(12)魔導紙

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 予定では禁書庫での調査を終えたらそのままどこかの店に外食しに行こうかと話をしていたのだけれど、宰相を連れ帰ってきたことでアンネリが驚いていた。

 午前中に禁書庫であったことを話すとさらに驚いていたのだが。

 とにかく魔導書から渡された魔導紙をアンネリに渡してミッション達成になる。

 魔導紙を恐る恐る受け取ったアンネリだったが、それにじれたかのように紙が勝手に動き出して彼女の手の中に納まっていた。

 それと同時に何かが起こると皆が身構えていたのだが、特に大きな変化はなく全員で頭の上に「?」マークを浮かべていた。

 あまりに変化がないので魔導紙を受け取ったアンネリが思わずといった感じで紙を覗き込むと、「あっ」と短く声を上げていた。


「――何かあった?」

「何かというか、これ読めるみたい。キラは読めなかったのよね?」

「そうだね。ただの真っ白い紙だったよ。アンネリが読めるということは、やっぱり魔法の何かしらが書かれているのかな?」

「ちょっと待ってね。――うん。そうみたい。パッと見た感じ分かるのは、水に関する魔法が書かれているみたいね」

「なるほどね。アンネリらしいといえばアンネリらしいのかな?」

 アンネリの得意魔法は水系統なので、魔導書からそちら方面の魔法を託されたというのも納得できる。

 

「具体的にどんな魔法が書かれているのかね?」

 宰相のその問いにアンネリがこちらをチラリと見て来たので、隠し事はしなくてもいいという意味で頷き返しておいた。

「どんなと言われても困るのですが、正直なところ今の私では難しくて答えづらいとしか言いようがありません」

「む。それは、解読に時間がかかるということか」

「そうですね。障りの表面的なところだけお教えしても意味がないですよね?」

「確かにな。しかし、それほど難しいのか」

「はい。もう少し細かくいえば、お母様のような一流の魔法使いが使う魔法は、細かく説明されても誰も使うことができない――そういう魔法ばかりが複数書かれているという感じですね」

「なるほど。しかしその一枚の紙に複数の魔法が書かれているのか」

「そこは魔導書から発生している不思議の一つでしょうね。どうも見た感じだけの文量が読み取れるわけではないようです」


 アンネリは魔導書の不思議と称したけれど、魔導書が渡してきた魔導紙には下手をすると普通のB5ノートにびっしりと細かい字で書いた場合で十ページ以上の量が書かれているように見えるそうだ。

 何度も不思議な現象だが、実際そう見えるのだから変に勘繰っても仕方ないのだろう。

 もしかするとアイ辺りに聞くと答えが返って来るかも知れないが、それは後から確認することになるだろう。

 実際に護衛役として着いて来ていたラックに呼びに行ってもらっているので、宰相が返った後に確認してもらうつもりでいる。

 

 そんなことを考えていると思考を読み取ったわけではないだろうが、宰相がこちらを見ながらこう聞いてきた。

「今の技術でこれだけのものを作ることができると思うか?」

「どうでしょうね。私も詳しく把握しているわけではありませんのではっきりとは答えられません。ですが少なくとも一般に流通しているわけではないでしょう。それは宰相の方が詳しいのではありませんか?」

「確かにな。わが国ではそうだろうが……どうかという意味だったのだが」

 恐らくわざとユグホウラの事情を直接聞いてきた宰相に、俺は首を左右に振って返した。

「あそこは魔物の集団ですからね。そもそも紙で知識のやり取りをすること自体が少ないですよ。勿論人族とのやり取りもしているので皆無というわけではありませんが」

「……そうか」

「人族ほどに短命で世代の交代が早ければ知識の保存という意味での書籍化もあるのでしょうけれど。もっとも、今後どうなるかはわかりませんよ」

「なるほど。人族――いや。短命といわれるヒューマンだからこその知識の保存か」


 平均寿命が六十台と短いこの世界で生きるヒューマンは、とにかく知識の断絶が起こりがちになる。

 そのためにも何らかの形での知識の保存は必要になり、それが今は紙を束ねて作った本という形で生きているということになる。

 もし技術が発達して前の世界のように電子化することができればまた変わって来るのだろうが、魔法がある世界だけにまた別の形で保管されるようになってもおかしくはない。

 いずれにしても、知識の保存はヒューマンにとっては永遠の課題と言えるのかもしれない。

 

「まあ、知識の伝達云々はともかくとして、魔導書から託された魔法についてはまだまだ不明な点が多いか」

「そうなりますね。ただ魔法を伝えられるかどうかはわかりません」

「うん? どういうことだ?」

 アンネリの答えを聞いて、宰相が目を細めながら聞いていた。

「魔法使いとしての権利もありますが、そもそも限られた人にしか伝わらないようになっている……ように見えます」

「え、そうなの!?」

「うん。さらっと見た感じだから何とも言えないけれど、恐らく。変な期待されるよりも先に知らせておいたほうがいいと考えていま伝えておきました」

「それは……魔導書と同じ扱いということか」

 アンネリの言葉を信じたのかどうかは分からないが、宰相はそう言いながら大きくため息をついていた。

 

 アンネリの意っていることが本当だとして、魔導書自体が人を選んでいることを考えれば託した魔法自体もまた同じことになっていても不思議ではない。

 もしかすると条件を満たした人族だけ覚えられるようになっているとか、何かしらのキーのようなものが設定されているのかもしれない。

 

「――できれば何か分かった時点で教えて欲しいところだが……」

「話を聞く限りでは魔法に関することは秘匿されそうですが、それ以外で分かったことがあればお伝えしますよ。それが禁書庫を調べる上での条件でしたし」

「うむ。それは有難いな。魔法に関してはどうすることもできないか」

「それを狙うのであれば、それこそ魔導書自体をどうにかするしかないでしょうね。私なら手を出すのは止めておきますが」

「確かにな。私もわざわざ藪に手を突っ込むつもりはない」

 

 流石に長年魔導書を管理してきた国の宰相だけあって、その辺りの匙加減は心得ているらしい。

 そんな宰相は魔導書から託された魔法への未練を断ち切ったのか、少しだけ表情を変えてから改めてアンネリを見て言った。

 

「その魔法のことは置いておくとして、そなた自身も中々に面倒なことになっているようだぞ。今回の件で私と繋がりがあることも知られてしまったようだしな」

「それは……仕方ないでしょう。一応『次』の用意がるという話は聞いておりますが、それもどうなるかわかりませんから。ただ、最低でも一度は参加しないと駄目だと考えております」

「やれやれ。普通の貴族令嬢だと一度と言わず、毎日でも開催してほしいとねだるものなのだがな。そなたの立場を考えればそうなるのも仕方ないか」

「宰相殿。もし私から何かしらの優遇を狙っているのであれば、それは的外れとしか言えません」

「そうだろうな。私も無理してとは思わない。以前のこともあって、陛下から何度も釘を刺されているからな。私が直接動くことはない」

「そのお言葉がもらえただけでも十分です」


 ノスフィン王国においては国王に次いで力があると言われている宰相だけに、その言葉の重みはさすがというべきものがあった。

 それを証明するかのように、普段近しい場所にいるからこそアンネリが内心で安堵していることがよくわかった。

 それを口にすることなくお互いに適当な探りを入れながらも今後間違いなく発生するであろうアンネリの社交に関しては、あまり深い話をすることなく終わることになった。




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m(__)m

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