(9)同級生
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< Side:ヘッダ >
久しぶりにアンネリとの会話を楽しんだその日の夕方には、別の邸宅を訪問した。
こちらの訪問は最初から予定されていたのもで、具体的にはしばらく仲間内では行方不明扱いになっていたアンネリの様子がどうだったかを話すことになっている。
そもそも数日前にアンネリの居場所を確定したのは、この邸宅にいるはずの私たちの同級生である。
彼女からの情報をもとに最近とある冒険者が貸し土地に作ったという拠点を訪ねてみれば、そこにアンネリがいたというわけだ。
久しぶりに会えた友人にテンションが上がってしまい、問題の冒険者に対して最初は失礼な態度を取ってしまったが後から考えれば冷や汗ものだったと思う。
当の本人は笑っていたが、アンネリから話を聞けば聞くほど軽々に扱っていい相手ではないということはすぐに理解できた。
今私の目の前にいるのはアンネリとの共通の友人で、レナル子爵家の当主夫人であるジョエルだ。
私たちの仲間内ではもっとも高い地位に就いている友人となるが、当人の気質はほとんど変わることなく基本的にはのほほんとした性格だ。
珍しいと言っていいのかは判断に悩むところだが、子爵との結婚は政略によるものではなく恋愛でのものになる。
もっとも両家同士の関係もあったのだろうが、当人同士が結婚前から恋愛関係にあったのはアンネリでも知っていることだ。
「――それで、どうでしたか?」
「ああ。いい意味で予想外の状況だったな」
「いい意味……。そうですか。幸せそうだったのですね」
ジョエルから頼まれた一番の確認事項が、今現在アンネリが幸せそうにしているかどうかということからどれほど大切な友人だと考えていることが分かる。
とはいえ私もそれは同じだったので、ジョエルのことをどうこう言うことは出来ないだろうが。
「ただ……な」
「何かございましたか?」
「当人は分かっていて言っているのだろうが、どうもやんごとなき状況にはまっているようでな。私たちも巻き込まれそうになったら国王の名を出せと言われた」
「それは……!?」
国王の名を出せと言われて驚かない貴族はいないだろう。
貴族家の当主夫人であるジョエルは、私以上にその意味を理解しているはずだ。
それだけこの国において、国王の名前を出せるということは身を守るという意味においては最高の盾になる。
逆にいえば今のアンネリはその名を使わなければならない、あるいはその名を出せる状況に身を置いているということになる。
話を聞いてどう判断したものかと悩むジョエルに、さらにアンネリから貰えた助言をすることにした。
「アンネリからの伝言だが、いきなりそんなことをしてもいいのかと悩むようであれば、宰相にお伺いを立ててみると良いとも言われたな。――ああ、そうだ。パーティのお誘いは断られてしまったぞ」
「そ、それは……!?」
「まあ、待て。慌てるな。なんでもパートナー予定の今の相方が、当日に宰相と会う予定になっているそうだ。出席に遅れることになるくらいだったら最初から出ない方がいいということだったぞ」
「それは……確かにそのほうがよろしいですね。――それにしても、宰相殿との予定ですか。アンネリの選んだという相手のことが益々気になってきますね」
「それも含めて、一度宰相に確認しろと言っていたな。正直なところ私には雲の上の話過ぎて、どこまで突っ込んでいいのかわからなかった」
「確かにそこまで言われてしまうとそうなるでしょうね。――わかりました。その助言に従って、私が確認してみましょう。確かにパーティ参加を断られたという理由がありますので、問題ないと思います」
「そうか。それなら頼む」
宰相とやり取りをしろと言われても私では手に余る話だったので、ジョエルが確約をしてくれてホッと一安心できた。
学園を卒業してから既に五年以上が経っている私たちだが、変わっていないところもあれば変わっているところもある。
今目の前にいて何やら考え込んでいる様子のジョエルは、私たちの中では一番変わっている……と思っていた。
子爵家の第一夫人という立場になったのだから当然だろう。
そんな考えは、久しぶりにアンネリに会って少し揺らいできていた。
立場が人を変える例としてジョエルを見て来たわたしだからこそ、同じようにアンネリも変わってきているのではないかと思えた。
人が時と立場によって変化すること自体はごく普通に起こることなので、アンネリの変化も当然だと思う。
ましてや当人が幸せそうで、変化自体も悪い方向に向かっているとは思えなかった。
だとするとそれこそジョエルのように、学生だった頃と違って立場が大きな(強い?)ものになっているのだと話の内容からも推測できる。
それが例のパートナーのお陰なのかせいなのかは、微妙なところだと思うが。
そんなことを考えていた私をジョエルがジッと見て来たことに気が付いて、ハッとしてから首を傾げた。
「何か問題でもあったのか?」
「いいえ、違いますよ。むしろ彼女と話をしていて問題でもありましたか? 何か考え込まれていたようですが」
「ああ、いや。お互いに変わっていないようで、変わって来ることもあるんだなと思っただけだ」
「それはそうでしょう。とはいえ、それぞれが持っている『想い』は変わっていない……と思いたいところですね」
「確かにな。ジョエルには既に子供がいるし、私もいずれはできるだろう。そうなるとやはり変わるべきところは変わるのだろうな」
「あらあら。確かに子供が出来れば色々と変わるでしょうが、だからといって過去の仲間を見捨てるような真似をするつもりは私にはありませんよ」
「そうだな。アンネリもそうだと願って……いや、違うか。アンネリこそ変わっていないのかもな。だからこそ今まで音信不通だったのだろう」
ほぼ確信を持ってそう言葉にすると、ジョエルも同じ認識を持ったのか力強く頷いていた。
気軽に宰相や国王の名前を出せる。それだけで、これまでの間に彼女の立場が大きく変わっていることはわかる。
そんな雲の上の者たちから妙に距離を置いているような立場に感じたのは気のせいだと思いたいところだが、恐らくあの時に感じたその感覚は間違いないとも考えている。
となると一体どういう状況に巻き込まれているのかと気になるところだが、そこを突っ込むとそれこそアンネリが懸念したように藪蛇に突っ込んだ状況になりかねない。
もっとも虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うが……正直なところ敢えて虎穴に入る必要はないとも思える。
「この数年で何があったのかはわかりませんが、今の状況を考えるに私たちは下手に突かないほうがいいようですね」
「うむ。ジョエルでもそう思うのか」
「勿論です。とはいえ今までのように連絡のやり取りすら無しというのや止めたいところですが……正直なところそれすらも難しいかも知れませんね」
「そこまでか?」
「ええ。もしかすると夫は何かを知っているかもしれませんが、私は何も知りません。彼は私とアンネリの関係も知っているので敢えて隠しているのだとすると……」
「確かにな。子爵がお前に隠し事をするとなると、それだけ大事だということは私にもわかる。――そこは学生時代から変わっていないようだな」
笑みを含ませながらそう言うと、ジョエルも同意するようにクスリと笑っていた。
とりあえず今後についてはジョエルが子爵と相談したうえで、アンネリからの助言もあったようにまずは宰相と連絡を取ってみることになった。
それから先については、正直なところ何も決まっていない。
パーティに関しても、いくらジョエルが嫁いだ家が子爵家だからといって早々簡単に開けるわけではない。
とにかくきちんと筋を通したうえで、無茶をするならその後でということで今回の話し合いは終わりとなった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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