのではないかという期待だけなので、無理をして他国の禁書庫に入る必要はない。

 それにノスフィン王国に無かったものが、北欧シーオ諸国の別の国にあるとも思えない。

 もし前の世界の○○図書館みたいに分かりやすい建造物などがあればいいのだけれど、残念ながらそんなものが存在していないことは宰相経由で聞いている。

 エイリーク王国に関してはユグホウラとの関係が続いていることを鑑みて、他のシーオ諸国とは違った文化(の書籍)が残っているかもしれないと期待してのことだ。

 

「もしかして、移動することに何か問題でもあった?」

「そんなことはないわよ。もともとここにずっといるわけじゃないということは分かっていたから、それを前提に考えていたし」

「もしかして今の『狙い』につながる話……ああ、そういうことか。あの五人の内の誰かが、正式に弟子入りを願って来ると考えているわけね」

「まあ、そういうことね。弟子にするのはいいとして、学園はきちんと卒業していたほうがいいと思うから。どうやってやり取りをしようかというのが問題だったのよ」

「別にそこまで深く考える必要はないんじゃない? 何だったら転移装置を置けばいいだけだし」

「そう言ってもらえるのは有難いけれど、国内に増やし過ぎるのも問題だと思うのよ」

「それは確かにどの通りだけれど……それが気になるんだったら時点として王都近くにある転移装置から移動して来ればいいと思うよ?」

「王都近くの? そんなものあるの?」

「あると思うけれど?」

 

 アンネリの問いにそう答えつつ傍にいたアンネを見ると、しっかりとした頷きが返ってきた。

 どこに転移装置を置いているかは全て把握しているわけではないだろうが、自分たちがいる場所の近くにどう配置されているかくらいは把握していてもおかしくはない。

 それに各国の王都近くに置いておけば色々と便利なのは違いないので、見つかりにくく管理がしやすい場所に置いてあることは予想済みだった。

 人の足でどのくらいの距離にあるかは分からないけれど、眷属の馬たちを利用すればあまり距離は気にしなくてもいいはずだ。

 

「そう。それならあまり悩む必要はなくなったわね」

「なるほどね。距離の問題があったから厳しかったわけだ」

「そういうこと。私自身はキラと離れて過ごすことは考えていないしね」

「お、おう。ありがとう?」

「何故そこでお礼なのよ。……もう。そろそろ慣れてくれると思っているのに、いつまで経っても駄目なのね」

「――ご主人様はそちら方面では完全ヘタレだからねえ」

 

 ジト目で見て来るアンネリに何か答えようとする前に、アンネがそうぶっこんできた。

 プレイヤーになる前の人生でもそうだった自覚はあるので、全く反論することが出来ない。

 

「本当にねえ。これ以上責めると逃げるからこの辺にしておきましょうか。それよりも王都に拠点を作るのはありえそう?」

「どうかな? 禁書庫に入るためということを理由にしておけば、建前にはなりそうだと思うけれど?」

「そっか。今だったらそれが言い訳に出来るのね。……無理はしなくてもいいからお願いしてもいいかしら?」

「了解。適当に話をしておくよ。あの宰相だったら喜びこそすれ、反対することはないと思うけれどね」


 最近では宰相としてよりも歴史学者としての顔を見せることの方が多いとさえ思えている。

 勿論、それを利用して会っているとも考えられるのだが、それはそれ、だと思う。




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m(__)m

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