(16)女性のお茶会
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< Side:アンネリ >
貴族社会、特に女性の貴族にとって面子は非常に重要なもので、普通は子爵家の夫人が開くお茶会に侯爵夫人が出席することなどほとんどない。
公爵家夫人が開くお茶会に子爵家夫人が参加することは普通にあり得るので、そこは貴族こそが縦社会の頂点であることを示す根拠となっているのよね。
とはいえ今回のように絶対にありえないというわけではなく、必要な場であれば参加することはあり得る。
その必要な場というのがお国(の発展)にとって重要だと認める場合などになるので、それだけ私とのお茶会が必要だと認められたことよね。
……まったくもって嬉しくないけれど。
今のところ侯爵夫人は中立よりの立ち回りをしているけれど、それが事前に打ち合わせされた行動であっても何の不思議もないのでしょうね。
魔導書から託された魔法を広く一般に知らしめることは不可能だという話は、一旦途切れて各々のテーブルでの会話に戻っている。
それでも諦めるつもりがないということは、あちらのテーブルの雰囲気からも分かる。
それが伝わっているのか、ヘッダやジョエルも微妙な雰囲気になっていた。
表向きは昔のことを懐かしんで盛り上がっているように見せかけてはいるけれど、あちらの方々が次にどう出て来るか警戒していると言ったところかしらね。
向こうのテーブルでもこちらが警戒していることは分かった上で、それでも機会をうかがっているといったところでしょうね。
これが貴族としての社交の日常なのだから、本当に高位貴族の第一夫人なんかになるべきではないと心のそこから思うわ。
……そんなことを考えながらも今の自分の立場は、既にその域に突っ込みつつあるのではないかと思わなくもないわね。
キラと一緒にいると決めた時からこうなることは何となく理解していたので、それに文句を言うつもりは全くないけれど。
それぞれのテーブルでお互いに様子を探りつつ、それでも一応平穏なお茶会が進んでいたのはほんの十分程度のことだった。
何のタイミングだったかは分からないけれど、第二グループのテーブルからふとこんな質問が飛んできた。
「そういえばアンネリは冒険者になったのでしょう? しかも名前が知られるようになっているらしいって聞いたけれど」
「名前が……そうなのかしら。私ではよくわからないけれど?」
「そう? 最近勢いのあるクランに入っているって聞いたわよ?」
「ああ、そういうこと。確かに『大樹への集い』は勢いに乗っていると言われているみたいね。皆の力のお陰だけれど」
「あら。アンネリもきちんと噂の対称に入っているって夫が言っていたわよ?」
そんな話をしてきた彼女は、どうやら色々と冒険者を対象にしている騎士が旦那様らしく最近になってよく話を聞くようになったそう。
ちなみに冒険者を対象にするといっても本当に色々と職務があるが、主に犯罪に手を染めた元冒険者を追ったりしたりしているようね。
始まりはそんなたわいもない会話だったのだけれど、それに食いつて来たのが貴族夫人グループだった。
貴族が冒険者を囲い込んでフィールドなりダンジョンなりで素材を狙うなんてよくある話。
冒険者を上手く使っている貴族家だとその稼ぎも馬鹿にならないので、女性の社交だからといって全く関係のない話ではない。
むしろ武闘系の家だとよく出る話題でもあるので、社交に長けている貴族夫人だとその辺りの話にもよく食いついて来るのは珍しくもないのよね。
「それは素晴らしいですね。どうでしょう。アンネリには王都にいる間だけでも是非学園で講師などされてみては? 有名なクランにいる元貴族というだけで話を聞く価値はあるでしょう」
そう言った彼女の認識では、既に私が元貴族になっているらしい。
今のところ実家から貴族籍から外したという話は一切来ていないのでそんな事実はないのだけれど、恐らくキラと一緒になった(と思い込んでいる)ことで外されたと思い込んでいるのでしょうね。
別に訂正するつもりもないのでそれはそれで構わないのだけれど、問題は彼女が提案した内容ね。
何やらちょっとした悪意も混ぜ込んで夫人グループが盛り上がっているのを見ると、どうやら本気で臨時講師の話をねじ込む気になっているらしい。
「お待ちください。いくら有名なクランにいるといっても、その程度のことで学園で講師などできるはずもないのでは?」
「あら。それは問題ありませんわ。私のお知り合いには学園の理事もいらっしゃいます。学生のためにもなるので、話をすれば喜んで籍を用意してくれると思います」
それはどう考えても貴族のごり押しだろうと思ったけれど、ここでそんなことを言っても仕方ないことはよくわかっている。
そう言った彼女にしてみれば、学園の講師ができるのだから名誉だろうという認識しかないはずなのでここで反論しても意味はない。
それに、私にとっても彼女(たち?)からの提案は渡りに船なところがあった。
こちらから学園の講師をしたいと言っても受けてくれる可能性はゼロに近いけれど、貴族夫人たちが動いてくれるのであれば実現する可能性は高くなる。
何故学園の講師をしようと考えたのかは、それがキラの望みの一つに叶うと考えたから。
今のキラは古文書関係の調査に一生懸命になっているけれど、それと並行して主に冒険者たちの戦闘能力を上げようとしている。
サポーター制度の確立もその一つだということは、トムをチームに受け入れる前から考えなのだから。
私が学園の講師を務めることができるということは、その目的を叶えるための手段となりえるだろうと思う。
問題があるとすればノスフィン王国限定で講師をすることによって各国のバランスが崩れる可能性があることだけれど、そこまで難しい講義をするつもりはないから大丈夫でしょう。
私が考え込んでいるのをどう断ろうかと悩んでいるのかと勘違いしたのか、何故か貴族夫人のグループの一人が少しにやけながらさらに勧めて来た。
「折角の御好意なのですからやられてみてはいかがでしょうか。私も及ばずながら力添えいたしますわ。わたくしたちの母校のためですもの」
ここで意外だったのだが、何故か侯爵夫人が話の流れを断ち切ろうと立ち回ったことね。
もしかすると彼女は、侯爵からある程度キラの立場がどういうものなのかを耳に入れているのかもしれません。
そうでなければ、ここで私が断りやすくなるような言い回しをするとは思えなかったから。
とはいえ私にも先ほどのような考えがあったので、素直に頷くことにしたわ。
「――そうですね。もし皆様の力添えがあって、学園から正式に依頼があれば受けてみるのもいいかも知れません。ただしあくまでも学園側と私たちの都合が合えばの話ですが」
私がそう答えたのが意外だったのか、侯爵夫人が一瞬驚いた顔になっていたのが印象的だった。
ただし周りにいたほかの面々は、そんな彼女の様子に気付かずにやんややんやと盛り上がっていたけれど。
もっともヘッダやジョエルは私の答えに驚きつつも、しっかりと侯爵夫人の様子にも気付いているようだったわね。
とにかく既に答えは出してしまったので、いくら侯爵夫人が何かを言ったとしても止められることはないでしょう。
もっとも彼女がその立場を使って本気で止めれば止めることもできるでしょうが、そんなそぶりは見せていなかったわ。
私としては少し独断で動きすぎたと思ったけれど、この程度ならキラから何かを言われることもないでしょうと考えていた。
実際その予想は当たることになるのだけれど、このときはどんな講義をしようかということで頭がいっぱいになっていた。
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