(18)訪問者

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 禁書庫の調査は宰相の都合が関係してくるので、三日か四日に一回程度で行っている。

 それ以外は町にある図書館でも調査を続けているのだけれど、状況はあまり変わることなく日が進んでいる。

 特に禁書とされているものについては、以前から考えていた通りに運営の影がちらついている。

 調査が進むごとに運営=前史文明という図式が成り立つようになっていることが分かってきたけれど、俺自身の中では既に運営の仕掛けだと決めつけていた。

 いきなり世界が出来上がる不自然さを隠すために前史文明という存在を用意したのだろうと。

 以前も宰相に話はしたけれど、もし本当に前史文明が存在したなら遺跡なりなんなりでその痕跡が見つかっていないとおかしいわけだ。

 ところがそんなものはこれまで一度も見つかっていないことから前史文明=運営だと考えている。

 ただ全てが運営の仕業であればそれっぽく前史文明の痕跡を用意しておいてもおかしくはないはずで、今はそこが少し引っかかっている。

 

 デスクワークで凝り固まった体をほぐすためにも時折冒険者としてフィールドワークをこなしつつ日々を過ごしていると、ついにアンネリが学園の講師として教壇に立つ日がきた。

 学園側は卒業生の現役冒険者の講義ということで当初は騒ぎになると考えて色々と警戒態勢を取っていたらしいが、アンネリが講義の内容を話したところで過剰な反応はおさまった。

 それだけこの世界では魔力操作の技術が軽視されているということだろう。

 最初の内は外部からの見学者も希望が多数いたようだけれど、講義内容を聞いて辞退者が続出したというのだからもはや笑い話としか言いようがない。

 

 結果的にちょっと珍しい外部からの講師という程度の騒ぎで収まったアンネリの講義は、希望者を募ってどうにか三十人という人数を集めて行われた。

 三十人という数字も学年を気にせずにどうにか集めたらしいので、生徒たちからどれほど不人気だと思われているかわかるというものだろう。

 アンネリ自身はそんな不評など全く気にせず――というよりもこうなることは分かっていたようで、学園の職員から話を聞いても「やっぱりね」と笑っているだけだった。

 むしろ当人からすれば変に注目されているよりも遥かにましという程度にしか感じていないようだった。

 

 そんな感じで始まった講義は、特に波乱な展開を迎えることなく無事に終えることができたそうだ。

 ただし学園側からは魔力操作が主な内容ということであまり期待をされていなかったそうだけれど、生徒と一緒に内容を聞いていた職員が非常に有用だったと言っていたらしい。

 その職員は今後の講義をどうするかの確認も兼ねていたようで、すぐに次の講義も打診されたとか。

 アンネリも一度だけで終わらせるつもりはなかったらしく、その場では今後の都合が合えばと答えたとのこと。

 

 表向きはそんな感じで終わったのは良かったのだけれど、問題が発生したのはその日の夕方ごろだった。

 講義を終えて拠点でゆっくりと寛いでいたアンネリの元に、生徒たちが訪ねて来たのだ。

 どうやって拠点の場所を調べたのかと聞いてみれば、普通に職員さんが教えてくれたらしい。

 個人情報保護なんて概念が無い世界なだけに、それくらいのことは当然のように行われているそうな。

 

 それはいいとしてこの男二人女三人で計五人の生徒が何をしに来たのかといえば、アンネリの講義が興味深かったのでもっときちんと教えて欲しいということだった。

 さすがにこれはアンネリも驚いたのだけれど、話を聞いてみれば納得できる内容だったのですぐに了承したとのこと。

 生徒たちの話が何かといえば、この五人は全員がとある貴族家のスペアにも入れない子たちらしく、学園の卒業後はほぼ冒険者をすることが決まっているそうだ。

 学園の生徒ならば騎士団に入るという道もあるのだけれど、彼らは最初からその道を選ぶことはしなかったそう。

 

 理由は色々とあるそうだが、爵位の低い貴族家の五男とか五女とかになってくると人間関係なども色々と面倒になることを知っているアンネリはそれ以上深いことは聞かなかった。

 それよりも自分の講義を聞いてわざわざ訪ねて来た学生たちの願いをどうやったら叶えられるかを考えるしたようだった。

 その時は即答することはせずにどうにかして帰ってもらったそうだけれど、既にアンネリの中では個人授業をすることは決めていると言っていた。

 ただ学園でも既に『次の講義を』という話が出ているので、焦って個人授業をする必要もないという考えもあったそうだ。

 

「――というわけで、どうすればいいか悩んでいるのよ」

「いや。普通に教えてあげればいいじゃないか? ――と、言えないのが難しいところだね」

「そうなのよ。私たちもいつ王都を離れるか分からない身じゃない? 適当なことは教えられないしね」

「魔力操作の訓練方法を教えることは出来ても、間違った方向に進んでしまっていないか、確認する必要はあるからなあ。でもそれって学園の講義も同じじゃないかな」

「確かにその通りね。座学だけで済ませることができればそれに越したことはないんだけれど……彼らが望んでいるのはそこだけじゃないでしょうしね」

「いっそのこと学園を卒業したらクランに入るように勧めてみたら?」

「それも考えたけれど、それだとあまり意味はないのよね。彼らが教わりたいのは『今』でしょうから」

「それは随分と我がまま……と言いたいところだけれど、気持ちは分からなくはないね」

「そもそも自分で冒険者という道を選んでいる以上は、師匠みたいな存在は変に持ちたくないでしょうからね」


 気持ちとしては非常によくわかるけれど、それでもわがまますぎると思うのはこちらの世界の常識に慣れてしまったからだろうか。

 この世界ではしっかりとした師弟制度が生きているそんな制度に縛られてまで冒険者になりたくないというのは、貴族の一員としての意識が悪い意味で残っているせいだとどうしても考えてしまう。

 ただこれに関しては、恐らくアンネリも同じような道を通ってきているはずなので、何も言えないというのが本音だとも思う。

 だからこそ彼らをどうするのかについては、俺自身が口を挟むことはやめて別の方向から考える材料を与えることにした。


「そっか。それじゃあ、クランに誘うというのも無しかな?」

「どうかしらね。それなら入りたいという生徒がいてもおかしくはないけれど……やっぱり最初は個人でやりたいと思うのじゃないかしら」

「なるほどね。基本的には個人で責任持ってやるというのが冒険者の基本だからそれもいいか。……建前になっているのは横に置いておくとして」

「冒険者として完全に個人で活動するには、キラくらいの強さにならないと無理だと思うわよ」


 そんなことは不可能だという顔をするアンネリだったけれど、実際のところは彼女だって既に片足を突っ込んでいると思う。

 上を見ればきりがない魔物の強さだけれど、人の生息域に限って言えば個人で戦ってもどうにかできる範囲にはいるだろう。

 そのことに気付いていないところがアンネリらしいといえばらしいけれど、敢えてこちらから教えるつもりはない。

 こちらから伝えて変に安心してしまうのも駄目だと思うし、当人にまだまだ向上心があるのでいずれはひょいと壁を乗り越えてもおかしくはないはずだから。

 

 アンネリの強さはともかくとして、訪ねて来た生徒たちについてどうするかを考えるのも完全に彼女に任せることにした。

 何かの助言を求めてくれば話をするくらいのことは喜んでするけれど。

 あの生徒たちが訪ねて来たのはあくまでもアンネリなので、完全に第三者の俺が口出しすべきことではないだろう。




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m(__)m

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