(11)魔導書

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 周辺からは浮いて見えるその魔導書らしき本は、こちらが近づけば近づくほど自己主張するように視線を強めていた。

 もっともその魔導書から感じる視線は俺だけで、アイリ、宰相、司書の三人は全く分からないらしい。

 そして手を伸ばせば完全に触れるところまで近づいた時になって、その魔導書に大きな変化が起こった。

 具体的にいえば、数秒間隔で白い光で点滅し始めたのだ。

 その光を見ているとモールス信号のようだなと感じるくらいに法則性がありそうだったが、勿論そんなものを知っているはずもなく魔導書が何かを言いたいのか分かるはずもなかった。

 ……と言いたいところだったのだが、その光の点滅が終わると同時に書類に挟まったまま開くことなくその魔導書から一枚の紙が引き抜かれていた。

 物理的に抜かれたならビリビリという音がするところだけれど、今回は音が無かったことから物理的に破られたものではないということが分かった。

 何となくその紙を受け取れと言われているような感じがしたので手を伸ばして触れてみると、すぐに魔導書の意図を感じ取ることができた。

 

「――なるほどね。そういうことか」

「何か分かったのか?」

 魔導書が完全に沈黙したのを見届けてから呟くと、宰相が興味深げな顔になってそう聞いてきた。

「ええ。幾つか。ですが、図らずも魔法の伝達方法の秘密がこれでわかりましたね」

「ということは、それは魔法の理論か何かが書かれているのか?」

「恐らくそうでしょうね。残念ながら私にはわかりませんが」

「……む? 魔導書がそなたに渡した物ではないのか?」

「残念ながら違いますね。これはアンネリに渡すようにと魔導書から言われました」

 魔導書から受け取った一枚の紙をひらひらさせながら言うと、他の面々は驚きを示したり納得を示したりと様々な反応を見せていた。

 

知性ある魔導書インテリジェンスブックが誰かに自らを託そうとすること自体は既に驚きの範疇にはない。

 問題なのは、第三者を介してその知識を託そうとしていることだろう。

 それだけ俺のことを魔導書が信用しているともいえなくもないけれど、その理由を知っているだけに口にすることは出来ない。

 魔導書は俺がプレイヤーだからこそ、魔法が記されているこの紙を託したのだから。

 

 当たり前だがこの紙自体もただの紙ではなく、魔導紙というか誰かに魔法を覚えさせるために使われる魔道具の一種になる。

 何も書かれていない魔法的に処理された紙のことも魔導紙と言ったりするため、そちらは魔法紙といって区別すべきかもしれないのだがそれは今考えるべきことではない。

 とにかく魔導書から託されたこの魔導紙は、アンネリに渡さなければならないことは確定している。

 それよりも今は驚きから覚めている宰相たちに別の事実を話した方が建設的だと思われる。

 

「魔導書の目的はともかくとして、これで突然発生的に魔法が発展してきた理由の一つはわかりましたね」

「む……? それはどういう……そうか。そなたは魔導書が魔法を伝える役割をしてきたと言いたいのだな?」

「そうですね。勿論、魔導書自体をどんな存在が作ったのかという問題は残りますが、少なくとも知識の断絶が起らなかった理由の一つであることには違いないでしょう」

「確かにな。その存在が神なのか、あるいは古代文明の魔法使いなのかは問題として残るが……そうか。この事実を知っているからこそ、教会の連中は神の存在にこだわるわけか」

「そもそも教会の崇めている神様は、人知の及ばない不可侵の存在なのか、もしくは過去に存在した超古代文明の生き残りだったのか。それも議論の一つとして上がるでしょうね」

「そうだな。……いや。連中にとってはどちらでも構わないと考えていそうだな」

「それもそうですね。ですが、それで人の心の安寧を図れるのであれば、それはそれでいいのではありませんか?」

「なるほど。そなたはそう考えるか」

「問題なのは神の存在を利用して勝手に動き始めることですが……いえ。それは私のようなものが考えることではありませんでしたね」


 少し余計なことまで話し過ぎたかと反省して、強引に話を終わらせることにした。

 宰相としてはもう少し話を聞きたそうにしていたが、それ以上を聞いて来ることはなかった。

 ここで雑談もどきの話をしたとして、それを本気にされたとしても困る。

 宰相もここで聞いた話をただの冗談の類だと聞き流すくらいの器の大きさはあるだろうけれど、立場上利用できるときにはいつでも利用してくるはずだ。

 

 魔導書を作った存在についてはそれこそ運営が用意したのではないかとも考えられるが、それをこの場で言うつもりはない。

 ある程度のことを話しているアイリは見当がついているかもしれないけれど、何も知らない体で話を聞いてくれている。

 あと問題があるとすれば魔導書がどんな魔法をアンネリに対して授けてくれたのかだけれど、こればかりは今すぐに知ることは出来ない。

 魔導書から渡された紙を見ても真っ白にしか見えないので、授けられた当人にしか見ることができないのだと思う。

 

「――それでその魔導書はすぐに渡すように言っているのか?」

「いいえ。確実に渡せば納得してくれるようですね。一応今日中に渡すつもりではあります。それよりも禁書庫に入る機会はそうそうないので、今のうちに調べられることは調べておきますよ」

「そうか。私は陛下に報告しなければならないが、時間はありそうだな」

「そうですね。そうそうこんな突発的な自体は起こらないと思うので、大丈夫だと思いますよ」


 当たり前のように国王へ報告すると言われたが、それは禁書庫に来た時から織り込み済みなので問題ない。

 むしろ禁書庫に入れてくれたお礼としてそれくらいの情報は渡してもいいと考えている。

 ついでにいえばアンネリがどんな魔法を授けられることになったのかまで知られることになりそうだけれど、それも含めて報告するつもりはある。

 ノスフィン王国が発端となった魔導書をしっかりと管理し続けてくれていたからこそ得られたものなので、それくらいのことは『お礼』の範疇に納まるだろう。

 

 俺の言葉を聞いて禁書庫から出て行った宰相を見送った後は、再び古い書物を色々と探し出す作業に戻った。

 もっとも書物探しといっても目的のものが明確に決まっているわけではないので、ほとんど雲をつかむような作業であるともいえる。

 それでもこれまで見たことが無い情報を知ることができたので、ネットゲームのバックグラウンド資料を見ているようで中々に面白かった。

 出来ればこの世界(星)の誕生に運営の関与がどこまであったのかなんかも知りたかったのだけれど、さすがにそこまで古い資料となると神話くらいしかなくどれが正しいかまでは特定できなかった。

 

 魔導書からアンネリへ渡す魔導紙を受け取ったあとは、一日かけて書庫内をウロウロと歩き回っていた。

 結果としては宰相と話をした内容以上のことは見つけることができなかったが、それでも得るものは幾つかあった。

 その成果のお陰かは分からないけれど、また禁書庫に入って調査する許可も得ることができたことは大きい。

 もしかするとまた魔導書なんかが反応してくれることを期待しているのかもしれないが、それはこちらにとっても利が大きいので特に問題とはならない。

 

 一度や二度の調査で目的のものが見つけることができるとは考えていなかったので、むしろ今回は大きな収穫があっただろう。

 あとはアンネリへ確実に魔導紙を渡せば今回のミッションはコンプリートとなる。

 そのためにわざわざ宰相が着いて来ているのだが、それはそれで意味のあることだと考えている。




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m(__)m

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