(13)作成者
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宰相が帰ってから一時間もせずに、ホームからアイがやってきた。
要件は先に伝えているので、姿を見せるなりすぐに魔導紙を見せて欲しいと要求された。
アンネリもユグホウラでのアイの役割は良く知っているので、言われたとおりに魔導紙を渡……そうとしたところで問題が発生した。
アンネリが差し出した紙をアイが受け取ろうとしたところで、小さくパチリという音がして弾かれてしまったのだ。
「だ、大丈夫……!?」
不安な顔になって問いかけたアンネリに対して、アイは右手をひらひらさせながら頷いていた。
「大丈夫。こうなるかもと予想していたから、ちゃんと対策はしていた」
「そ、そうなの?」
「魔導書を扱うとなるとそれくらいの用意をするのは当然」
顔色を変えずにそんなことを言ってきたアイに、さすがと思うと同時に魔導書の存在を知っていたことに首を傾げた。
少なくとも一周目の時には、ユグホウラで魔導書を取り扱っていたという記憶はない。
アイが黙っていたということもあり得なくはないけれど、隠す理由が思い当らなかったので不思議だった。
そんな俺に対して、アイは何ということはないという感じでこう言ってきた。
「ご主人様。ご主人様は勘違いされていると思うけれど、ホームにある書籍はほとんどが魔導書」
「ホームにある書籍って……あ、そうか。ハウスから取り寄せた図鑑とか参考書とかか。あれ、魔導書扱いだったんだ」
「そう。だから許された人しか閲覧できないようになっている」
ここで言われて初めて気づいたのだけれど、ユグホウラがまだユグホウラを名乗る前からハウスのショップ経由で取り寄せていたほんの数々は、どうもこちらでは魔導書扱いになるらしい。
考えてみれば書かれている内容があちらの世界の技術のものもあるわけで、運営が規制をかけるのも当然と思える。
むしろそのことに今まで気づいていなかった自分が悪いのだろう。
――そこまで考えたところで、他のプレイヤーはその事実に気付いていたのかどうかがきになった。
俺の場合は一周目が人外系で人族との関りが薄かったから気付けなかったけれど、最初から人族と関わりがあったプレイヤーはこのことに気付いていたと思われる。……だから何だと言われればそれまでだけれど。
アイが魔導書についてある程度の情報を持っているならそれに越したことはない。
アイの言葉に納得した俺を余所に、既に遠目から何やら確認を始めていた。
その様子を見ながらふと思いついたことがあって、つい言葉にしてしまった。
「――あれ? あれらの本が魔導書ってことは、もしかしてこの世界にある魔導書を用意したのって……そういうこと?」
「恐らく。全部が全部そうだとは限らないけれど、少なくとも今アンネリが持っているものを作った魔導書は間違いなく彼らが用意したもの」
「ああ~。なるほど。やっぱり中らずと雖も遠からずといった感じだったか。神様……と言っても間違いではないのかな?」
「彼らがそう呼ばれたがっているかどうかは別だけれど」
なんとも微妙な会話になってしまっているが、アンネリやアイリには運営の存在はある程度話しているので問題はない。
もっとも運営の目的が俺たちプレイヤーにあって、この世界がゲームのように見立てられていることまでは話していないのだけれど。
「作成者はともかくとして、この魔導紙は他の人が読むことは可能なのかな?」
「恐らく無理。アンネリが読み終わってからじゃないと正確なところは分からないけれど……期待しない方がいい。それにどうせ覚えられる魔法はアンネリ専用」
「おっと。個人専用魔法なんてあるんだ」
「現象として同じものに見える魔法は作って使うことができるけれど、あくまでもこの魔導紙が教えている魔法はアンネリだけが使える」
「なるほどね。それにしても、そんなことまでわかるんだ」
「これくらいだったら別にそこまで難しい話じゃない。武器防具の使用者登録と同じようなものだから」
「そっか。そう言われると納得できるな。――とにかく、この魔導紙で覚えられる魔法はアンネリ専用だってさ。よかったね」
「良かった……のかな? なんか、話が大きすぎて実感が沸かないんだけれど?」
「別にそこまで難しく考える必要はないと思うけれどね。新しい魔法が覚えられてラッキーくらいに考えていればいいと思うよ。デメリットみたいなのは特にないみたいだし」
アイは特に口にしていないが、その様子からも魔導紙を読み込んだ際にデメリットが発生するようには感じなかった。
その予想が正しかったのか、アイもその言葉を聞いて頷いていた。
あとはどんなことが書かれているかになるけれど、これに関してはアンネリが解読していくのをじっくりと待つしかない。
アンネリも新しい手札を欲しがっていたので、丁度良かったのかもしれない。
アイのお陰で魔導紙を読み進める分には問題が無いことはわかった。
それはいいとして、もう一つの問題についてはまだ話が進んでいるはずなので、それについて確認することにした。
「魔法紙に関してはアンネリに頑張ってもらうとして、社交についてはどうなりそうかわかる?」
「それね。宰相様はあんなことを言っていたけれど、実際のところどうなっているかは私にも分からないのよ」
「あら。まだ向こうさんから何もアクションはないんだ」
「そうね。宰相様がどういう返事をしたのかは分からないけれど、少なくとも止めることはないと思うわ。だとするとそろそろ答えが来てもおかしくはない……と思うわ」
「そっか。どちらにしても待ちなのは変わらないということだね。正直なところ友好を深めたいというんだったら、普通に呼んでもらえればいいと思うのだけれど」
「そうもいかないのが貴族の面ど……複雑なところよね」
思わず本音を言いかけたアンネリが言葉を選んで言い換えたのはいいけれど、あまりいい方向に変わっているようには聞こえたなかった。
「この国にいる友人たちとどう付き合っていくのかはアンネリに任せるけれど、変に悩んだりしないできちんと相談にのってね。俺に相談しにくかったらアイリもいるんだし」
「その通りですわ。キラ様に言うべきかどうか迷った時には、まずは私に話をしてください。一緒に考えましょう。私もヒノモトに戻った時には同じように悩むことがあると思いますから」
「そうね。そう言ってくれるとありがたいわ。……正直なところ友人を切り捨てたくはないけれど、必要があることも頭の中に入れておく必要があると考えているのよ」
「そこまで極端なことにはならないと思うけれどね。とにかく変に自分だけで決めつけるんじゃなくて、まずは話をしてくれるとありがたいかな」
この先何が起こるか予測することなんて不可能だけれど、少なくともアンネリができる限り余計な思いを抱えなくとも済むようにしておきたい。
ノスフィン王国に限らず国家に対して妥協するつもりがない俺が言うことではないことかもしれないけれど、できる限りアンネリにおんぶに抱っこという状態にはなりたくはない。
一応アンネリにも伝わっているとは思うので、あとは彼女自身の判断になってしまうのが心苦しいとは思うのだけれど。
ただ一つの国を優遇してしまえば後から後から要求が来るのはわかり切っているので、変な妥協はすることができない。
この辺りは矛盾していると言われればそれまでだけれど、相手が人族が運営する国家なのでどうしても仕方ないところはある。
そう割り切った上で、あとはどうするべきかその時々で判断していくしかないだろう。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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