(10)禁書庫
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< Side:キラ >
アンネリの同級生の訪問から三日後、予定通りに王城での禁書確認が行われることになった。
王城にある禁書庫は、普段からしっかりと担当者がいて管理しているので何も宰相自ら出向く必要はないと思うのだけれど、この日もしっかりと本人が出てきて対応してくれている。
こちらとしても専門家といって間違いない宰相が直接対応してくれることに文句を言うつもりは一切ない。
それが例えこちらの行動を監視する目的があったとしても、だ。
古代から伝わる文献を調べたり、その結果を披露することくらいは別に大きな問題にはならない。
そんなことよりは、折角なので専門家にしっかりと分析してほしいと考えているくらいだ。
王城にある禁書庫には、色々な意味で王国にとって重要な書物類が保管されている。
建国当初から伝わる書物やかつてこの地にあった国や組織から受け継いだものなど、表に出せない類のものが多く存在している。
城にある図書室のさらに奥に用意されたその部屋はバスケットコートくらいの広さで、そこに設置された棚に書物類が無造作に置かれている。
そんな管理方法で大丈夫なのかと思わなくもなかったけれど、宰相曰く「あまり好き勝手に動かせないものもある」のだそうだ。
「――好き勝手に動かせない、ですか」
「禁書といっても様々でな。中にはそれこそ古代から伝わるという本格的な魔導書も存在している」
「ああ~。それはもしかしなくとも
「そうだ。少なくともそういう類のものだと言われている。そうした本たちは好みの場所というものがあるらしく、わざと雑多な場所に置かれていたりするんだよ」
何とも奇妙な話だが、山積みとなった本や書類の間に挟まれていないと不機嫌になるという魔導書まで存在しているそうだ。
過去から受け継いでいる保管方法をそのまま踏襲しているらしいが、実際に不機嫌になったらどうなるかは分からないらしいのだけれど。
過去には別の魔導書と思しき書籍を受け継いだ保管方法を無視しておいたところ、周りの書物に大きなダメージを与えてしまったという過去があるらしい。
結果として今ではしっかりと受け継いだ保管方法をしっかりと守って管理されているという。
「――それにしても、あなたであれば魔導書の一つや二つ、持っていてもおかしくはないと考えていたのですが?」
微妙に二人称を変えて来た宰相に、きちんと意図を理解したうえで肩をすくめながら答えた。
「別に不思議なことではないでしょう? ユグホウラが表立って支配している領域は、あくまでも人里離れた場所です。過去からの文献などほとんど持っておりませんよ」
「なるほど。エイリーク王国やヒノモトなどもあると思うのですがね」
「確かにそこなら見たいと言えば見せてくれるかもしれませんが――そもそもあるのかも確認していませんでしたね」
一周目の時は領域拡張のことで手一杯で、過去から伝わる文献なんかを調べたりしている時間はなかった。
それは眷属たちも同じだったはずなので、ヒノモトやエイリーク王国にある禁書なんてものを扱ったことはないはずだ。
そもそも過去から伝わる文献の存在など調べる必要はないと思い込んでいたということもあるのだけれど。
「……ふむ。ヒノモトのことは知らないが、エイリーク王国なら一つや二つあると聞いているが……今は関係ないか。一応注意だが、司書の言うことは聞くようにしてくれ」
「わかっていますよ。期限次第で周囲に影響を与える本なんか、知識もなしだと怖くて触れませんから」
「それが分かっているんだったら安心だ。私は席を外すが、後で話を聞かせてもらえるとありがたい」
「ええ。そのつもりで来ていますから問題ありませんよ」
流石にこの日は宰相がずっと付きっ切りになるわけではなく、細かい対応は禁書庫を管理している司書が対応することになっていた。
どのみちアイリと一緒に気になる書物を読み進める時間が必要なので、宰相がべったりとついている必要もない。
そんなわけで宰相とは一旦お別れで、紹介してもらった司書から色々と話を聞いた。
そのあとは各自注意をしながら文献漁り――ということになるはずだったのだけれど、そう簡単に事は進まなかった。
早速資料の一つでも手に取って調べようと目的の棚に手を伸ば――そうとしたところで、ふととある感覚に気が付いた。
その感覚は言葉にするのは難しいけれど、何となく周りから見られているときに感じる視線のようなものだった。
普通であればそんな視線など無視して歩き続ければいいのだが、さすがにこの禁書庫にいる中で感じる視線は無視することは出来ない。
当然ながらその視線を感じる方角は、アイリや案内役の司書がいる場所とは関係のないところから来ている。
そして、さてどうしたものかと数秒悩んでからすぐに決断をした。
「司書さん、すみません。今さっきで申し訳ないのですが、宰相に至急で連絡を取ってもらえないでしょうか?」
「それは構いませんが、どうかされましたか?」
「ほぼ間違いないと思いますが、恐らく何かの魔導書が反応しています。こっちに来いと呼ばれているような感じですね」
「すぐに手配いたします!」
俺の言葉を聞いた司書は、一気に顔色を青くしてから駆け出して行った。
その速さからも似たような状況は何度か起こっているのだと想像できた。
その場に残された俺はアイリと顔を見合わせてから、ほぼ同時にため息をついていた。
国王の下で国を支えている柱の一つである宰相は忙しくないわけはないのだけれど、司書が駆け出してから十五分と待たずに件の人物がやってきた。
「やれやれ。何かあると予想して今日は軽めの仕事にしていたのだが、どうやら当たっていたようだな」
「お騒がせいたします。……と、言いたいところですが、今回は完全にこちらも巻き込まれた側ですよ」
「そうだな。そういうことにしておこう。それで、呼ばれているということだったか?」
「ええ。もう少し細かくいえば呼ばれるというよりは見られているという感じですが」
「見られている、か。これはまた微妙な感じだな」
「本当に。これではっきりと呼ばれているのでしたらわかりやすいのですが」
「反応的には悩むところだが……結局のところはそなたがどうしたいのかではないか?」
「それでよろしいのですか?」
「それ以外にどういえる? 魔導書に関しては彼らの好きにさせるというのが保存し続けていくためのコツだ」
「そんなものですか」
国家の運営レベルで考えれば、俺のような輩に大切な魔導書に触らせるなどとんでもないとなるのはよくわかる。
だが魔導書の性格(?)のことを考えれば、この書庫にいれた時点で好きにさせるという方針なのだろう。
そもそもどんな魔導書が反応しているのか分からない以上、今から騒いでも仕方ないともいえる。
そんなことを考えつつも、宰相は黙ったまま笑っていたのでそれ以上は何も言わなかった。
宰相から許可を貰えている以上は、こちらが変に気を使う必要もない。
先ほどからずっと感じたままの視線も鬱陶しいので、さっさとこの異変をどうにかしたいという気持ちもある。
あちらがわざとらしく視線を感じさせて来るのであれば、こちらから近寄ってどう反応するかを確かめるのがいい。
そんなことを考えつつ少しずつ視線を感じる棚へと歩を進めると、やがて視線の主だと思われる書籍が収まっている棚の前にまで来た。
装丁すらされていないむき出しの紙の束に挟まれているその本は、恐らく何かの動物の皮で作られているであろう立派な背表紙で飾られていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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