(19)何故の流れ

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 アンネリによる学園での魔力操作の講義二回目。

 当初は開かれるかどうかも分からない状態だったのだけれど、意外に評判がよろしかったらしくすぐに開催される運びとなった。

 ただし評判が良かったのは一回目の講義を見に来ていた職員や講師たちで、学生たちにはそこまでの評価はされていなかったらしい。

 もっともそうなるであろうことは俺もアンネリも予想できていたので、やっぱりかと思うだけだった。

 魔力操作の訓練は、非常に地味ですぐに結果が出るような者ではないので若いうちは派手な結果が出やすい実践的な魔法に走りやすくなるのもわかる。

 魔法を習ったものなら皆が通る道なので、誰もその結果についてどうこう言うことはないだろう。

 俺の場合はこの世界に最初に生まれたのは木の中で、必然的に魔力操作の訓練(実践?)しかできなかっただけのことだ。

 もし自由に魔法が使えたり学べる環境に合ったなら、やっぱり派手に魔法を使うことを選んでいただろうと思う。

 

 そして例の五人組についてはとりあえず二回目の講義があるということで、そちらに参加していたそうだ。

 これからも講義があるかも知れないということで、急いでアンネリから教わる必要もないと考えてくれたらしい。

 それに魔力操作の訓練といっても座学だけで教えられることはほとんどないので、師匠的な存在を必要ないと考えたのかもしれない。

 もっとも本当にそう考えているのであれば少し認識不足なのだけれど、これを責めるのは少し可哀そうかもしれない。

 

 俺がアンネリやアイリ、子供たちに魔力操作を教えていて気付いたことに、やはり先達の存在がいるのといないのでは成長スピードが違うということだった。

 この場合は一応俺自身が先達ということになるのだけれど、魔力操作が上手くできる存在が傍にいることでどういう道を進むべきかの方向性が見えて来るらしい。

 一口に魔力操作といっても人の癖というのは出て来るので一概には言えないのだが、それでも一人で訓練を続けるよりは違った感覚で成長できるようだ。

 教わっている者がそのことに気付けるかどうかは訓練の積み重ねをした後なので、アンネリから教わったばかりの彼ら彼女らが気付けないのは仕方ない。

 

「――と、いうことまで考えたというのは分かったけれど、それがどうして決闘なんかになるのかな?」

 二回目の講義を終えて戻ってきたアンネリから色々と話を聞いて、ごくごく自然に湧いた疑問を口にすることになった。

 隣で話を聞いていたアイリも同じような顔になっていたのだけれど、問われた当人であるアンネリは何故だか嬉しそうな表情を浮かべていた。

「魔力操作自体を馬鹿にしてくる生徒がいたからだけれど? それから決闘じゃなくて模擬戦ね」

「いや。当然だという感じで言われても……。講義が終わった後、喧嘩を売られて決闘――じゃなくて模擬戦をすることになったって、もう少し説明があってもいいと思うけれど?」

「ええ~? 本当に言葉通りなんだけれどね。講義を終えて職員の方と廊下を歩いていたら魔力操作の訓練を馬鹿にしてくる生徒がいて、それを職員が注意したらそうなったのよ」

「うん。よくわからないかな」

 恐らくわざとだと思うが、アンネリもかなり端折って説明していることがわかる。

 でもまあ、今の話で何となく話が見えて来た。

 

「職員が注意したのはいいとして、何故アンネリが決闘に出ることになったのかな?」

「だから決闘じゃなくて、模擬戦ね。私が出ることになったのは、ちょうどいいと思ったからよ。折角講義で魔力操作を教えているんだしね」

「言いたいことは分かるけれど……魔力操作を鍛えたからって魔法が上手く扱えるようになるわけじゃない! ――とか言われたらどうするつもり?」

「別にそれはそれで構わないわよ。そんな屁理屈をこねる人は、どうせ何を言ってもこちらの話を受け入れたりしないでしょうから」

「……一応、そこまではきちんと考えているんだ。それで、その模擬戦の相手は誰?」

「まだ決まっていないと思うわよ? 出すのは代表でも構わないって言っておいたから」

「代表? となるとその文句をつけて来た奴が誰かを選んで出すってことね」

「そうなるわね。そのほうが分かりやすいでしょうし」

「確かにね。何だかんだいい方向に向かう……と良いんだけれどね」


 この時点で、アンネリが負けるとは拠点にいる誰も考えていなかった。

 アンネリの母親であるヒルダのような冒険者Sランク級を出してくるならともかく、それ以下の相手に負けるイメージがわかない。

 それくらいに今のアンネリは強いし、単純な戦闘能力以外の魔法勝負だったとしても負けることはないだろう。

 魔法を使う上において魔力操作がどれほど重要かを見せるパフォーマンスとしては、確かにちょうどいいのかもしれない。

 

 もし自分だったら面倒だと考えてしまう流れではあるが、アンネリが構わないと考えているのであれば止める必要はない。

 むしろアンネリを見ていると、こうなることを予想していた節がある。

 講師の話を受けた時からとまでは言わないが、二回目の講義に向かう時には狙っていた可能性はある。

 事件が起きなかったとしてもそれはそれで構わないが、何割かの予想通りのことが起こったのでそれに乗っかったという感じだろうか。

 

「誰が来て、何をするのかは早めに知りたいところだけれど……」

「あら。一応言っておくけれど、余計なことはしなくてもいいわよ。敢えて行き当たりばったりにするつもりだから」

「え? 本当にそれでいいの?」

「いいのよ。私も今の自分の実力がどの程度なのか、きちんと知りたいと考えていたから」

「なるほどね。でもその基準はあちらの匙加減によるんじゃない?」

「別にそれで構わないわよ。家の名誉とかそんなものに縛られて出された結果なんて、その程度でしょう? 私が知りたいことは私自身が知っていればそれでいいもの」

「そういうことなら余計なことはしないでおくよ。ただ護衛はこれまで通りにきちんとつけておくからね」

「それはこちらからもお願いしたいところね。不意打ちでこの世からおさらばなんてごめんだから」

「そこまでする相手がいるかどうかだけれど、油断は出来ないのが貴族社会だからなあ……」


 面子にこだわる貴族だけに、一応貴族籍にいるとはいえ冒険者に負けたとあったら何をしてくるか分からない。

 決闘を受けた相手が学園の子供だけに、大人以上に変な暴走をしかねない。

 とはいえ、そこまでおかしな事態にはならないとも考えている。

 理由は簡単で、こちらの動向は国のナンバーツーとも言われている宰相がしっかりと把握しているから。

 権力を使って何か仕掛けて来るようであれば、こちらが動くよりも先に宰相が動くかもしれない。

 もっとも宰相が動くとなれば余程こじれた場合になるとは思うけれど。

 

「まあ、アンネリが良いと思うならそれでいいか。どうせ自分の実力を確かめる以外にも目的はあるんだよね?」

「あ。ばれてしまったわね。そっちは上手く行くか分からないから秘密。上手く行かなかったときに、恥ずかしい思いをするから」

「いや、失敗したからって責め立てるようなことはしないけれどね。アンネリにも考えがあるんだろうから別に無理して言わなくてもいいよ」

「ありがとう。結果が出るまでそんなに時間はかからないと思うから、少し待っていてね」


 アンネリが何を狙って動いているかは推測することしかできないけれど、本人の様子を見る限りではあまり心配する必要が無いように見える。

 もし本気で相談することができたのであれば、俺なりアイリなりに話を持ってくるはずだから大丈夫だろうと思う。




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m(__)m

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