(15)お茶会の始まり

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 < Side:アンネリ >

 

 キラから魔導紙をもらってから五日後、私はジョエルからお茶会に招待されて出席していた。

 ジョエルは子爵家の第一夫人として嫁いで、私たちの仲間内では一番の出世頭といえるわ。

 でもその分色々と大変なこともあるのだろうということは、今回のことを考えてもよくわかる。

 呼ばれたお茶会に出席しているのは、ジョエルを含めて十人になる。

 私はジョエルとヘッダと同じテーブルに座ることになっているけれど、残りの二つのテーブルには三人と四人に別れて座っていた。

 その内四人のテーブルには、学生時代あまり付き合いが深くはなかった高位貴族家夫人たちが時折何やら意味ありげな視線をこちらに向けてきていた。

 

 その四人の面子を見ただけで、夫人としての役割も大変なんだろうなとジョエルに同情的になってしまうわ。

 逆の意味でキラという好きなことをさせてくれる人物と出会うことができた私は、かなりの幸運だったと思わざるを得ない。

 勿論、学生時代からの恋愛をして結婚をした今でも幸せな家庭を築けているとは聞いているので、今のジョエルが不幸だとは思ってはいないけれど。

 私とジョエルでは幸せを求める方向性が違うので、比べること自体が間違っているのかもしれないわね。

 

 そんなことを考えながら出された紅茶を一口口に含むと、学生時代と変わっていない微笑みを浮かべながらジョエルが話しかけて来た。

「――学園を卒業してからほとんど会う機会もありませんでしたが、全く変わっていない……どころか、むしろ今の方が充実しているように見えますね」

「そうですか? 確かに今のほうが充実しているのは間違いないでしょうね。おかげさまで好きなことを好きなだけ出来ていますから」

 これが本当に私的な場でジョエルはヘッダしかいないのであれば口調もいつも通りでいいのだけれど、今は周囲に別の方々がいるのでそれは出来ない。

 ジョエルもそのことは分かっているので、少なくとも表向きはそれが当然だという態度で受け止めているようね。

「それはいいですね。好きなことというと、やはり魔法関係のことでしょうか?」

「それも勿論ですが、やはり一緒にいて楽しいと思える方と過ごすことができて充実しているのですよ」

 少しばかり気恥ずかしい気もしたけれど、敢えて惚気っぽいことを口にして見た。

 こんなことをはっきりと口に出せるのは、すぐ傍にキラがいないからこそね。影ながらに眷属が守ってくれているけれど、これくらいのことは隠してくれるでしょうし。

 

 心の中に恥ずかしい思いを隠しつつ言葉にした甲斐があったのか、ジョエルが右手で口元を隠しながら「まあ!」と言いながら目をキラキラとさせていたわね。

「あなたがそんなことを言うなんて! 本当に幸せそうで良かった」

「ありがとうございます」

「それにしても好きなことというのは、相変わらず魔法関係ですか?」

「そうですね。冒険者としてもそれなりにやれていますし、研究も色々と進めることができていますわ」

「それは良かったですね。――それにしても、宰相様からアンネリがとある魔法を授かったという話をお聞きしたのですが、間違いないのでしょうか?」

 

 ジョエルがそう言った瞬間、それぞれに話をしていた別の二つのテーブルで静まったことがわかった。

 こうした場でお目当てのテーブルでどんな会話がされているのか、聞き耳を立てることはある意味では貴族令嬢としては必須の技能ともいえるわ。

 ましてや自分でいうのもなんだけれど、今回の皆の目的が私だということは分かり切っているのでこうなることも織り込み済み。

 ジョエルもそれが分かっているからこそ、敢えて今このタイミングでこの話題を出したのでしょうね。

 

 最初からこうなることは分かっていたので、特に動揺することもなく素直に頷き返すことができたわ。

「ええ。何の因果か、私のお相手が城の禁書庫から託されたようで、何故か私のところに来ました。今は頑張って読み解いている最中ですわ」

「それは良かった……と言っておくべきでしょうね」

 何とも微妙な顔でそう言ってきたのは、これから起こる面倒事を知ってのことなのか。

 その予想が当たるように、別テーブルで大人しく座っていたとある貴族夫人がわざとらしく驚いたような表情を浮かべながらこちらを見て言ってこう言ってきたわ。

「まあ! それは素晴らしいですね! 是非とも我が国に貢献すべく、覚えられた魔法は公開すべきでしょう!」

「それはいいですね!」


 同じテーブルに座っている別の夫人がそう答えていましたが、他のテーブルに座っている令嬢が皆同じことを考えているかは別でしょうね。

 ……ジョエルと同じように既に結婚している者がほとんどなので、令嬢と言っていいのかは別問題として。

 魔法使いが自らの切り札となる魔法を弟子となる者以外に秘匿することは、ごく当たり前の常識なのに『国の貢献』を盾にそれを破ることを言いだすのは少し問題があるわね。

 ましてや件の令嬢、もとい夫人は、国家の根幹をなしている貴族家の夫人だけにそれなりに影響があるので、あまり公の場で口にしていいことではないことは確かでしょう。

 

 私がいることで何かしらの成果を持ち帰りたいからこそ口走ってしまったのかはわかりませんが、件の夫人は魔法関係には詳しくない方なので仕方ないともいえるわ。

 もっともそれを狙って周りの者たちが敢えて何も言っていないということもあるのでしょうね。

 それくらいのことは、学生時代からこうした社交を繰り返してきた貴族令嬢なら出来て当たり前のこと。

 そうしたやり取りに嫌気がさして冒険者を目指した私が言えるようなことではないけれど。

 

 とはいえ既に賽は投げられてしまっているので、こちらが何かしらの答えを示さなければいけないわね。

「残念ながら魔導書由来の魔法ですので、他人にお伝えすることは出来ません。このことは既に宰相様もご確認済みのことですわ」

「なんてこと! それでは国に貢献するおつもりがないということでしょうか」

 自分にとって都合の悪いことが耳に入ってこないということはよくある事。

 きちんと宰相の名前を出してまで断ったのに、それを無視してさらに突っ込んできたわね。

「仕方ありませんわ。魔導書が思い通りにいかない存在ということは、魔法に携わる者なら皆がご存じのことです。どういわれても私にはどうすることもできないことは、高位魔法使いの皆さまなら分かってくださることです」

「そうは仰いますが……」

 さらに言いつのろうとした件の夫人でしたが、これ以上はまずいと判断したのか同じテーブルに座る侯爵夫人(予定)がそれを止めたわね。

 ちなみに(予定)なのは、彼女の夫はほぼ間違いなく次代の侯爵で今はまだ受け継いでいないから……と事前にヘッダから教えてもらっている。

 

 件の夫人と侯爵夫人の行動が既に予定済みのものだったことかは分からない。

 けれど一応こちらをかばった世に見える侯爵夫人が『あちら側』であることは間違いない。

 それを踏まえたうえで今後どういう展開になるのか予想をしたうえで対処をしなくてはいけないのだけれど、正直言って今のところこの先何を言われるのかは分からない。

 あちらの目的はどうにかユグホウラに繋がるを手に入れれば万々歳と言ったところだろうか。

 

 お茶会はまだまだ始まったばかりで気を抜くことは出来ないけれど、出来る限り折角会えた友人との会話を楽しむつもりでいる。

 ……と思ってはいるけれど、夫人テーブルの様子を見る限りでは残念ながら無理なのでしょうね。




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m(__)m

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